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32.No.008 トラブルメーカー系ヒロイン×ソフィア⑤


 気がついたら倉庫のような場所で、縄でぐるぐる巻きにされていた。

 薬品を嗅がされ、眠ってしまっていたらしい。


 後ろ手に縛られているから、身動きできない。

 ここはどこなの? 彼らは何が目的なの?


 ノエル殿下も捕まってしまったの?


 ガタガタと震えていると、リーダー格の男が部屋に入って来た。 


「いや〜まさかこんなにも簡単に、アンジェリカ=コンフィズリーが手に入るとは思わなかったな」

 

 男は下品な笑みを浮かべながら、ナイフで私の頬をペタペタと叩く。


「これで公爵家と王家から身代金を受け取れる」

「業者としても箔が付くぜ」

 

 後ろに控えていた男たちも笑っている。

 犯人グループは、ざっと見ただけで十人以上いるみたい。 


「ノエル殿下はどこですか!? 無事なんですよね!?」


「王太子はここにはいねぇよ。今ごろ寮で寝てるんじゃねぇか?」


 男の言葉に耳を疑う。

 え? ソフィア嬢が、ノエル殿下の一大事みたいに言うから、ついて行ったのに。


 どうやら私は、彼女に売られたらしい。


「まぁ、んな事はどうでもいいだろう。コンフィズリー家とアフォガート家には、脅迫状を送りつけた。何か反応があるまで数日はかかるだろうから、それまで仲良くしような」


 リーダー格の男は、私の髪の毛を束ですくって持ち上げ、キスをした。

 

「止めてください! 気持ち悪い!」


 直接肌に触れられた訳じゃないのに、全身に鳥肌が立つ。

 

「さぁ、お嬢様。お楽しみの時間ですよ」


 男は私の肩を抱き、顔を近づけてきた。


「いや! 止めて!」


 浜に打ち上げられた魚のように、必死に暴れる。


「こら! 大人しくしろ!」


 男は、張り手を食らわせようと、腕を振りかぶった。

 怖い! 殴られる!

 衝撃に備えて固く目を閉じる。



「うわぁ! ぐへっ!」


 変な声が聞こえ、その後、いつまでも痛みが来ないので、目をそっと開けると、なぜかリーダー格の男が、青白い顔をして伸びていた。


「僕のアンジェリカちゃん! 助けに来たよ〜!」


 開いた窓のフチに、片膝を立てて腰かけているその人は⋯⋯


「ダックワーズ⋯⋯じゃなかった。先生!」

 

 助けに来てくれたんだ。

 マントを風になびかせ、かっこつけながら歩いて来たダックワーズ先生は、すぐに縄を解いてくれた。

 

「ダックワーズ先生、訂正してください。アンジェリカは、()()婚約者です」


「アンジェリカ様は、()()ご主人様です」


「アンジェリカ様は、()()恩人です」


「ノエル殿下! クグロフ! トルテ! ありがとうございます!」

 

 オオコウモリの群が犯人たちの血を吸い、ノエル殿下、クグロフ、トルテは、体術で犯人たちを沈めていく。


「「アンジェリカ様! 私たちもおります!」」


 大男たちに蹴りを入れながら叫んだのは、クグロフの妹のシュガーとミントだ。


「シュガー! ミント! ありがとう!」


 自分たちでも、戦闘能力には自信があると言ってたけど、本当に強いんだ。

 まだ十四歳の女の子なのに、すごいな。

 

 六人の登場で、あっという間に犯人グループは壊滅した。



「ウチのオオコウモリ達が、異変を知らせてくれてね。アンジェリカちゃんが、他の誰かに奪われないかどうか心配で、監視をつけておいたんだ」


 ダックワーズ先生は、誇らしげに胸を張った。

 ありがたいけど、素直に喜んで良いのか。


「オオコウモリ達が、私たちにもこの場所を知らせてくれたのです!」


 シュガーとミントは私に抱き着きながら言った。

 犬みたいにふわふわな二人の頭を撫でると、心が落ち着く。


「つまり、僕たちのお陰でアンジェリカちゃんが無事だったんだから、少し血を分けて貰えるよね?」


 ダックワーズ先生は、さも当たり前の事のように言う。


「え!! 結局そういう事になるんですか?」


「ダックワーズ先生? 今回のことは感謝致しますが、貴方は謹慎中の身なんですから、そのことを自覚された方がよろしいかと」


 ノエル殿下は、ダックワーズ先生の首に十字架のネックレスをかけ直し、たしなめてくれた。



 翌日。

 ノエル殿下、トルテ、シフォン、クグロフと五人で学園内の廊下を歩いていると、ソフィア嬢が話しかけてきた。


「アンジェリカ様、ご無事でよかったです! わたくし、とても心配でした。わたくしは、あの者たちに騙されただけで、まさかあんな事になるなんて、思いもしなかったんです⋯⋯」


 ソフィア嬢はわざとらしく落ち込んでいる。


「ソフィア嬢⋯⋯」


 ノエル殿下が彼女の肩に手を置くと、ソフィア嬢はノエル殿下の手を握り、顔を背けた。


「いけませんわ、殿下。どうやらわたくしは、呪いにかけられているようです。わたくしに近づけば、貴方は傷ついてしまう⋯⋯わたくしは貴方を守るために、自らを犠牲にしようと思います。このまま、わたくしと一緒にいたら、貴方を失ってしまいそうで怖い⋯⋯ですから、距離を置いたほうが良いのです。全て、わたくしのせいなのです」


 ソフィア嬢は、なにやら芝居がかったことを言い出した。

 自らを犠牲にって、どういう意味なんだろう⋯⋯


「うん、そうだね。全て、君のせいだ。悪いけど、お言葉に甘えて、君とは距離を置いた方が良さそうだ。僕の大切なアンジェリカを、これ以上、危険なことに巻き込むわけには、いかないからね」


 ノエル殿下は、困ったように眉を下げながら言った。


「いやいや! そこは、そんな事無いよ。君のせいじゃないよ〜とか。君が身を引く必要はないよ、これからも友だちだよ〜とか、言ってくださるのが優しさじゃありませんか!?」


 ソフィア嬢の身勝手な叫びが、廊下に響き渡ったのだった。

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