33.No.008 トラブルメーカー系ヒロイン×ソフィアの中の人①
私は沙織。
二十歳の大学生。
乙女ゲーム『ドルチェのような恋をして』の関連グッズなんかも持っているほどの大ファンだ。
なに? 乙女ゲームにハマるような女は、男にモテないんでしょって?
失礼な。
現実の男だって、乙女ゲームで培った知識と勘があれば、簡単に攻略できちゃうんだから。
ある日の飲み会での出来事――
「沙織ちゃん! 昨日の夜の投稿見たよ〜! 海が好きなんだね〜今度、俺とも行かない?」
「おい、抜け駆けはズルいぞ! 俺も行く!」
「おいおい、お前らは運転出来ないだろ? 俺が車を出すから! ね? 沙織ちゃん!」
サークルの同期の、この三人組は、いつも私を必死になって口説いてくる。
「良いよ〜! 早苗ちゃんと、茜ちゃんも誘お〜!」
男の人にモテると気分がいいけど、ワンコ系とか、オラオラ系とか、私の好みじゃない人ばっかで、正直つまんない。
この三人には悪いけど、私はもっと、王子様みたいなイケメンが好きなのよね。
二年前に一度、まさしく王子様みたいなイケメンと付き合えたことがあったけど、一ヶ月も経たない内にフラれて、それ以来、王子様系との出会いすらなく⋯⋯
その点、ゲームの世界の男性たちは、眩しいくらいキラキラしてる。
私が乙女ゲームの世界にどっぷりハマるまで、そう時間はかからなかった。
ある日私は、幸運なことに、ゲームの世界に入り込むことができた。
さらに運が良いのは、ノエルと同じ年に、学園に入学出来たこと。
これから六年間、たっぷりと時間をかけて、ヒロインライフを満喫できる。
そう思ってたんだけど⋯⋯
「ソフィア嬢、こちらのケーキも美味しいですよ?」
「ソフィア嬢、このチョコレートも香りが良くて甘いです」
「お飲み物が空になりましたね。何かとって来ましょうか? ソフィア嬢?」
順調に逆ハーレムを形成したのは良いものの、所詮はモブ。
顔立ちは平均して整ってはいるものの、やっぱりノエルとは格が違うのよね。
ノエルが1等星なら、この男たちは3等星。
全くもって、輝きが足りない。
退屈な日々を過ごしていると、神出鬼没のお助けキャラのメープルが現れた。
「ねぇ、メープル。私、ノエルとのイベントが、全然始まらないんだけど。パトリシアとオリビアとカトリーヌ⋯⋯あの人たちも、私と同じ乙ゲープレイヤーなんでしょ? 無残にも散っていったけど、爪痕は残してるじゃない」
「おやおや、ソフィアもヒロイン志望なのかニャ? てっきりモブキャラたちと、愛を育むのかと思っていたのニャ。そういう幸せの形も、最近流行っているのニャ。無理はしなくていいのニャ」
メープルは面倒くさそうに、私のベッドに寝転んだ。
「確かにそう言うのも悪くないかもしれないけど、やっぱり私は王子様が好きなの!」
「今のノエルにとっては、アンジェリカ以外の女子は芋と大差ないのニャ。彼の目に留まるためには、インパクトが必要なのニャ」
「インパクトか⋯⋯」
こうして私は、メープルの助言により、少女漫画では定番の『トーストをくわえて、曲がり角でぶつかるシーン』を再現することにした。
結果、死にかけていたノエルを救うことに成功した。
それからはオリビアの手口も真似しつつ、おっちょこちょい、やらかしヒロインムーブをかましながら、ノエルを救うことを繰り返した。
◆
ある日、ガチャを引いた私は、神アイテムを手に入れた。
それはピンク色の液体惚れ薬、『君を好きになりソーダ』
古典薬学の授業で、運良くノエルとペアになることが出来たので、仕掛けるならこのタイミングだ。
取扱説明書によれば、惚れ薬を飲んで、一番最初に見た人を好きになるとのこと。
ノエルは惚れ薬入りの健胃薬を一口飲んだあと、ノートをパラパラとめくった。
「意外と苦味はありませんね。ノエル殿下?」
もちろん私は飲んだふりだけどね。
声をかけると、ノエルは私の顔を見た。
「そうだね。ソフィア嬢」
私を見つめながら、優しく微笑むノエル。
決まった⋯⋯かと思ったら、ノエルはそのまま倒れてしまった。
どうやら、化学反応か何かを起こして、成分が変化してしまったらしい。
ノエルは、うわ言でずっとアンジェリカを呼んでいる。
惚れ薬が効いていないことに焦った私は、次の作戦に移った。




