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7.No.002 天真爛漫系ヒロイン×オリビアの中の人


 私は美波。花も恥じらう女子高生。

 ある日、目覚めたら、侯爵令嬢オリビア=ワッフルとして、大好きな乙女ゲームの世界に迷い込んでいた。


 私はサービス開始当初から、このゲームをプレイしていて、大人気のノエルルートは、ハッピーエンドはもちろん、全ルートを制覇している。


 ちなみにハッピーエンドと言うのが、悪役令嬢アンジェリカを追放し、ノエルにプロポーズされる王太子妃エンド。


 二つ目のノーマルエンドは、お互いがそこそこ好感を抱いていることを認識し合う、まずはお友達からエンド。


 そして最後、バッドエンドは、ノエルがヒロインを含む全ての人に心を閉ざしてしまう、闇堕ちエンド。


 三種類のエンドの攻略経験を活かし、必ずや王太子妃の座を勝ち取ってやる。



 ノエルという人物は、立場上、普段から上品で美しい女性を見慣れている。

 それでいて、堅苦しい貴族社会に窮屈さを感じており、無邪気で型に囚われない、自由な令嬢を好む傾向にある。


 そう。ノエルルートのキーワードは、天真爛漫。


 実際、ストーリーの選択肢でも、優等生的な回答よりも、彼にとって予想外の回答の方が、好感度が上がりやすい。


 人が、うようよいるこの学園で、彼に目をかけて貰うには、他の令嬢と違う所を見せつけることがポイントとなる。



 作戦その①⋯⋯美味しそうに食べる君が好き。


 ゲーム内では、ノエルがヒロインの食べる姿を褒めるシーンがある。

 と言うことで、早速、入学式後のパーティーでは、美味しいご馳走に舌鼓を打った。


 ついでに、『わたくし、男漁りのためにパーティーに来たのではありませんの』アピールの機会にもなる。

 これは一石二鳥だ。

 

 それにしても、さすがは乙女ゲームの世界。

 料理が美味しすぎる。

 なんだか会場が、ざわついているような気もするけど、そんなことはどうでもいいくらい美味しい⋯⋯


 夢中になって食べているうちに、パーティーはお開きとなった。

 あれ? 私、何か忘れてるような?

 


 残念ながらパーティーでは、ノエルと一切接触する機会を持てなかったけど、幸いな事に、この学園ではノエルも寮生活をしている。

 接触の機会は、いつどこに転がっているか分からない。

 

 まずは種を蒔いて、花が咲くのを待つ。 

 学生食堂での食事の際は、美味しそうに食べることを常に心がけた。 

 


 作戦その②⋯⋯おっちょこちょいな君を守ってあげたい。


 ノエルは守ってあげたくなるような、可愛らしい女性が好みだ。


 その点、アンジェリカ=コンフィズリーは、見た目はクール系だし、ノエル以上に優秀過ぎて隙もなく、ノエルに対する態度も、恋人のそれではなく、随分とあっさりしている。


 そりゃ、そんなアンジェリカと一緒にいても、ノエルは満たされないよね。



 段差を見つければ取り敢えず転んでおく。

 助け起こしてくれるのは、いつもモブ男子学生だけど、それでもいい。


「またオリビア嬢が転んでいるぞ」

「平衡感覚や脚力に、何か問題を抱えておられるのでは?」

「ここまで来ると心配だ。杖を使われた方が安全かもしれない」

「ヘルメットとグローブ、関節のプロテクターも必要だ」


 そんな噂話は、私の耳を右から左に流れていった。



 なかなかノエルとの接触チャンスがない中で、最大にして最高のチャンスが巡ってきた。

 そう。医術の素質の計測である。


 さすが乙女ゲームのヒロイン。

 クラスメイトたちの前で、チート能力を存分に見せつけ、『分からせてやる』ことが出来た。


 クラスメイトに囲まれる中、ノエルから話しかけられ、褒められ、握手まで求められてしまった。


 私、美波は、小さい頃から会話の中心にいたタイプなので、こういうのは得意中の得意。


 ここが押し時だと冷静に判断した。

 

 

 ノエルは私に興味を持ち、テリトリーに入れてくれた。

 一緒にランチを取ることも、すんなり許可してくれた。

 これで、王太子妃ルートまっしぐら。


 ついでに、食欲不振を訴えるアンジェリカの前で、美味しそうに食べられる女マウントをとっておいた。

 食欲不振の理由は大方、自分より才能がある女が現れて、戸惑っているといった所だろう。

 

 見てなさい。このままノエルは私が頂いちゃうんだから。



 作戦その③⋯⋯野生動物にも優しい、型にハマらない君を抱きしめたい。


 私は今、あるイベントの発生を狙っている。

 それはノエルルートの全エンド共通のもので、木に登った猫を助けようとしたヒロインが、誤って足を滑らせた所、ノエルが受け止めてくれるというものだ。


 ちなみにこのシーンは、スチルにもなっていて、普段は対外的な美しい微笑みを崩さないノエルが、驚いたように目を見開くところが、素の表情という感じで素敵なんだよね。


 木の根元に座り、チャンスを伺う。

 キーとなる猫は、毎日この時間に、ここにいるから、後はノエルのタイミングを見計らうだけ。


 ついでに、読書でもしながら百面相よ。

 これも乙女ゲームの定番のテクニックで、本を読みながら微笑んだり、目を潤ませたりとコロコロ表情が変わる様を遠くから見た攻略対象が、魅力的に感じてしまうと言うものだ。


 そうこうしているうちに、ノエルが通りかかるのが見えたので、急いで木に登る。

 もう何度目か分からないけど、毎度毎度、窓の外を全く見ずにスルーしていくのよね。


 食べすぎたせいか、スカートのお腹周りが、きつくなってきたな。

 これ以上はベルトを緩められないから、もっと上の方で履くか。

 スカートが短く見えるけど、こうやってノエルをドキドキさせるのも悪くない。


 ノエルがこちらを見ていることを期待して、猫に手を伸ばす。


 猫は私をチラリと見た後、無視して昼寝を続ける。

 生意気な⋯⋯ 

 つま先立ちをしながら、なんとか猫に手を伸ばす。

 すると、突然人の気配がした。

 やった! ノエル!?


「オリビア嬢、大変です。乙女の聖域が見えております」


 なんだ。女か⋯⋯って、この声はアンジェリカ?

 それと、乙女の聖域って何? 

 まさか、パンツの中身の事を言ってる?


「まじで? 最悪!」


 やば、お嬢様言葉にするのも忘れて、普通にギャルみたいに喋っちゃった。


 動揺した私は木から落下し、下敷きになったアンジェリカは大怪我を負って、意識を失ってしまった。

 先生たちが一生懸命治療してくれている。


 どうしよう。事故とは言え、これじゃ犯罪者じゃん。

 でも所詮(しょせん)は、ただのゲームの世界でしょ?

 私は自分かわいさに、ウソをついてしまった。

 


 結局、ウソをついたことはすぐにバレた。

 それ以前にノエルは、アンジェリカの事しか信用していなかった。


「この世界、本家のゲームより難しすぎない? 難易度設定がおかしいと思うんだけど。私、ノエルとアンジェリカって、もっとギスギスしてるのかと思ってたのに」


「それは、つい最近、ミッションに失敗したヒロインがいたからニャ。その子の影響で、原作のシナリオとは違った形で、二人は近づいてしまったのニャ。ちなみにオリビアも二人の仲を盛り上げるのに、一役買ってしまったのニャ」


 お助けキャラのメープルの言葉に、がっくりとうなだれた。

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