目覚め
リネットはびくりと体を震わせ、目を覚ました。
部屋は静かで、うっすらと朝の光が差し込んでいた。冷たいシーツが汗で湿っている。
「……また……」
そう、小さく呟いた。
この夢は、初めてではない。
思い出せないはずの記憶——知らないはずの空と大地、血と、叫びと、絶望。
それが、何度も、何度も、形を変えてリネットの眠りに現れる。
たとえ昼間に笑っていても。のんびりしていても。何も考えていないように見えても。
夜になり目を閉じれば、あの“空”が彼女を迎えに来るのだ。
手を見下ろす。夢の中で誰かに握られた感触が、未だに残っている気がする。
それが誰なのか、なぜその場にいたのか、何一つわからない。
ただ、あの手だけが、唯一温もりを持っていた。
でも、夢だ。現実じゃない。
そう、思い込まなければ眠ることすら怖くなる。
だからリネットは、この夢を誰にも話さない。
話してはいけない。口に出した瞬間、なにかが壊れてしまう気がする。
それに……もしこの夢が“記憶”なのだとしたら、
自分はどこから来て、何を見ていたのだろう?
答えはない。
ただ、また夜になれば、あの赤い空が、きっと自分を呼ぶのだ。




