表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
67/123

繰り返される地獄

 


「第3世代型は、確か二百人近く投入されたと記憶している」

 私はゼファーに向き直って問うた。


「その後、どうなった?彼女達は――今、何人が生き残っている」


 ゼファーは肩をすくめ、残念そうな素振りを見せた。芝居じみた動作だった。

「そうだねぇ、実に残念だった。帰還したのは、十八体だ。あれさえなければ、もっと多くのデータも回収でき――」


「所長、口を滑らせないでください」

 遮ったのは、リーネだ。

 冷たい視線でゼファーを睨みつけると、彼女は私の方を振り返った。


「大佐、ご存知かもしれませんが……第3世代型の一部は、民衆の怒りの的となりました。軍の作戦失敗を覆い隠すための“犠牲”として」



 私は息を呑んだ。そうだ、それは知っている。

 いや、“誰もが”知っていた。噂では済まない、事実だった。あのとき、軍は沈黙した。誰一人、外出を命じられることはなかった。静まり返ったように、ただ嵐が過ぎるのを待っていた。


「まさか……死者が出たのか」



 リーネは頷き、手を広げた。五本の指、そしてもう一方の手で人差し指を重ね、静かに『六』を示した。



「ご明察です。六体が民衆によって――殺害されました」



「そうそう。嬲り殺しだったらしいよ」


 再びゼファーが言葉を挟む。

「男連中に回されてな。まるで玩具扱いだ。仮にも軍備品だってのに、まったく品がない」



「所長ッ」


 リーネが再び鋭く制止する。その声は震えていた。怒りではなく、哀しみを押し殺すような震えだった。




「――人数が足りない理由の一つは、自死です」

 リーネが語るよりも早く、セラが動いた。



 彼女は静かに傍に落ちていた細長い備品――おそらくはメンテナンス用の機材だろう――を手に取った。それをまるで銃のように構え、自らのこめかみに押し当てる。

 誰も止める暇もなく、彼女の腕がそこで止まった。引き金は存在しない。それでも、それだけで全てを語っていた。




「――必要ないとされた個体は、内部でも報告されることなく“処理”されました」

 リーネの声が低く、重く響いた。



 私は何も言えなかった。

 心の中に凍りついたような戦慄が走る。



 あれは終わったはずの話だった。だが違う。

 今また繰り返されようとしているのだ。

 地上を知らぬ少女たちが、何も知らぬまま戦場に送り出され、傷つき、壊れて、あるいは帰還さえ許されず――ただ“消費”される。



 私がこの施設を訪れたのは、軽い視察のつもりだった。

 だが今、確かに分かる。これは視察などではない。


 この場所に眠る現実を、私は噛み締めるように見つめながら、リーネの案内でフロアを後にした。



 後ろから、ゼファーの軽薄な声が聞こえてきたが、もはや耳に入れる気にもなれなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ