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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
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元老院会議

 


 薄暗い会議室の中央に、巨大なホログラムスクリーンが投影されていた。

 淡い青白い光が、机を囲む重鎮たちの顔を照らす。




 ――元老院会議。




 軍の最高幹部と、資源管理機関、科学技術研究部門、そして政治的決定権を持つ年老いた元老たちが集まり、人類の今後について議論する場。



 スクリーンには最新の量産型神代兵器の設計図が映し出されていた。


 鋼鉄の装甲、冷却機構、そしてエネルギー炉――次世代型としての改良点が説明される。


「これが最新の量産モデルか……」

 一人の元老が腕を組む。


「聖女の血を利用したエネルギー炉を搭載し、出力は現行モデルの三倍。これならば、地上での神代兵器群との戦闘でも十分に対抗可能でしょう。」



 科学技術部門の代表がそう述べると、周囲の者たちは低く頷いた。


「エネルギー効率は?」


「問題ありません。エネルギーを適切な比率で精製し、次世代エンジンに供給すれば、現状の資源問題も解決できます。」


「資源問題……」


 その言葉を聞いた途端、会議室がざわつく。


 資源――それは、この地下都市が最も切実に抱える問題だった。

 食料、生産、エネルギー、武装、すべてが限られた供給のもと成り立っている。


「食料生産の現状は?」

 別の元老が尋ねる。


「水耕農業は安定していますが、地上資源の補充がなければ、あと十数年で限界が来ます。」


「畜産はどうか?」

「最低限の家畜は維持していますが、飼料が不足しつつあります。魚類の養殖は好調ですが……」



「だが、我々が求めるのは量産型神代兵器の増産だ。余計な資源はそちらに回すべきではないか?」


「……」


 静寂が訪れる。


「では、"供給源(聖女)"の管理体制の強化について、議題を進めよう。」


 ――と、そのときだった。


「待ってください。」


 静かに、しかし確かな威圧感を持って声が響く。


 エドワード・クラウス。


 軍の幹部であり、聖女の管理システムに関与に首を出す数少ない一人。

 彼は冷静な眼差しを向けながら、机に肘をついた。



「"供給源(聖女)"の管理強化は結構。しかし、現在の管理体制に問題があるのでは?」


「ほう?」


 年老いた元老たちが、眉をひそめる。


「貴様は何が言いたい?」


 エドワードはゆっくりと指を組み、落ち着いた口調で続ける。


「"資源"として扱うのはいい。しかし、"管理体制"が非効率すぎる。」


「……どういうことだ?」


「単刀直入に言いましょう。」


 エドワードは微笑を浮かべた。


「"資源"の扱いにしては、運用効率が悪すぎるのではありませんか?」


「……!」


 元老たちが小さく身じろぎする。



「心理的ストレス、過剰な制限、そして情報統制……これらが長期的に見て"資源の安定供給"にどれほどの影響を与えるか、皆さんは本当に考えたことがありますか?」


「何が言いたい?」


「例えば、最近起きた"事故"。」


 エドワードはスクリーンを指さした。


 そこには、セリアが指を切った映像が映し出されていた。


「これは管理ミスだと非難されていますが、そもそも彼女達の心理状態が"不安定"であったことが要因では?」


「……くだらん。資源が自らを管理する必要はない。」


「違います。"資源"を管理するのは我々です。」


 エドワードの言葉に、一部の者が頷く。


 彼は続ける。


「"飼い殺し"のように扱えば、いずれ彼女たちは消耗します。」



「安定した採血を行うためには、彼女たちの心理を"適切に維持"する必要があります。」

「娯楽の一つや二つ与えたところで、効率には影響しないどころか、むしろプラスに働く可能性さえある。」


「……」


「つまり、クッキー作りが問題ではないのです。」


 エドワードは、敢えて微笑を崩さなかった。


「問題なのは、彼女たちを"どのように管理するか"。」


「彼女たちを"完全に無力な囚人"にするのか。"従順な資源"として扱うのか。」


「……その選択を誤れば、未来は変わるでしょう。」


 元老たちはしばし黙り込んだ。


 しかし、エドワードは最後の一撃を加える。


「さて、"元老院のご英断"をお聞かせ願いたい。」



 彼はあくまで、彼らを"立てる"ように話を進めた。

 彼らの権威を損なわず、むしろ"管理強化"の名のもとに、聖女たちの待遇改善を提案する形をとったのだ。


「……」


「……考慮しよう。」


 ようやく、一人の元老が言葉を発した。


 それを皮切りに、他の者たちも渋々ながら頷き始める。


 エドワードは目を細めた。


 彼はまだ、完全に"勝った"わけではない。


 しかし――


 少なくとも、今すぐ聖女たちの状況が悪化することは防げた。


(さて……)



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