表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
72/123

遺託

 

 軍の決定は早かった。


 エドワードには事実上の“停職”が下され、次の処分まで施設への立ち入りを制限された。

 その“次”がいつなのか、誰も教えてはくれなかった。



 議会からの帰路。エドワードは言葉もなく、ただゆっくりと歩いていた。


 クロエもエリックも、無言のまま彼の背に従っていた。

 何かを言いたげで、それでも言えない沈黙。


 だが、エドワードの歩みに迷いはなかった。

 その足取りは、まるで“最期の旅支度”を始めた男のように、静かに、決然としていた。



 ───




 まずエドワードが向かったのは、シュトラウス准将の私室だった。


 彼はドアをノックせずに開け、そして開口一番こう言った。


「……残りの貸しを、すべて返してもらいに来た」


 老将は目を細め、冗談のように肩をすくめた。


「まるで遺言のような顔じゃないか。で?何を望む?」


 エドワードは真っ直ぐに言った。


「聖女たちの健康調整期間を延長させてくれ。あと一週間、それだけあれば、リネットを中心とした健康状態の見直しと再起動手順が組める。……これは誰からの命令でもなく、私からの“頼み”だ」


「……ならば聞こう。何と引き換えに?」


「私の命を。どうせ私はもう、軍にとって都合のいい“生贄”だろう?ならその価値、使い切ってもらわないと」


 シュトラウスはしばらく目を閉じた。

 やがて、机の上の指輪のような銀時計を手に取ると、それをぽんと投げてよこした。


「……それを見せれば、軍医も保健連中は動くだろう。

 君がどこへ向かうかは……もう、言うまい」



 ───




 人気のない深夜の白い廊下にて、エドワードはエリックと並んで歩いていた。


「エリック。お前にしか頼めない」


「……何をです?」


「聖女の“記録”だ。彼女の採血量、体調の変化、言葉、笑い声、眠たそうな顔――すべてだ。……“人間”としての、記録を残してくれ」


「……まさか、あんた……!」


「このまま消えていくことが“最も軍に都合がいい”なら、それを利用しよう。

 その代わりに、何かを残すんだ。

 お前には、それができる。俺にはもう……できない」


「ふざけるな……! あんたが、あんたが残るべきだろ……!」


「俺では“変えられない”ことが、もう分かった。

 でも、お前にはまだ、“変えようとする力”が残ってる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ