クッキー作り
カシャ、カシャッ——
金属製のボウルの中で、泡立て器が滑らかに動く。
卵、砂糖、小麦粉に似たデンプンの粉を混ぜ、やがて生地がまとまり始めた。
クッキー作りは、彼女たちにとって数少ない「特別なこと」だった。
単調な日々の中で、決められた行動の範囲内で許された「楽しみ」のひとつ。
3人の聖女にはそれぞれ白衣を着た職員がついており、彼らは危険のないよう監視しつつ、穏やかに見守っていた。
包丁もナイフもない。ピーラーすらない。
彼女たちの手に渡されたのは、ボウルとホイッパー、そして型抜きくらいだった。
エルナは元気よく型枠を押し付け、セリアは慎重に天板へと並べる。
リネットはのんびりと、その様子を見守りながら、少しずつ自分のクッキーを作っていた。
「ふふ、どんな形にしようかな〜」
「リネット、遅いよ〜!」
エルナが笑いながらリネットを急かす。
「まあまあ、焼き上がりは逃げないよ〜」
リネットはマイペースに答えた。
そうして、生地を並べ終わり、天板をオーブンへと入れた。
焼き上がるまでの間、彼女たちは片付けを始める。
「できたら、みんなで食べようね!」
エルナが嬉しそうに言った。
セリアも笑顔で頷く。
誰もが穏やかな時間を過ごしていた——少なくとも、その時までは。




