表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
74/123

まだ離さないで

 


「一緒に上を目指そうね。約束だよ。

 置いてったら泣いちゃうからね、絶対だよ。」




 それは、リリィの言葉だった。

 放課後の夕暮れ、夕陽に染まる体育館の隅で、汗ばんだ手をギュッと繋ぎながら、リリィは微笑って言った。



 その時、二人の間には確かな温もりがあった。

 心臓の鼓動が重なり合い、息遣いが溶け合っていた。

 その小さな約束が、世界のすべてに思えた。




 ──


 アイリス・アルベルティは、小さな頃から身体を動かすことが好きだった。


 跳ね回るように走り、泥だらけになって転び、笑いながらまた立ち上がるような少女だった。


 勉強なんてつまらない──そう思っていたが、両親の「勉強しなさい」という言葉を黙らせるために、彼女は成績すらも遊びのようにこなしていた。


 自由奔放で明るくて、けれど少しだけ不器用で。


 手芸の授業では糸を絡ませ、図工では筆を落とし、折り紙は二つ折りで終わる。


 そんな彼女が、ある日ふと、見つけてしまったのだ。




 体育館の片隅。

 淡い光が差し込む中で、ひときわ鮮やかなリボンが空を舞っていた。



 ──リリィ・ハートフィールド。



 体操部の中でもひときわ静かで、そして華やかな存在。



 透き通るような動き。

 タン、タタッ、と軽やかにステップを踏み、まるで風と踊るようにリボンを操る彼女に、アイリスは目を奪われた。



「……きれい」



 気がつけば、アイリスは体操部の見学届を出していた。



 実技経験ゼロ。柔軟もままならず、歩けばペンギン、跳ねればフラミンゴ、舞えば餌を乞うヒナ鳥。



 顧問の先生は溜息を漏らしたが、リリィだけは違った。


「ううん、大丈夫だよ。ほら、こうやって腕を回して──もっと体で感じてみて」



 そう言って、リリィはアイリスの背後に立ち、肌が触れるほどに寄り添って動きを教えてくれた。

 指先の温もりが伝わって、アイリスの心臓はバクバクとうるさく鳴った。


 垂れ目で、どこかおっとりしたリリィ。

 言葉遣いも丁寧で、所作には気品すら感じられた。

 でも何より、彼女はいつも優しく、笑っていた。


 やがて、アイリスの動きも少しずつ形になり始めた頃。


「一緒に上を目指そうね。約束だよ。」


 そう言って、リリィはいつものように笑った。


 その笑顔が、今も脳裏に焼きついて離れない──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ