閉ざされた空と少女たちの願い
澄んだ鐘の音が礼拝堂に響く。
この小さな空間はいつものように静寂に包まれ、神への祈りを捧げる少女たちの息遣いだけが微かに聞こえる。
セリアはゆっくりと目を閉じ、両手を胸の前で組んだ。
「今日も私たちに恵みを与えてくださり、ありがとうございます——」
決まりきった祈りの言葉を口にする。
それは毎日の習慣であり、ここで暮らす彼女たちにとって当然のことだった。
——隣ではリネットが目を閉じたまま、ゆるりとした呼吸を繰り返している。
時折小さく揺れる身体からして、おそらく彼女は祈りながら眠っているのだろう。
——エルナはと言えば、目を閉じてはいるものの、時折キョロキョロと周囲を見回し、じっとしていられない様子だった。
「……ねぇ、セリア」
エルナが小声で囁く。
セリアは目を開け、彼女のほうをそっと見た。
「ん?」
「やっぱりさ、ここを出てみたいな」
セリアは困ったように微笑む。
この話は何度目になるだろう。
「でも、ここで暮らしてる限り、外には出られないんだよ……?」
「そうなのはわかってる! でも、なんで? なんでダメなの?」
エルナは声を潜めつつも、熱を帯びた口調で言う。
セリアは言葉を選びながら答えた。
「……外は危ない、って聞いたよ」
「誰が?」
「白衣の人たちが……」
「でも、それって本当なのかな?」
エルナは少し考え込んだ後、小さく拳を握る。
「ねぇ、私たちがお願いしたら、外に行けるかもしれないよ!」
「えっ?」
「二人でお願いすれば、もしかしたら叶うかもしれない! 」
「うーん……」
セリアは視線を泳がせた。
「リネットも一緒にお願いしようよ!」
「……ん?」
不意に名前を呼ばれたリネットは、ゆっくりと目を開けた。
彼女はほんのわずかに首を傾げ、ぼんやりとした瞳でエルナを見つめる。
「……何の話?」
「外に出たいってお願いするんだよ!」
「……それ、いいことなの?」
「いいことだよ! だって、外を見たことないんだよ? 変じゃない?」
リネットはふわぁ、と小さなあくびをしてから、静かに頷いた。
「……まぁ、いいんじゃない?」
エルナは勢いよく立ち上がり、セリアの手を取った。
「決まり! これで三人だね!」
「え、えぇ……?」
セリアは戸惑いながらも、エルナの笑顔を見て、断れなくなってしまうのだった。