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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
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 エドワードの部屋。静かな夜風が、少しだけ開けた窓から流れ込んでくる。


 クロエは黙ってカップを机に置いた。コーヒーの香りが、二人の間に広がる。



「……まさか、行かれるおつもりですか」


 声は平静だった。けれど、言葉の端にほんの微かに震えがあった。



 エドワードは、淡く微笑んだ。



「“名誉職”というやつだ。……大層な称号だろう?」



「ええ、華やかで結構です。表向きには、英雄扱いでしょうね。……実際には、弾除けにもならない“見送り”ですけれど」


 皮肉の効いたその言い方に、エドワードは苦笑いを漏らした。


「相変わらず、言葉の刃が鋭いな」


「お褒めに預かり光栄です。ですが、誰かが言わないと。あなたは、黙ってすべて飲み込む方ですから」


 少し間を空けてから、クロエは窓の方に視線を逸らした。

 そこには星も月もない、ただ黒いだけの夜空が広がっている。


「……戻ってきてください。命令でも、頼みでもありません。……私の、我儘です」


 エドワードは驚いたように目を見開いた。

 けれどすぐに、それが彼女なりの“本音”だと気づいて、そっと目を伏せた。


「約束しよう。――戻ったら、また君のコーヒーを淹れてもらおう」


「……その頃には、豆も底を尽きているかもしれませんね」


 そう言って、クロエはわずかに笑った。





 そのエドワードの手には軍広報から通達された新聞とエドワード宛の手紙。




『第4回 地上進出作戦』名誉指揮官にエドワード・クラウス大佐が任命された。

 本作戦は“第4型世代型神代兵器”と共に資源調達と旧区域奪還を兼ねた重要任務であり、

 大佐の功績と責任に鑑みて、この任を託すこととなった――



 新聞にも、街にも、その報せが流れた。

 誰もがそれを「名誉」として讃えた。

 だが、ほんの一握りの者だけが、それが「処刑」と同義であることを知っていた。

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