少尉クロエ・ラインハルト
ホログラムスクリーンに映し出された映像が、静かに明滅する。
区画E-03のホログラム空間。そこで楽しそうに過ごす聖女たちの姿。
無邪気な声で相談を交わす彼女たちの映像が流れる傍らで、もう一つの画面には軍事裁判の様子が映し出されていた。
机の上には書類の束。
少尉 クロエ・ラインハルトは、ペンを指で回しながら、それらを片手でまとめると、ため息交じりに画面を見つめた。
「……やっぱりこうなるか。」
ホログラムスクリーンの中央に浮かぶ判決文を読みながら、無愛想な独り言をこぼす。
―― エリック・バーナード、降格処分および監視下での任務継続
「まったく……バーナードもご苦労なこと。」
皮肉めいた口調で呟きながら、クロエは次の書類に目を通す。
―― エドワード・クラウスの弁論により、懲役刑は撤回
「……はぁ……ドン引きもいいところね。」
書類を机に叩きつけるように置き、腕を組む。
あの男の策士ぶりは相変わらず。
元老院の老人たちを言いくるめ、軍法会議の審問官たちを黙らせ、結果的にエリックの罪を軽減する。
おまけに、聖女たちの管理体制の見直しまで提案し、それがほぼ承認される形になったのだから恐れ入る。
「……あんなもの見せられたら、逆に清々しいわね。」
―― 区画E-03
そこでは、聖女たちが「次はカップケーキを作りたい!」と楽しげに話していた。
「……ああいう無邪気さ、羨ましいわね。」
思わず、クロエの口元が少しだけほころびかけた。
しかし、その瞬間――
「少佐!」
部下の一人が駆け寄ってきた。
クロエは一瞬、眉をひそめる。
「……何?」
「至急、お伝えしたいことがあります。」
部下は彼女の耳元に顔を寄せ、小声で報告を始めた。
クロエの表情が僅かに変わる。
「……そう。」
耳打ちを聞き終えると、彼女は書類をまとめ、ホログラムスクリーンを閉じた。
「了解。すぐに向かうわ。」
短く返事をし、立ち上がる。
黒の軍服の裾を翻しながら、クロエは部下とともに歩き出した。




