エリックの思案
……貧血か?
エリックは眉をひそめ、ホログラムスクリーンのバイタルデータを見つめた。
「……心拍数が低いな」
リネットの数値は、一般的な基準値よりも明らかに低下している。
しかし、彼女の体質が元々そうなのか、それとも採血の影響なのか判断がつかない。
一応、呼吸数や酸素飽和度には問題はない。
だが、血圧も低めであり、全身倦怠感を訴えるもあるようだ。
――精神的ストレスの可能性も考えられる。
採血による一時的な貧血、精神的な負担、あるいは……
原因を特定するには、さらに詳細なデータが必要だが、それを調べる権限は自分にはない。
軍が管理する聖女の健康データの深部には、より詳しい検査結果が記録されているはずだが、そこにアクセスできるのは更に特定の人物だけだ。
エリックはスクリーンを睨みながら、低く息を吐いた。
「……くそ」
リネットはまだ、ぐったりと机に突っ伏している。
食事を進めるセリアとエルナも、時折心配そうに彼女を見つめている。
特にセリアは、リネットの肩を揺すりながら、小さな声で呼びかけている。
「リネット、大丈夫?」
「ん……」
リネットは微かに反応するが、目を開けることすら億劫なようだ。
エルナが外出願いを頻繁に出していたことを思い出す。
そのたびに採血量が増えていたのもデータ上では確認できる。
だが、それが直接的な原因かどうかは、やはり不明だ。
ただの憶測に過ぎない。
――だが、もし本当に採血の影響だとしたら?
「一時的に採血をやめさせる……?」
無意識に口にした言葉に、自分で苦笑する。
軍がそれを許すか?
軍にとって聖女は「資源」だ。
飼い殺して、本当に殺すような馬鹿な真似をするとは思いたくないが、上層部のやり方を見ていれば、その可能性を完全には否定できなかった。
ならば、誰に話を持ちかけるべきか。
答えは一つしかなかった。
エドワード・クラウス大佐
「……あいつしかいない」
エリックは重い腰を上げ、スクリーンを閉じる。
ホログラムの映像が消えても、リネットが机に突っ伏していた姿が、まぶたの裏に焼き付いていた。




