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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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告げられぬ別れ

 


 日中の光は差し込まないが、病室の灯りはやわらかく、時間の流れを鈍らせていた。




 ベッドの上で、リリィとアイリスはいつものようにおしゃべりをしていた。



「もしさ、また二人でリボンやるなら…」


「また笑われるよ、私の手、鈍ってるかもしれないし」


「ううん、今度は一緒に笑うの」



 リリィの声はとても優しくて、未来の話をするだけで胸があたたかくなった。


 クスクスと笑い合い、肩を寄せる。


 その時だった。



 遠くから聞こえた、足音。



 コツ、コツ、と硬い靴底が床を打ち鳴らす。静かなはずの病棟に不釣り合いなほど、速く、乱れた足音。



「……何?」


 リリィが眉を寄せた。その直後、ドアの外から響いた重い音。



 順々に開かれていく扉、何かが近づいてくる。


 ただならぬ気配に、アイリスはベッドの端から身を起こした。



 そして――扉が開いた。


 そこに立っていたのは、無機質な白衣の職員たちではなかった。

 全身を黒衣で包み、顔にはガスマスクを着けた者たち。

 何も言わず、ただ無言で、部屋へと一歩ずつ足を踏み入れてきた。


「リリィ、下がって……!」


 とっさに声を上げたアイリスの叫びも虚しく、そのうちの一人がリリィに近づき、白い布を口元に押し当てた。



「ッ……!」



 リリィは目を見開き、抵抗しようとしたが、その瞳はすぐに上を向き、ぐったりと身体が崩れ落ちる。



「やめて!! 触らないで、リリィを!!」


 アイリスは震える足で立ち上がり、突き飛ばそうとしたが、別の一人に押さえつけられ、同じように布を押し付けられた。




 薬品の匂いが鼻をつき、肺へと染み渡る。


「リリ……ィ……」



 視界がゆらぎ、世界が暗転する。



 最後に見えたのは、ぐったりと抱えられるリリィの身体。



 誰かの手が伸びてくる。それが温かいものなのか、冷たいものなのかすら、もう分からなかった。


 ――そして、全てが、黒く塗り潰された。

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