表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/44

5.No.002 天真爛漫系ヒロイン×オリビア②


 医術に関する素質を測定する授業は、オリビア嬢が機械を壊してしまった事で中止となった。


 後に学園長から、オリビア嬢が放っていた七色の光は、全ての病やケガを治療するのに適性がある、チート級の能力を秘めていると説明があった。


 クラスはオリビア嬢を中心に、大騒ぎになっていた。


「すごいな、オリビア嬢! 君は天才なんじゃないか?」

「ワッフル侯爵も、さぞかしお喜びのことでしょう」


「そんなにすごいでしょうか!? けど、わたくし、正直ピンと来なくって⋯⋯てへへ」


 オリビア嬢は照れながら謙遜している。

 そんな彼女のもとに、ノエル殿下が近づいていく。 


「間違いなく君は素晴らしいよ。こんなにも才能に溢れる人を、見たことがない。この国の未来は明るいものになるだろうね。是非今度、その秘訣についてご教授願いたい」


 ノエル殿下は、オリビア嬢に声をかけ、握手を求める。


「殿下! ありがとうございます! わたくし、殿下のために、この国のために、誠心誠意、尽くす所存です!」


 オリビア嬢は、その手を握りながら、まぶしい笑顔で答えた。



 お昼休み、学生食堂にて。

 私は食事をとりながら、一人で考え事をしていた。


「新入生の中で、測定不可能なほどの素質を持つ女子学生がいたそうだぞ!」

「機械が壊れたとか、七色の光を出したとか」

「もしかして、ノエル殿下の妃の座に抜擢されるんじゃ⋯⋯」


 上級生たちが噂している。

 もうこんな所まで話が伝わっているんだ。

 

「はぁ⋯⋯」


 思わず溜息が出る。


「おい! 後ろの席にアンジェリカ様がいらっしゃったぞ!」

「このバカ。さっきの発言、聴こえたんじゃないだろうな?」


 上級生たちはヒソヒソと話している。

 

 彼らの読みは、恐らく当たりだ。

 ノエル殿下が私を婚約者に選んだ理由は、私に医術の素質があるから。

 治療を行える者がいれば、その家門は国外との戦はもちろん、内乱でも強い力を発揮することができる。

 領民だって兵士だって、少しでも生存率が高い家門に付くのが、当然の心理。

 

 王室としては、オリビア嬢を放っておけるはずがない。 

 穏便に彼女を取り込むためには、やはり婚約という形が理想的だ。

 それに、ノエル殿下とオリビア嬢の子供なら、より強大な力を持って生まれてくる可能性も高い。

 

 私はそう遠くない内に、お役御免になるだろう。

 悲しいな。

 お父様もお母様もお兄様も、みんながっかりするだろうな。

 

「ノエル殿下〜ご存知ですか? この食堂のカルボナーラは、とっても美味しいんですの!」


「そうなんだね。それは是非、味わいたい」


 嫌な予感は現実のものだと主張するかのように、オリビア嬢とノエル殿下が歩いて来た。


 オリビア嬢は恋する乙女のように微笑みながら、ノエル殿下の半歩後ろを歩いている。

 ノエル殿下は、そんな彼女を時々振り返る。


 二人は仲睦まじい様子で、料理を取りに行った。

 何かが音を立てて崩れ去ったような感覚。

 嫌な汗が出て、食事も喉を通りそうにない。


 このまま食事を残すなんてお下品かしら。

 そんなことを考えていたら、ノエル殿下に声をかけられた。

 

「やぁ、アンジェリカ。僕たちも今から食事なんだ。ご一緒しても?」


「はい。もちろんです。殿下」


 返答すると、殿下は私の隣の席に座った。

 

「失礼しまーす」


 オリビア嬢は殿下の反対隣に座った。


 二人のお皿にはお揃いの料理が乗っている。

 きっと、相談しながら決めたんだろう。


 ただし、オリビア嬢の料理は、一品一品が山のように盛られている。

 もしかして、取り分け前の量を大皿ごとそのまま持って来ている?

 そんな風に疑ってしまうほどだ。


「どうしたんだい、アンジェリカ。食欲が無いのかい?」


 ノエル殿下は心配そうに私の顔を覗き込む。


「はい。実は、なんだか胸がいっぱいで、少し食欲が湧かないんです。きちんと完食は致しますので⋯⋯」


「そうなんだね。君の胸を憂いで満たし、その可愛い顔に影を落とさせるのは、どんな事象なんだろうね」


 ノエル殿下は、悲しげに眉を落とした。


「なんだあれは」

「修羅場か?」


 遠くの方で、誰かが私たち三人を見て不安そうにしている。


 原因はあなた様ですと言いたい所を、ぐっと堪える。 


「アンジェリカ様、召し上がらないんですか〜? 殿下は、美味しそうに食事をされる女性が、お好きなんですよねー?」


 オリビア嬢はノエル殿下の顔を覗き込んだ。


「確かにそうだけど、君にそんなことを話したかな?」

 

「いえいえ、有名な話です!」

 

 オリビア嬢はそう言って笑った後、料理を口に運んだ。

 時折手を止め微笑み、それはそれは美味しそうに食べ進めていく。

 山盛りあったはずの料理が見る見る消えていく様は、見ていて気持ちが良いものだ。


 そんなオリビア嬢の姿を、殿下も微笑ましく見ていた。



 ある日の出来事。

 中庭が見える廊下を歩いていると、学生たちが窓の外を見ながら、何やら騒いでいた。


「またオリビア嬢が木に登ってるぞ」

「あれだろ? 野良猫のだんご丸を救出しようって言う」

「けど、だんご丸は木の上で昼寝するのがルーチンのはずじゃ⋯⋯」

「自力で降りられるから、助けなくても良いって教えてあげたんだけどな」


 またもやオリビア嬢が注目を集めている様子。

 淑女なのに、猫を助けようと危険をかえりみず木に登る彼女は、優しい人なんだろうか。

 

 猫本人は迷惑そうにしているのが、気になるところではあるけど。


「天才は、凡人には分からないことをするらしいから」

「万が一ケガをされても、ご自分で治療なさるだろう」


 学生たちはそう言って、はけていった。



 相変わらず木に登り、猫に向かって手を伸ばしているオリビア嬢。

 よく見ると、制服のミニスカートが枝に引っかかっている。

 ここからでも下着が丸見えだ。

 

 私は早足で近くの扉から中庭に出た。


「オリビア嬢、大変です。乙女の聖域が見えております」


 出来るだけ小声で済むように、木の下に近づき、オリビア嬢を見上げて知らせる。


「まじで? 最悪!」


 オリビア嬢は慌てて片手でスカートを押さえた。

 そのことでバランスを崩したオリビア嬢は、落下してしまった。


 私の頭上に落ちてくるのが、スローモーションで見える。


 恋物語では、落ちてくる淑女を殿方が抱きとめてくれるのが定番だ。

 けれども、加速しながら落ちてくる人体は、巨大なエネルギーをまとい、凶器となって私に襲いかかってきた。


 オリビア嬢の下敷きになり、激しい痛みを感じたと同時に、意識を失ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ