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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第1部:正義に注ぐは聖なる犠牲
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血の価値

 


「……この映像を見ろ。」



 無機質な会議室に、ホログラムの映像が浮かび上がる。



 そこに映っているのは、セリアが皿を落とし、割れた破片で指を傷つける場面だった。



 小さな傷ではあったが、ポタリと垂れる血の鮮やかさが、白い床の上で異様に目を引いた。


 それを見て、年老いた軍人が舌打ちする。



「……なんと無様なことか。」


「無駄に流れた"資源"だ。」


「愚かなことに、"採血"以外で血を流させるとはな。」


 軍服の男たちが低い声で囁きあう。



 映像が止まる。

 画面の向こうで椅子に座るエリック・バーナードは、俯いたままだった。


「エリック・バーナード。貴様の管理不行き届きによって、貴重な血液が無駄に流れた。」



 机を拳で叩きながら、軍の老人が怒気を込めて言う。



「聖女の血は、"我々の生存"そのものだ。神代兵器の素材であり、戦略資源である。"彼女たち"がいなければ、我々はとうの昔に滅びていた。」


 エリックは無言のまま、指を握り締めた。



「聖女の血は採血管理によって適切に供給されなければならない。事故による流出など、あってはならん。」



 軍人たちがざわつく中、エリックに次の言葉が告げられた。


「貴様には処罰が下される。――懲役刑だ。」


 エリックが顔を上げる。

「……それは、」


「言い訳は不要だ。」


 冷酷な声だった。


「貴様のような甘さが、"資源"の無駄遣いを招く。聖女たちは、"生かすためのもの"であって、"自由にさせるためのもの"ではない。」



 エリックは拳を握る。


 彼は知っていた。

 聖女たちが「人間として扱われていない」ことを。


 だが、それを否定できるほどの力は、彼にはなかった。



「……それにしても。」


 年老いた軍人が嘲笑を浮かべる。


「嗜好品に資源を使うとはな。」

「クッキー?菓子作りだと?」


 男はせせら笑う。


「まるで"娯楽"じゃないか。」

「"聖女"にそんなものが必要か?」


 軍人の一人が口を開く。


「しかし、適度な娯楽は管理を円滑に進めるために――」


「戯言だ。」


 男は吐き捨てるように言う。


「貴様らは、聖女を甘やかしすぎている。甘い菓子など不要だ。"資源"にそんな無駄を許す余裕はない。」


「資源が乏しいのだ。"聖女"に無駄なものを与えている場合ではない。」


 彼は憎々しげに言葉を続けた。



「そもそも、"聖女"とは何だ?」


「忌まわしいものだ。」


「この戦争の元凶であり、人類を滅ぼしかけた神代兵器の源。」


「そして、皮肉にも――我々を生かしている唯一の"資源"。」


 彼の言葉に、部屋の中は静まり返る。


 エリックは黙ったままだった。


 心の奥で、何かが軋むような感覚があった。


 ――"彼女たちは、本当に資源なのか?"


 だが、その疑問を口にすることは、今の彼にはできなかった。

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