42.No.010 重課金系ヒロイン×ビクトリア③
王宮に呼び出された私とお父様が、王の間にたどり着くと、そこにいらっしゃったのは、玉座に座る両陛下とその近くで控えているノエル殿下とサヴァラン殿下。
「コンフィズリー公爵、アンジェリカ嬢、ご足労感謝する」
陛下は脚を組んだ姿勢で玉座に腰かけ、肘置きに頬杖をついている。
「公爵には手紙を出した通り、ノエルは医術を扱えなくなった。この休暇中に手続きを済ませ、退学させる事に決まった」
陛下はため息をつきながら言った。
ウソ⋯⋯既にそんなところまで話が進んでいるの?
もう力が戻る可能性はないの?
「ノエルの処遇は未定だが、役立たずに婚約者など不要。よって、ここに婚約破棄を申し入れたい」
陛下の言葉に頭を殴られたような衝撃が走る。
これではノエル殿下が危惧していた通りになってしまう。
ノエル殿下は拳を握りしめながらうつむき、サヴァラン殿下は目を伏せ、王妃殿下は無表情だ。
「陛下、僭越ながら申し上げます。娘は、五歳の頃より、ノエル殿下の婚約者の立場です。今さら急に婚約を破棄されましても、貰い手がつきません。そもそも、殿下と娘は愛し合う仲ですから、引き裂くことは⋯⋯」
お父様は私の気持ちを理解してくださっているんだ。
震えながら陛下に進言している。
「公爵の親心も理解できる。そこで、アンジェリカ嬢には、サヴァランと婚約して貰いたい。今までサヴァランは、何かと理由をつけては、婚約者を決めずに、のらりくらりと、かわしてきた。しかしながら、アンジェリカ嬢のことは大層気に入っている様子。サヴァランが王太子になるのだから、アンジェリカ嬢の地位は変わらない」
陛下はそれで一件落着とでも言いたげだ。
「陛下、僭越ながら申し上げます。ありがたいお言葉ですが、わたくしはノエル殿下を愛しております。ですから⋯⋯」
「アンジェリカ嬢、それはつまり、サヴァランでは不満ということか?」
私の発言を遮る陛下の、氷のように冷たい視線が突き刺さる。
「いえ、決してそういうことでは⋯⋯」
この後の立ち振る舞いによっては、処刑や爵位剥奪もあり得る。
けれども、どのような言葉を選べば、陛下に伝わるの?
「アンジェリカ嬢は、何か思い違いをしているようだ。そうであろう、コンフィズリー公爵?」
今度はお父様に矛先が向けられる。
「もちろん娘も、光栄なお話であることは理解しておりますが、そもそも婚約と言うのは、結び直すこと自体が稀ですし、人の心というのはそう簡単に想いを無かったことにはできません。戸惑うのも無理はないかと⋯⋯」
お父様はひざまずき、陛下に頭を下げた。
「ほう、そうか。つまり、個人的な感情が邪魔をしていると」
陛下の声は硬く、怒りを含んでいる。
冷や汗をかくお父様をかばうように、ノエル殿下が前に出た。
「父上、どうか考え直して頂けないでしょうか。今の僕では、アンジェリカに相応しくないことは、理解しております。それでも僕はアンジェリカを愛しています。他には何も要りませんから、どうか、アンジェリカだけは、奪わないでください」
ノエル殿下はひざまずき、陛下に頭を下げた。
「アンジェリカ嬢ほどの逸材と、お前のような無能が結ばれることは、この国の衰退を意味する。お前はこの国を滅ぼすつもりか!」
陛下が怒りをあらわにし、場の空気が更に凍りつく。
「無様ですね、兄上。しかし父上、一点訂正がございます。俺は別にアンジェリカの事を気に入ってなどございません。俺は次の春の学園入学を期に、アンジェリカより高い能力を持つ女性を見つけますから。この二人の事など、どうでもよいのです。これ以上、喚かれるのも目障りですから、好きにさせておきましょう」
サヴァラン殿下はひざまずきながら、冷たい声で言った。
やはりサヴァラン殿下は、私の事などどうでもいいのに、あのような甘い言葉を言っておられたんだ。
「サヴァラン、お前まで世迷い言を言うのか。より能力の高い令嬢と言うのも、奇行に走る孤児院出身の養女たちの事を言っているのだろう? それはならん! 王族の血を汚すつもりか! お前たちは今まで、この国の政の何を学んで来たのだ! いつも言うておろう、お前たちは王族である自覚が足りないのだ!」
怒った陛下は、ひざまずくノエル殿下とサヴァラン殿下の頬を殴った。




