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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
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危急の報告

 

 エリックは一瞬、息を整え、それでも口を開くまでに数秒かかった。


「……リネット・Sのバイタルに異常が出ている。」


 エドワードの手がピタリと止まる。


「眠っているが、脈拍が通常より低く、貧血の可能性がある。精神的ストレスか、採血の影響か……原因は断定できない。だが、一時的に採血を中止すべきかもしれない。」


 軍がそれを許すのか?そんなことは分かりきっている。


 エリックは、喉から次の言葉を吐き出そうとしたが、うまく声が出なかった。軍に反抗することの重みが、言葉を縛っている。


 エドワードは、そんなエリックを見てため息をつくと、机の端を軽く叩いた。


「エリック、座れ。お前の焦りはわかるが、まずは落ち着け。」



 エリックは歯を食いしばりながらも、椅子を引き、ゆっくりと腰を下ろした。


「お前の判断は正しい。……だが、それをそのまま軍に上申すのは無謀だ。」


「だったら……どうする?」


 エドワードは、書類の束を横に押しやると、ホログラムスクリーンを操作し、新しいデータを開いた。


「策を講じる。軍を説得するなら、それなりの『理由』が必要だ。」


「理由……?」


 エドワードは冷静に頷きながら、聖女たちの健康データの別の側面に目を向けた。


「もし、聖女が『健康な状態でなければ採血の効率が下がる』としたら……?」


「……?」



「軍は聖女たちを"利用価値のある資源"としてしか見ていない。ならば、"資源の持続可能性"を理由に、一時的な採血制限を申請できるかもしれない。」


 エリックは拳を握った。


 軍が聖女を"人間"として扱うことは期待できない。だが"利用価値"の観点からならば、動かせる可能性がある。


「……そんなロジックで通るのか?」


「通るかどうかは俺の腕次第だ。」


 エドワードは静かに微笑んだ。


「さて、エリック。お前はもう決めたんだろう?なら、最後まで筋を通せ。」


 エリックはエドワードを見据え、深く息を吐いた。


「……ああ。」


 彼の手の震えは、もう止まっていた。

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