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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
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夜の静寂と2人

 

 暗闇の中、ゆっくりと肩を揺さぶるエルナの手。


「んぅ〜……」


 リネットは気怠そうに小さく唸り、身じろぎする。エルナの揺らし方に合わせて、頭が左右にゆらゆらと揺れる。


「リネット、起きて……」


「ん……」


 かすれた声で返事をしながら、リネットはまぶたをゆっくりと持ち上げた。


 部屋の中は暗く、明かりひとつないまさしく"夜"だった。ぼんやりとした朧げなシルエットだけが見えている。


 エルナは少しだけためらってから、声をひそめて言った。


「ねえ、トイレ行きたいんだけど……夜、一人で行くの怖いから、一緒に来てほしい……」



 リネットはしばらくぼんやりとエルナを見つめていたが、やがて「……いいよ」と優しく答えた。


 エルナがほっとしたのも束の間、リネットの両手がふにふにと彼女の顔に触れる。


「わっ、なに?」


「……もちもちしてる」


 リネットは小さく微笑んで、エルナの頬を軽くぺちぺちと叩いた。


「もう、そんなことしてないで、早く行こ!」


「ふぁ〜……うん……」


 リネットはゆるく伸びをしてから、エルナの手を取った。


 眠たそうに頭をふらふらと揺らしながら歩くリネット。その背後で、エルナは手をぎゅっと握りしめ、ぴったりとくっつきながら歩く。



 足音だけが響く静かな廊下。夜は広く、どこまでも続くような気がして、エルナの胸は不安でいっぱいだった。


 ようやくトイレの前にたどり着くと、リネットはふわぁ、と小さなあくびを漏らしながら壁にもたれた。


「待っててね、すぐ戻るから」


「……うん……寝ないでね?」


 エルナはリネットをじっと見つめ、念を押した。



「うん……」


 ゆるく頷くリネットの姿を確認して、エルナはトイレの中に入る。



 水を流す音が静寂を破り、エルナはふと扉越しに呼びかけた。



「リネット、起きてる?」


「……んー」


 か細い返事が返ってくる。


 エルナは少し安心して、手を洗いながらまた話しかけた。


「なんかすごく静かだね……」


「……んー……」


 リネットの返事はさらに小さくなる。


 エルナは水を止め、トイレの扉に手をかけながらもう一度呼びかけた。


「リネット?」


 沈黙が返る。


 エルナの胸に、不安が広がる。


「リネット!?」


 扉を開けると、壁にもたれたリネットは静かに、ゆっくりと寝息を立てていた。


「ちょ、ちょっとー!」


 エルナは慌てて彼女の肩を揺さぶったが、リネットはぴくりとも動かない。


「……ねえ、嘘でしょ? 起きてよ……」


 こんな夜に、一人取り残されるのは怖すぎる。


 エルナは必死に揺さぶり続けた。


「リネット、お願いだから起きてよ!」


 しかし、リネットは夢の中で穏やかに微笑むだけだった——。

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