エドワードの呼び出し
軍法会議の後日、エリックはエドワード・クラウス大佐に呼び出された。
「降格処分か……まったく、ついてないな」
エドワードは机に肘をつきながら、苦笑いとも取れる表情で呟く。
「……俺が悪いんです。聖女の管理を徹底できなかった」
エリックは淡々と答えた。
エドワードは興味深げに彼を見つめ、ゆっくりとコーヒーを口にする。
「君は、本当にそう思っているのか?」
エリックは一瞬、言葉に詰まった。
確かに監督責任はある。しかし、それだけだろうか?
エドワードはさらに続ける。
「君の処分は、聖女が怪我をしたことに対する罰ではない」
「聖女の血を無駄に流した"という事実"を作ったことに対する処罰だ」
「……どういう意味です?」
「君は、彼女たちがどういう存在か理解しているか?」
エドワードの瞳が鋭くなる。
「俺たちが生きるための“資源”……ですか?」
「そうだ。しかし、彼女たちはただの物資じゃない。感情があり、意思があり、そして“管理”されている存在だ」
「君が監督していた聖女は、どうして怪我をした?」
エリックは答える。
「食器を片付ける際に、皿を落としてしまったんです」
「なぜ?」
「……エルナに茶化されていて、不意に足元が乱れたのかと」
「ほう?」
エドワードは少し考え、意図を汲み取るように笑う。
「つまり、彼女たちはリラックスし、楽しんでいたと?」
「……ええ。クッキー作りが楽しかったようで」
「では、もし環境が違っていたら?」
「?」
「例えば、君の監督下で“監視”を強化し、楽しいと思わせない状況にしていたら?」
「それは……」
「つまり、これは“環境要因”だ。ストレスのかからない環境で、聖女は自然な行動を取った。
結果として、事故が起きた」
「……」
「もし、君が担当を続けることができたなら、聖女たちのストレスを管理する立場になれただろうな」
エドワードは軽く肩をすくめる。
「君は運が悪かった。だが、俺は“無駄な人材”を見捨てるほど馬鹿じゃない」
エリックは眉をひそめる。
「……まさか、俺に何か仕事をさせようとしているんですか?」
エドワードは笑った。
「君は優秀な監督官だった。ならば、その目を俺のために使え」




