表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
26/123

元老院会議 続

 


 沈黙が支配していた。


 年老いた軍上層部の男が、深い皺の刻まれた顔を歪め、静かにエドワード・クラウスを睨んでいる。

 彼の発言によって、会議の進行が大きく狂ったのは明らかだった。


「……つまり、お前は監視体制強化を反対するというのか?」


 低く響く声に、エドワードは微笑を崩さず、静かに指を組んだ。


「いいえ。私は"強化"そのものを否定したわけではありません。」


「ほう?」


「私は、より"合理的な管理"を提案したまでです。」


「"合理的"?」


「はい。」


 エドワードは視線をめぐらせた。

 軍上層部の老人たちは彼を睨みつけていたが、元老院の数名は慎重な表情を浮かべている。


(少なくとも、全員が軍の犬というわけではない。)


 彼は確信を持ちながら続けた。


「過度な監視や制約が、かえって彼女たちの心理的不安を生み、結果として管理効率を下げることは明白です。」


「それは貴様の理屈だ!」


「いいえ。"結果"を見れば明白なことです。」


 エドワードは指を軽く叩き、スクリーンを示した。


「セリア・ウィンザーの指の負傷――これは単なる事故ではなく、"環境要因"によるものです。」


「環境要因……?」


「"資源"としての管理を徹底するならば、彼女たちの心身の健康維持もまた、戦略的な観点から考慮すべきでは?」


「……」


 一部の元老がざわつく。


「お前は"嗜好品"を与え続けろと言うのか? クッキーなどという無駄なものを?」


「資源の無駄使いでは?」


「そうではありません。」


 エドワードは微笑した。


「"統制された自由"の中でこそ、最も安定した運用が可能なのです。」


「……」


「例えば、今回の件を受けて監視体制を強化し、娯楽の制限をすればどうなるか?」


「……?」


「"ストレス"が増大し、管理者との関係が悪化し、不必要な問題が増えるでしょう。」


「それを避けるために、"適度な満足"を与えつつ、"管理しやすい環境"を作ることこそ、最適解だと考えますが?」


「……なるほど。」


 元老の一人が、椅子の肘掛けを軽く叩いた。


「訂正案として、"適度な娯楽と心理的安定を考慮した管理体制"を追加してはどうか?」


「……」


 軍上層部の老人たちは明らかに不満げだったが、元老院の意見には逆らえない。


「……検討しよう。」


 彼らの渋々とした返答に、エドワードは内心で勝ちを確信した。


("監視体制強化"の名目はそのまま……しかし、実際には"聖女たちの待遇の改善"に繋がる。)


「貴様、軍を軽視しているのではないか?」


 上層部の一人が、刺すような視線で問う。


 エドワードは微笑を崩さず、ゆっくりと答えた。


「いいえ。"資源"の価値を、正しく評価しているだけです。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ