元老院会議 続
沈黙が支配していた。
年老いた軍上層部の男が、深い皺の刻まれた顔を歪め、静かにエドワード・クラウスを睨んでいる。
彼の発言によって、会議の進行が大きく狂ったのは明らかだった。
「……つまり、お前は監視体制強化を反対するというのか?」
低く響く声に、エドワードは微笑を崩さず、静かに指を組んだ。
「いいえ。私は"強化"そのものを否定したわけではありません。」
「ほう?」
「私は、より"合理的な管理"を提案したまでです。」
「"合理的"?」
「はい。」
エドワードは視線をめぐらせた。
軍上層部の老人たちは彼を睨みつけていたが、元老院の数名は慎重な表情を浮かべている。
(少なくとも、全員が軍の犬というわけではない。)
彼は確信を持ちながら続けた。
「過度な監視や制約が、かえって彼女たちの心理的不安を生み、結果として管理効率を下げることは明白です。」
「それは貴様の理屈だ!」
「いいえ。"結果"を見れば明白なことです。」
エドワードは指を軽く叩き、スクリーンを示した。
「セリア・ウィンザーの指の負傷――これは単なる事故ではなく、"環境要因"によるものです。」
「環境要因……?」
「"資源"としての管理を徹底するならば、彼女たちの心身の健康維持もまた、戦略的な観点から考慮すべきでは?」
「……」
一部の元老がざわつく。
「お前は"嗜好品"を与え続けろと言うのか? クッキーなどという無駄なものを?」
「資源の無駄使いでは?」
「そうではありません。」
エドワードは微笑した。
「"統制された自由"の中でこそ、最も安定した運用が可能なのです。」
「……」
「例えば、今回の件を受けて監視体制を強化し、娯楽の制限をすればどうなるか?」
「……?」
「"ストレス"が増大し、管理者との関係が悪化し、不必要な問題が増えるでしょう。」
「それを避けるために、"適度な満足"を与えつつ、"管理しやすい環境"を作ることこそ、最適解だと考えますが?」
「……なるほど。」
元老の一人が、椅子の肘掛けを軽く叩いた。
「訂正案として、"適度な娯楽と心理的安定を考慮した管理体制"を追加してはどうか?」
「……」
軍上層部の老人たちは明らかに不満げだったが、元老院の意見には逆らえない。
「……検討しよう。」
彼らの渋々とした返答に、エドワードは内心で勝ちを確信した。
("監視体制強化"の名目はそのまま……しかし、実際には"聖女たちの待遇の改善"に繋がる。)
「貴様、軍を軽視しているのではないか?」
上層部の一人が、刺すような視線で問う。
エドワードは微笑を崩さず、ゆっくりと答えた。
「いいえ。"資源"の価値を、正しく評価しているだけです。」




