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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
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議題

 

「本査問会は、以下の内容を対象とする。」


 聖女の定期採血の延期、および軍事命令への不服従の疑い


 上層部への報告義務の履行遅延


 組織内における情報統制を乱し、部隊秩序に影響を与えた可能性


 他資源に対する同様の“過保護的管理”の前歴の追及


 現場の職権逸脱行為について



 ライナーが言う。


「あなたは、軍に属しながら、軍の指針を曲げて聖女という“資源”を守ろうとした。――その行為は、軍の理念を私物化し、必要な成果と犠牲のバランスを歪めている」




 私は軽く笑って応じた。



「なるほど、では一つだけ問わせてほしい。“成果”とは、少女を酷使し血を搾り取り、ベッドに横たわらせることか?それとも、“犠牲”とは、命を未来へ繋がぬ者たちに浴びせる無意味な破壊のことを言うのか?」




「……我々は軍人だ、理想ではなく現実を扱っている」




「現実ならばこそ、見極める必要がある。あの子たちを“部品”にすれば一時的な出力は得られるだろう。だが、それは“使い捨て”の理論だ。私は違う道を模索している。それが罪なら、甘んじて問われよう」



 会議室に沈黙が落ちる。



 誰もが、エドワードの一言を受けて何を返すかを見守っていた。

 それは弁明というより、あまりに静かで確信的な“否定”だった。


 ライナーは小さく鼻を鳴らした。


「……綺麗事を並べるな。貴様の行為の本質は、軍規を無視した個人的な介入だ。判断の場で、全体よりも“個”を優先することがどれほどの危険か、軍人なら理解しているはずだ」



「理解しているとも。……だが、私はそれでも正しいと思っている」



「つまり、貴様は軍の構造そのものに異を唱えるというわけか」



「言葉にすればそうなるな。だが私の行為は、“一人の兵士の限界”に過ぎない。

 これは理念ではなく、目の前の少女の体温を感じた上での選択だ」


 ライナーが立ち上がり、拳で机を叩く。


「選択の結果が命令違反であり、軍の混乱を招いた! エリートという地位に胡坐をかいた独善だ!」




 その声に紛れて、傍聴席のクロエが立ち上がった。


「彼は命令違反ではなく、“現場の判断”を下しただけです!」


 警備が彼女に歩み寄り、着席を促すが、クロエは一歩も引かない。


「貴方たちは見ていないから、聖女たちの顔を。血を抜かれ、笑顔を作って…」


「着席を」


「それを“資源”と呼んで、無表情で報告書を作るだけの人間が、彼の何を裁けるんですか!」


 エリックが不安げにクロエの肩に手をかけるが、彼女の怒りは止まらない。



 ライナーは皮肉げに口元を歪めた。


「傍聴者が情緒を持ち込むとはな。……やはり“腐った果実”は大佐の周囲にも広がっているようだ」



 その言葉に、私ははっきりと眉を上げた。


「口を慎め、ライナー大佐」


「何?」



「腐った果実、か。……ならば、私がその根であることを認めよう。だがその果実が“腐っている”かどうか、貴方が決めることではない。決めるのは、この手で守った者たちの、未来だ」


 ライナーが何かを返す前に、議長の一人が立ち上がる。


「静粛に。……では、以上の発言をもって、本査問の一次審理は終了とする。後日、処分の可否と重度を決定する。退室を」





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