科学技術棟・兵装研究フロア
内部のエレベーターが沈み込むように動き、短く揺れて停止した。
反対側の扉が静かに開き、ひやりとした空気が流れ込む。
リーネが一歩先に降りると、私に振り返り一礼する。
「こちらです、大佐。足元にお気をつけて」
そのまま私を先導するように、整備された金属の通路を進む。通路の柵の間からは、広大なフロアが見渡せた。
そこには、量産型神代兵器に関する武装ユニット、装甲パーツ、用途不明の巨大部品が無造作に並べられ、技術者たちが動き回っていた。
一部の床には設計図やパーツが広げられ、作業の合間に座り込んで議論している姿もある。
その中で、ひときわ目を引く一人の男の背中があった。
その中で、ひときわ目を引く一人の男の背中があった。
白衣の背中。
乱れた灰茶色の髪。
無精髭まじりの顎。
そしてその手元では、小さな部品が何度も回転され、分解され、組み立てられていた。
——この男、どこかで見た記憶がある。
「所長」
リーネが静かに呼びかける。
男は返事をしない。
「ここか……ふむ、こっちの角度が干渉してるんだな……」
部品を弄りながら、ぶつぶつと独り言を続けている。
リーネは軽くため息をつき、今度は声を強めた。
「所長、来客です。」
「ん、んあ? 誰だい、僕のことか? ……おおっ、リーネじゃないか!」
不意に顔を上げた男は、目の奥に少年のような無邪気さを宿した笑顔を浮かべる。
——やはり見覚えがあった。
この男、ゼファー・メイスナー所長。
元老院で行われた兵装会議にて、技術代表として出席していたはずだ。
「まったく……毎度のことながら反応が遅すぎます」
リーネが呆れたように呟くが、ゼファーはまるで意に介していない。
「今日は大佐が視察に来られています。予定を忘れていたわけではありませんよね?」
「えっ、大佐が? ……あっ、失礼失礼!」
ゼファーは慌てたように白衣の前を整え、こちらに向き直った。
「ゼファー・メイスナー。科学技術部門、兵装開発主任だ。お忙しい中、ようこそお越しくださいました、大佐」
「どうも。君があの“夢中になってしまうと世界を忘れる”所長か」
軽く口元を緩めて言えば、ゼファーは「はっはっは」と気の抜けた笑いを返した。
「えぇ、まぁ……いつも何かを弄ってるので、時間も空気も読みませんこの人は」
リーネの冷ややかな一言に、ゼファーは肩をすくめる。
「ところで、最新型について少し話を聞きたい。第4世代型の兵装と稼働効率について、ざっくり頼む」
「おっ、それならこちらへ。ちょうど調整中の試作機があるんです」
ゼファーは部品をそっと脇に置き、別の作業台へと足を運んだ。
その横には、試作中のフレームが立てかけられている。
未完成の外装からは、内部の複雑な配線と小型エンジンユニットがのぞいていた。
「第4世代型は、徹底的な軽量化と機動性を重視しています。腕部・脚部側面には新設計の推進ノズルを配置し、瞬間的な方向転換や回避行動を可能に。さらに、通信機器の性能も段違い。滞空時間も約1.8倍に伸びています」
「なるほど。機動重視か……だが、欠点は?」
「最大出力と最大速度が、第3世代型よりやや低下します。あくまで『瞬間的な対応力』に特化したタイプですね。一言で言えば、“ヒット・アンド・アウェイ”用の仕様です」
「では、旧型との比較は?」
「第3世代型は、高出力と高速度が強みです。それゆえ重装甲を装着し、前線と後方の輸送も兼ねられる——いわば万能型。ただし……」
「ただし?」
「その機動力を扱うには、パイロットへの負荷が高くなる。装甲の分だけ視界や柔軟性も失われますしね」
「第2世代型については——」
「おお、それならですね!」
ゼファーが急に乗り出してきた。
「第2世代型は第1世代の通信不足を補うため、巨大なヘッドギアを——」
「……わかった。わかったから」
私は手を上げて制止した。




