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4.No.002 天真爛漫系ヒロイン×オリビア①


 入学式後のパーティーが無事に終わり、週明けからは、学園生活が本格的にスタートした。


 朝、寮の個室で目を覚ました私は、パーティーでの出来事を思い出していた。


 困惑する事もあったけど、ノエル殿下が私を信じてくれて、優しく声をかけてくれて⋯⋯


 ダンスを踊りながら、至近距離で見つめられて、素敵な笑顔で優しく微笑んでくれた。

 その上、何度も綺麗だと褒めて貰えて、夢の様な時間を過ごすことが出来たのよね。


 そんな殿下と、今日から同じ教室で学ぶ事が出来るんだ。

 胸が高鳴らない方がおかしい。



 身支度を整え、部屋を出て、長い廊下を歩き、学舎へと向かう。

 これから六年間、私たちが主に使用する教室に入ると、そこは、どの席からも教壇がよく見える、階段教室になっていた。


 来るのが早かったのか、着席しているのは数人ほど。


「ごきげんよう」

「ごきげんよう、アンジェリカ様」


 クラスメイトたちと挨拶を交わした後は、指定された席に着く。

 一番後ろの中央付近の席だ。

 ここからなら、演習の全体像もよく見えそう。


 カバンから、まっさらな教科書を取り出し、パラパラとめくる。

 六年後、この学園を卒業する頃には、この教科書も書き込みなんかで、真っ黒になっているんだろうな。

 

 

 ここ王立医術学園は、その名の通り王家が出資して運営している学校だ。


 医術というのは、病気やケガを治す力のことを指し、それはこの国の中でも、特別な人間にしか扱えない神聖な力。


 その特別な人間とは、原則として、王族や貴族の血筋の者。

 (いにしえ)の戦では、その様な力を持つ家門が有利だったため、その力関係が現在も維持されていると言うわけだ。


 医術は、術者が患者に念力を送ることで治療する技術なので、薬草やナイフ、針と糸なんかは使わない。


 異国の言葉で言うところの、『治癒魔法』や『聖力』という様なものに近いイメージだ。


 医術の素質を持つ者は、この学園で人体の構造や機能、病気のメカニズムを学ぶ事で、その力をより正確に扱えるようになることを目指す。


  

「アンジェリカ様、ごきげんよう」

「キャラメル嬢、ごきげんよう」


 続々と入ってくる学生たちから挨拶される。


 公爵令嬢の私がこんなに早く来てしまったら、みんな気を使ってしまうだろうか。

 明日からは、もう少しゆっくり来よう。


 そんな事を考えていたら、ノエル殿下が入って来られた。


 真っ白なシャツの上に、濃いブラウンのジャケットを羽織っていて、首元には赤いボーダー柄のネクタイを締めている。


 グレーのズボンと濃いブラウンの革靴を履いたそのお姿は、元々背が高く脚が長いのが、さらに強調されているみたい。

 麗しいその出で立ちに、女子学生たちの視線が釘付けになる。

 

 いつもの王族の正装も素敵だけど、制服姿も、とてもよくお似合いだ。

 他の男子学生には失礼だけど、同じお召し物とは思えないくらい、魅力的に感じる。

 

 殿下はクラスメイトたちに挨拶されながら、ゆっくりと階段を登って来た。


「僕の席は⋯⋯アンジェリカの隣だね。先生が忖度(そんたく)してくれたのかな」


 嬉しそうに微笑まれると、心臓が止まり、思考が停止する。

 そう、ご挨拶も忘れてしまうほどに⋯⋯



「⋯⋯⋯⋯殿下、ご挨拶が遅れました! ごきげんよう」

 

 急いで立ち上がり、お辞儀をする。


「ごきげんよう、アンジェリカ」


 ノエル殿下の笑顔は、目を開けていられないくらい、まぶしかった。



 午前中のガイダンスが終わり、お昼休みになった。

 学生食堂に向かうと、何やら人だかりが出来ていた。


「すごいな。先ほどから何人前食べているんだ? もうじき、他の学生が食べる分も無くなりそうだ」


「あれだけ食べれば胸焼けしそうですけど、たいそう美味しそうに食べていらっしゃいますわね」


「ワッフル侯爵家の養女らしい。元々は孤児院出身なんだとか」


「そう言う事情ならば、この食堂の料理は最高のご馳走だろう」


 他の学生たちに、遠巻きに噂されているあのお方は⋯⋯

 先日の入学パーティーでも、誰とも話さず踊らずに食事をとり続けていたという、オリビア嬢。


 ちなみに、ここの学生食堂はビュッフェ形式になっていて、朝昼晩と好きなお料理を好きな量、頂くことが出来る。


「はぁ〜美味しい! ほっぺたが落ちそうだわ!」


 オリビア嬢は満面の笑みを浮かべながら、頬に手を当てた。

 食堂中に響き渡る独り言だ。 


 小柄で美しい見た目からは、想像出来ないほどの量を、とても嬉しそうに食べている。

 私は何故か、その無邪気な姿から目が離せなかった。



 ある日。

 この日の授業は、自身の医術の素質を測定するというものだった。

 

「医術の素質が高い者は、より重度の病やケガを治療する事が出来ます。しかし、素質が低い者が自分の実力以上の術を施す事は、時に患者の命を脅かす危険をはらんでいます。そのためにも、今の実力を知ることが大切です」


 担任のキャンディ先生が説明してくださる。

 キャンディ先生は、つやのある黒髪を夜会巻きにしていて、赤い縁のメガネをかけている、四十歳前後の女性だ。

 

「素質の測定には、こちらの機械を用います。手のひらの絵が描かれている部分に、ご自身の手のひらを乗せてください」


 その機械は、腰くらいの高さの重厚そうなクローゼットの上に、五つの電球が横一列に並んで乗っているような、不思議な見た目だった。


 先生に一人ずつ順番に呼び出され、全員の前で測定するらしい。


 素質については、弱、並、上、特上、極上の5段階評価。

 途中から、なんだか美味しい(うなぎ)やお肉のランクみたいだ。


 一年生のこの時期では、弱だと『そんなものだ、頑張ろう』、並だと『見込みあり』という感覚らしい。

 光の色合いで、得意分野まで分かるそう。



 まずは始めはノエル殿下だ。

 殿下が機械に手を乗せると、五つある電球の内の四つが青白く光った。


「素晴らしい! ミスター・ノエルは特上ですね。青白い光ですから、幅広い内臓疾患の治療に適性があるようです」


「おぉ! さすがだ」

「素敵ですわ」


 クラスメイトたちが、小さく歓声をあげる。


「次はミス・アンジェリカ」


 微笑みながら席に戻ろうとする殿下に会釈して、機械の前に立つ。

 

 さて、どうでしょう。

 少しワクワクしながら、機械の上に手を乗せると五つの電球がピンク色に光った。

 五つ目の電球はチカチカ点滅していて、他の四つと比べると、極端に光が弱い。


「なんと! ミス・アンジェリカは極上ですね! 光が弱くても灯っているので、そのように判定します。ピンク色の光は、特にケガの治療に適性が高いとされていますね」


 なるほど。ケガの治療か⋯⋯

 自分自身は大人になってからは、そうそうケガをしないけど、領民の中でも日常的にケガ人は発生するし、万が一他国に攻め込まれたりして、兵士たちの治療が必要になった場合も役に立てそうだ。


「やはりアンジェリカ様の実力は本物だ」

「圧倒されますわ」


 クラスメイトたちも褒めてくれるので、ルンルン気分で自分の席に戻る。


「さすがだ。アンジェリカ。やはり君は、素晴らしい素質を持っているんだね」


 ノエル殿下が笑いかけてくださる。


「お褒めに預かり光栄です」


 なんだか照れてしまうけど、きっと私はこの力でこの国の役に立ってみせると、決意を新たにすることが出来た。

 

「お次は、ミス・オリビア」

「はい!」


 オリビア嬢は物音を立てながら、勢いよく立ち上がり、元気に返事をした。

 機械の方へ向かおうと、階段を下りている途中、最後の段に差しかかった時、足を段差にひっかけて前のめりに転んでしまった。


「まぁ!」

「レディ、おケガは?」


 近くにいた男子学生がオリビア嬢を助け起こす。


 オリビア嬢は、照れたように頭をかきながら、彼の手を借りて立ち上がり、機械の前まで歩いた。


 そして、気になる測定結果は⋯⋯


「こ、こんなのは初めて見ました! 学園長を呼んできます!」


 キャンディ先生は慌てて、教室を飛び出して行った。


 それもそのはず、五つの電球がまぶしいほどに光輝いていて、その色はなんと七色。

 このお方は、とんでもない素質を秘めているんだと、誰もが直感しただろう。


 クラスメイトたちは言葉を失っている。

 そんな中、電球が放つ光は、どんどんまぶしさを増していき⋯⋯


――ボン! パリン! ガシャン!

 

 その素質は測定不能の領域だったのか、機械が壊れてしまった。


 皆がポカンと口を開ける中、オリビア嬢は言い放つ。


「あれ? もしかして私⋯⋯何かやっちゃいました?」


 オリビア嬢は、イタズラが見つかってしまった子供みたいに、舌を出して笑った。

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