表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
44/123

エリックの動揺と上層部の謀略

 


 軍の監視室。

 無機質な金属の壁と暗く沈んだ照明が、そこが軍の施設であることを強く主張していた。


 中央のホログラムスクリーンには、聖女の監視施設が映し出されている。そこでは、聖女たちがパンケーキ作りに夢中になっていた。




「……なんなんだ、これは」


 エリック・バーナードは、椅子の上で大きくため息をついた。


 軍法会議の末、処分を受けて降格した身。


 エドワード・クラウス大佐の計らいで、何とか軍に籍を残してはいるものの、今の職務はほとんど幽閉に等しい。



 それなのに——今になって、また聖女の監視役に戻れというのか?


「冗談じゃない」


 エリックは書類を机に叩きつけた。


 エドワードは「君の持つ聖女のデータ管理権限が重要だ」と言っていた。それは事実だろう。だが、それ以上に気に食わないのは、軍上層部が動き始めたということだ。


 報告書にはこうあった。


 ─


 軍上層部より指示

 エドワード・クラウス大佐の動向を監視せよ。

 彼の行動と発言を詳細に記録し、逐次報告すること。

 聖女の監視任務への復帰と引き換えに、昇級の道を約束する。


 ─


「……ッ、ふざけるなよ……」


 エリックは苛立ちを隠せなかった。


 軍のやり方は最初から分かっていた。だが、こうも露骨に"使い潰す"意図を見せつけられると、さすがに腹が立つ。


 あの軍法会議で、自分は切り捨てられる寸前だった。エドワードがいなければ、とっくに"存在しない者"にされていたかもしれない。


 そのエドワードを監視しろ、だと?


「……クソが」


 エリックはホログラムスクリーンを睨んだ。


 そこには、無邪気に笑い合う聖女たちの姿が映っている。彼女たちは何も知らない。自分たちがどこにいるのかも、本当の"外"がどんなものなのかも。


 まるで、人形だ。


 いや——違う。


 彼女たちは自分の意思で笑い、喜び、互いに手を取り合っている。


「……こんな連中が、軍の都合で搾り取られてるんだよな……」


 エリックは手を伸ばし、スクリーンに映る彼女たちの姿をなぞった。


 彼女たちを守れるかもしれない、と一瞬だけ思った。


 だが——それは不可能だ。


 彼にできるのは、ただ見ていることだけ。


 彼は軍の歯車の一つであり、そこから抜け出すことなど許されない。


 上層部はエドワードを潰したがっている。彼が聖女の採血量を増やす計画を頓挫させたからだ。軍にとって、エドワードはもはや"邪魔な存在"でしかない。


 そして、その"処理"にエリックが利用されようとしている。



「……俺に、エドワードを売れってか?」


 エリックは嘲笑した。


「チッ、マジでクソみたいな仕事だな」


 スクリーンの向こうで、セリアが笑顔でパンケーキをひっくり返した。


 エリックは静かに目を閉じた。


 このまま、流されるか。


 それとも——。


「……さて、どうするかな」


 エリックは椅子の背にもたれ、天井を見上げた。


 このままでは終わらない。


 どちらに転んでも、戦いは避けられないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ