元老院会議 続続
「……その担当者は誰だ?」
エドワード・クラウスの問いに、軍の老人たちは一瞬言葉を詰まらせた。
「エリック・バーナード……だったな。」
低い声でそう言うと、一人の軍幹部が忌々しげに腕を組む。
「バーナードは聖女の管理義務を怠り、貴重な資源を無駄にした。その責を負うのは当然だ。」
「資源の無駄?」
エドワードは軽く微笑しながら、ゆっくりと首を傾げる。
「彼は何か意図的に問題を起こしたのですか?」
「……いや、事故だ。」
「ならば、なぜ"事故"に責任を負わせる?」
「それは管理の不備が――」
「管理の不備……つまり、環境的要因によるものですね?」
軍の老人たちの表情が険しくなる。
「つまり、"管理体制そのもの"に問題があったというわけだ。」
「おい……」
「彼個人の落ち度ではなく、現在の管理方法が聖女のストレスを高め、不測の事故を誘発したということになります。」
「……貴様、また理屈をこね回す気か?」
「理屈ではなく、"事実"を整理しているだけですよ。」
エドワードは指を組み、落ち着いた口調で続けた。
「聖女の血は確かに貴重です。しかし、それを守るための環境が不適切であれば、結果として"管理の失敗"を生む。」
「……」
「私の提案はこうです。"聖女の心理的安定を優先し、適度な自由を与えることで、不要な事故を防ぐ"――そのために、管理体制の調整が必要だと考えます。」
元老院の何人かが頷く。
「それに、バーナードの処遇についても見直すべきです。」
「ふん……何を言おうが、彼が担当者であった事実は変わらん。処罰は必要だ。」
「ええ、彼の立場を完全に覆すことはできません。」
エドワードは静かに認める。
「しかし、刑を軽減する余地はある。"環境要因が関与していた"とするならば、彼個人の責任だけを追及するのは合理的ではない。」
「……」
「加えて、バーナードには"今後の管理改善のための協力"を求める。彼の知識と経験を活かすことで、聖女の安全性を高め、不要な問題を防ぐことができるでしょう。」
「……」
「無論、それでも責任からは逃れられませんが。」
しばしの沈黙の後、元老院の一人がゆっくりと口を開いた。
「……再検討しよう。」
軍上層部の老人たちは納得していない表情だったが、元老院の意向には逆らえない。
(……これで、バーナードの処遇は少しは軽くなるはずだ。)
エドワードは静かに目を閉じた。




