焼きたてクッキー
甘い香りが部屋に満ちる。
焼きたてのクッキーの香ばしさに、セリアもエルナも目を輝かせてオーブンを覗き込んでいた。
「わぁ……」
セリアが感嘆の声を漏らし、エルナが小さく跳ねるようにして喜ぶ。
「ねぇねぇ、あとどれくらい?」
エルナが白衣の職員に問いかける。
「もうすぐですよ。熱いので、まだ触らないようにね。」
職員はそう言って、鍋つかみを手に取り、慎重にオーブンの扉を開いた。
ふわりと、さらに強く甘い香りが広がる。
天板の上には、ほんのりと焼き色がついたクッキーが並んでいる。
「熱いから下がってね」と職員が注意しながら、トングでクッキーを一つずつ皿に盛り付けていく。
リネットは、椅子に座って静かにそれを眺めていた。
彼女はクッキーを楽しみにしているのか、それともただのんびりしているのか――どちらともとれる態度で、ぼんやりと頭を揺らしていた。
「焼きたてって、すぐに食べられるの?」
セリアが聞く。
「ちょっと冷ましてからね。我慢できる?」
「……うーん、がんばる!」
エルナがくすくすと笑った。
彼女たちは、ただの少女だった。
ただの、何も知らない、無邪気な少女たちだった。




