静かな違和感
いつもと同じはずなのに、どこか違う。
セリアは食堂の椅子に座り、ぼんやりとスプーンを握りしめながら、周囲の様子を窺っていた。
白衣の職員たちは変わらず、私たちの世話をしてくれている。
食事を運び、献血の準備をし、健康管理をして、時にはお願いを聞いてくれる。
それでも、今日はいつもより少し空気が重い気がした。
いつもなら、どこか気だるげに仕事をこなしている人も、今日は何かを気にしているように見える。
交わされる言葉は少なく、妙に静かで、ピリピリした雰囲気が流れていた。
「……どうしたんだろうね」
セリアは、スプーンを皿の上に置き、エルナの方を見た。
「んー?」
エルナは口いっぱいに食事を頬張りながら、気の抜けた声を出す。
それを見て、少しだけ気が楽になった。
「なんか、みんなピリピリしてる気がしない?」
「んぐっ……うーん……そう言われてみれば?」
エルナは飲み込んでから、少し周囲を見回した。
白衣の職員たちは、確かに少し様子が違う。
「ねえ、そういえば……」
セリアは少し小声になりながら、エルナに近づいた。
「最近、あの人見かけなくない?」
「あの人?」
「えっと、よく献血の時に側にいた……男の人。優しそうな顔してた……」
エルナは眉をひそめ、考え込む。
「……言われてみれば、いないね。でも、そういうこともあるんじゃない?」
「そうなのかな……」
確かに、いなくなること自体は不思議じゃないのかもしれない。
でも、みんなの雰囲気まで変わってしまうほどのことだろうか。
「ねえ、セリア?」
「ん?」
「私たち、白衣の人たちの名前って、知ってる?」
セリアはその言葉に、ふと息をのんだ。
言われてみれば、彼らはいつも「献血の時間ですよ」「今日は体調どうですか?」と話しかけてくるけど、
名前を名乗ったことは一度もなかった。
私たちは名前を持っているのに、彼らは……?
「……ううん、知らない」
「だよね」
「でも、いい人たちだよ?」
「うん、そうだね」
セリアは笑顔を作ったが、胸の奥に少しだけ引っかかるものが残った。
彼らがどんな人たちなのか、何を考えているのか。
私たちは、何も知らない。




