血の価値
「……この映像を見ろ。」
無機質な会議室に、ホログラムの映像が浮かび上がる。
そこに映っているのは、セリアが皿を落とし、割れた破片で指を傷つける場面だった。
小さな傷ではあったが、ポタリと垂れる血の鮮やかさが、白い床の上で異様に目を引いた。
それを見て、年老いた軍人が舌打ちする。
「……なんと無様なことか。」
「無駄に流れた"資源"だ。」
「愚かなことに、"採血"以外で血を流させるとはな。」
軍服の男たちが低い声で囁きあう。
映像が止まる。
画面の向こうで椅子に座るエリック・バーナードは、俯いたままだった。
「エリック・バーナード。貴様の管理不行き届きによって、貴重な血液が無駄に流れた。」
机を拳で叩きながら、軍の老人が怒気を込めて言う。
「聖女の血は、"我々の生存"そのものだ。神代兵器の素材であり、戦略資源である。"彼女たち"がいなければ、我々はとうの昔に滅びていた。」
エリックは無言のまま、指を握り締めた。
「聖女の血は採血管理によって適切に供給されなければならない。事故による流出など、あってはならん。」
軍人たちがざわつく中、エリックに次の言葉が告げられた。
「貴様には処罰が下される。――懲役刑だ。」
エリックが顔を上げる。
「……それは、」
「言い訳は不要だ。」
冷酷な声だった。
「貴様のような甘さが、"資源"の無駄遣いを招く。聖女たちは、"生かすためのもの"であって、"自由にさせるためのもの"ではない。」
エリックは拳を握る。
彼は知っていた。
聖女たちが「人間として扱われていない」ことを。
だが、それを否定できるほどの力は、彼にはなかった。
「……それにしても。」
年老いた軍人が嘲笑を浮かべる。
「嗜好品に資源を使うとはな。」
「クッキー?菓子作りだと?」
男はせせら笑う。
「まるで"娯楽"じゃないか。」
「"聖女"にそんなものが必要か?」
軍人の一人が口を開く。
「しかし、適度な娯楽は管理を円滑に進めるために――」
「戯言だ。」
男は吐き捨てるように言う。
「貴様らは、聖女を甘やかしすぎている。甘い菓子など不要だ。"資源"にそんな無駄を許す余裕はない。」
「資源が乏しいのだ。"聖女"に無駄なものを与えている場合ではない。」
彼は憎々しげに言葉を続けた。
「そもそも、"聖女"とは何だ?」
「忌まわしいものだ。」
「この戦争の元凶であり、人類を滅ぼしかけた神代兵器の源。」
「そして、皮肉にも――我々を生かしている唯一の"資源"。」
彼の言葉に、部屋の中は静まり返る。
エリックは黙ったままだった。
心の奥で、何かが軋むような感覚があった。
――"彼女たちは、本当に資源なのか?"
だが、その疑問を口にすることは、今の彼にはできなかった。




