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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
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リネットの悪夢



まどろみの中、リネットは、柔らかな風に頬を撫でられていた。

 鳥のさえずりが耳に心地よく、どこまでも澄んだ空には、ひとつ雲が浮かんでいた。



 彼女は幼い。


 今よりも背は低く、声もまだ幼子のようだった。

 だけど、その表情には安らぎがあった。手のひらには花を乗せて、緑の大地に腰を下ろし、のんびりとした時間を過ごしていた。



 風の音、木々のそよぎ、水のせせらぎ……楽園そのものだった。



 リネットは目を細め、微笑み、うとうととまぶたを閉じた。まるでその瞬間に包まれることが、永遠であるかのように。





 しかし——。




 まぶたを開けた瞬間、世界は音を立てて崩れ落ちていた。



空は血のように赤く、空気は焦げた金属の匂いと重油のような粘り気を帯びていた。

 土はひび割れ、草も木も存在しない。あたり一面、荒れ果てた大地が広がっていた。

 自分の体を見下ろすと、服は裂け、血と泥がこびりついている。傷が皮膚を裂き、痛みがじんじんと意識を包む。


「……なに……これ……」


 リネットは目を見開いたまま、口の中が乾いて言葉にならない。

 その時、空から怒声が降ってきた。


「敵影確認——!突撃!」


 無数の影が、空を飛ぶ。武装した人影たちが、鋭く咆哮を上げて宙を駆け、斜め前方にいる一人の人物に一斉に突撃していく。



 次の瞬間、閃光と爆音、そして……惨劇が始まった。




空中で人が割れた。




 真っ二つになった肉体がバラバラに落ちていく。

 手首、首、腰から胴が裂けた者たち。



 リネットはただ立ち尽くす。

 空から降ってくるのは、雨ではなく——人間の内臓だった。




 ぼとっ

 ぼたぼたっ


 ねっとりとした音が、土を打ち、肌に飛び散る。



 息ができない。恐怖で声も出ない。



 そして、その場に座り込んだリネットの手を、誰かがぎゅっと握る。


「——っ、!」


 顔を上げた。

 そこには、軍服を思わせる服を着た男がいた。顔ははっきりとは見えない。

けれど、その瞳だけが、かすかに光を宿していた。




 彼は、何も言わずにリネットを抱き上げ、そのまま走り出す。



 まるでこの惨劇から逃げるように。追われているように。



 彼の腕の中、リネットは頭を押さえつけられる。空を見るなということだろう。

 

しかし、それでも見えた。



 飛ぶ者たちの最後の瞬間。




 斬られ、裂け、打ち砕かれ、血の霧を撒きながら、静かに墜ちていく者たち。




 夢なのか。記憶なのか。



 幻想か、それともかつて経験した現実なのか。


リネットの心は震えた。

 彼女は、自分が“空を知っている”ということを、本能で理解していた。



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