夜の静寂と2人
暗闇の中、ゆっくりと肩を揺さぶるエルナの手。
「んぅ〜……」
リネットは気怠そうに小さく唸り、身じろぎする。エルナの揺らし方に合わせて、頭が左右にゆらゆらと揺れる。
「リネット、起きて……」
「ん……」
かすれた声で返事をしながら、リネットはまぶたをゆっくりと持ち上げた。
部屋の中は暗く、明かりひとつないまさしく"夜"だった。ぼんやりとした朧げなシルエットだけが見えている。
エルナは少しだけためらってから、声をひそめて言った。
「ねえ、トイレ行きたいんだけど……夜、一人で行くの怖いから、一緒に来てほしい……」
リネットはしばらくぼんやりとエルナを見つめていたが、やがて「……いいよ」と優しく答えた。
エルナがほっとしたのも束の間、リネットの両手がふにふにと彼女の顔に触れる。
「わっ、なに?」
「……もちもちしてる」
リネットは小さく微笑んで、エルナの頬を軽くぺちぺちと叩いた。
「もう、そんなことしてないで、早く行こ!」
「ふぁ〜……うん……」
リネットはゆるく伸びをしてから、エルナの手を取った。
眠たそうに頭をふらふらと揺らしながら歩くリネット。その背後で、エルナは手をぎゅっと握りしめ、ぴったりとくっつきながら歩く。
足音だけが響く静かな廊下。夜は広く、どこまでも続くような気がして、エルナの胸は不安でいっぱいだった。
ようやくトイレの前にたどり着くと、リネットはふわぁ、と小さなあくびを漏らしながら壁にもたれた。
「待っててね、すぐ戻るから」
「……うん……寝ないでね?」
エルナはリネットをじっと見つめ、念を押した。
「うん……」
ゆるく頷くリネットの姿を確認して、エルナはトイレの中に入る。
水を流す音が静寂を破り、エルナはふと扉越しに呼びかけた。
「リネット、起きてる?」
「……んー」
か細い返事が返ってくる。
エルナは少し安心して、手を洗いながらまた話しかけた。
「なんかすごく静かだね……」
「……んー……」
リネットの返事はさらに小さくなる。
エルナは水を止め、トイレの扉に手をかけながらもう一度呼びかけた。
「リネット?」
沈黙が返る。
エルナの胸に、不安が広がる。
「リネット!?」
扉を開けると、壁にもたれたリネットは静かに、ゆっくりと寝息を立てていた。
「ちょ、ちょっとー!」
エルナは慌てて彼女の肩を揺さぶったが、リネットはぴくりとも動かない。
「……ねえ、嘘でしょ? 起きてよ……」
こんな夜に、一人取り残されるのは怖すぎる。
エルナは必死に揺さぶり続けた。
「リネット、お願いだから起きてよ!」
しかし、リネットは夢の中で穏やかに微笑むだけだった——。




