軍の思惑
白衣の職員、研究員たちは、静かな廊下で低く話し合っていた。
「聖女たちの血は、貴重だ。一滴でも無駄に流していいものではない……」
「非常時を除いて、採血の時以外は絶対に外部に漏れてはならない。これがどれほどの問題か……」
「区画E-03でさえ、徹底した監視体制が敷かれている。それが事故とはいえ……」
「……セリアの担当は、お前だったな?」
「……運が悪かったな」
冷たい声が響く。
エリック・バーナードは、うつむき、頭を抱えていた。
「……なんで、こんな……」
誰のせいでもない。
ただ、皿が落ちただけのこと。
たった、それだけのこと。
それなのに——彼の肩には、とてつもない重圧がのしかかっていた。
「事故だとはいえ、運が悪いな……」
隣にいた女性職員が、絞るような声で言った。
「……俺には、まだ学生の妹がいるんだ」
エリックがぽつりと呟く。
その言葉の裏にあるものを察したのか、もう一人の男性職員が小さく息をついた。
「……今は貧困徴兵が行われている」
「……」
「金のない者は、徴兵され、量産型の神代兵器の増産計画のために使われる……」
「……知ってる」
エリックは拳を握りしめた。
知っている。
知っていた。
聖女の血があれば、神代兵器は量産できる。
「……もし、問題になれば」
「お前の妹も、徴兵の対象になるかもしれないな」
そう言われた瞬間、エリックは奥歯を噛み締めた。
「……くそっ」
彼は頭を抱えたまま、苦悩に身を沈めるしかなかった。




