表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
49/123

エリックの思案

 



 ……貧血か?


 エリックは眉をひそめ、ホログラムスクリーンのバイタルデータを見つめた。


「……心拍数が低いな」


 リネットの数値は、一般的な基準値よりも明らかに低下している。

 しかし、彼女の体質が元々そうなのか、それとも採血の影響なのか判断がつかない。


 一応、呼吸数や酸素飽和度には問題はない。

 だが、血圧も低めであり、全身倦怠感を訴えるもあるようだ。


 ――精神的ストレスの可能性も考えられる。


 採血による一時的な貧血、精神的な負担、あるいは……


 原因を特定するには、さらに詳細なデータが必要だが、それを調べる権限は自分にはない。

 軍が管理する聖女の健康データの深部には、より詳しい検査結果が記録されているはずだが、そこにアクセスできるのは更に特定の人物だけだ。


 エリックはスクリーンを睨みながら、低く息を吐いた。


「……くそ」


 リネットはまだ、ぐったりと机に突っ伏している。


 食事を進めるセリアとエルナも、時折心配そうに彼女を見つめている。

 特にセリアは、リネットの肩を揺すりながら、小さな声で呼びかけている。


「リネット、大丈夫?」

「ん……」


 リネットは微かに反応するが、目を開けることすら億劫なようだ。


 エルナが外出願いを頻繁に出していたことを思い出す。

 そのたびに採血量が増えていたのもデータ上では確認できる。


 だが、それが直接的な原因かどうかは、やはり不明だ。

 ただの憶測に過ぎない。


 ――だが、もし本当に採血の影響だとしたら?


「一時的に採血をやめさせる……?」


 無意識に口にした言葉に、自分で苦笑する。


 軍がそれを許すか?


 軍にとって聖女は「資源」だ。



 飼い殺して、本当に殺すような馬鹿な真似をするとは思いたくないが、上層部のやり方を見ていれば、その可能性を完全には否定できなかった。


 ならば、誰に話を持ちかけるべきか。


 答えは一つしかなかった。


 エドワード・クラウス大佐


「……あいつしかいない」


 エリックは重い腰を上げ、スクリーンを閉じる。


 ホログラムの映像が消えても、リネットが机に突っ伏していた姿が、まぶたの裏に焼き付いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ