繰り返される地獄
「第3世代型は、確か二百人近く投入されたと記憶している」
私はゼファーに向き直って問うた。
「その後、どうなった?彼女達は――今、何人が生き残っている」
ゼファーは肩をすくめ、残念そうな素振りを見せた。芝居じみた動作だった。
「そうだねぇ、実に残念だった。帰還したのは、十八体だ。あれさえなければ、もっと多くのデータも回収でき――」
「所長、口を滑らせないでください」
遮ったのは、リーネだ。
冷たい視線でゼファーを睨みつけると、彼女は私の方を振り返った。
「大佐、ご存知かもしれませんが……第3世代型の一部は、民衆の怒りの的となりました。軍の作戦失敗を覆い隠すための“犠牲”として」
私は息を呑んだ。そうだ、それは知っている。
いや、“誰もが”知っていた。噂では済まない、事実だった。あのとき、軍は沈黙した。誰一人、外出を命じられることはなかった。静まり返ったように、ただ嵐が過ぎるのを待っていた。
「まさか……死者が出たのか」
リーネは頷き、手を広げた。五本の指、そしてもう一方の手で人差し指を重ね、静かに『六』を示した。
「ご明察です。六体が民衆によって――殺害されました」
「そうそう。嬲り殺しだったらしいよ」
再びゼファーが言葉を挟む。
「男連中に回されてな。まるで玩具扱いだ。仮にも軍備品だってのに、まったく品がない」
「所長ッ」
リーネが再び鋭く制止する。その声は震えていた。怒りではなく、哀しみを押し殺すような震えだった。
「――人数が足りない理由の一つは、自死です」
リーネが語るよりも早く、セラが動いた。
彼女は静かに傍に落ちていた細長い備品――おそらくはメンテナンス用の機材だろう――を手に取った。それをまるで銃のように構え、自らのこめかみに押し当てる。
誰も止める暇もなく、彼女の腕がそこで止まった。引き金は存在しない。それでも、それだけで全てを語っていた。
「――必要ないとされた個体は、内部でも報告されることなく“処理”されました」
リーネの声が低く、重く響いた。
私は何も言えなかった。
心の中に凍りついたような戦慄が走る。
あれは終わったはずの話だった。だが違う。
今また繰り返されようとしているのだ。
地上を知らぬ少女たちが、何も知らぬまま戦場に送り出され、傷つき、壊れて、あるいは帰還さえ許されず――ただ“消費”される。
私がこの施設を訪れたのは、軽い視察のつもりだった。
だが今、確かに分かる。これは視察などではない。
この場所に眠る現実を、私は噛み締めるように見つめながら、リーネの案内でフロアを後にした。
後ろから、ゼファーの軽薄な声が聞こえてきたが、もはや耳に入れる気にもなれなかった。




