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30.No.008 トラブルメーカー系ヒロイン×ソフィア③


 ソフィア嬢に押されて進んだ扉の先は、落とし穴だった。

 落とし穴は勾配が急なトンネルに繋がっていたみたい。


 途中で踏ん張ろうとしても、ツルツルと滑ってどんどん下に落ちていく。

 真っ暗で怖い。


 もう上には戻れないけど、この先がどうなっているかも分からない。

 地面に叩きつけられたら死んじゃう。


 されるがままに滑り落ちていくと、やがて光が見えて来た。

 トンネルが終わる――


――ポフッ


 着地した先には、芝生と花畑が広がっていた。


「あいたたた⋯⋯」


 お尻を打ってしまったけど、大きな怪我はせずに済んだ。

 

 顔を上げると、正面には巨大な壁があった。

 壁に空いた、入り口のような穴の上には、木の看板がかかっている。


『薬草畑――この迷路を抜けた先』

 

 この迷路をくぐり抜けることができれば、万能草が手に入るんだ⋯⋯

 芝生に手をつき、立ち上がる。

 

――キィキィ


 突然、不快な甲高い鳴き声が聞こえ、辺りを見回すと、周囲に生えている枯れ木から、黒い生き物が大量にぶら下がっているのが見えた。


 あれは何?

 人間の赤ちゃん位の大きさがあるように見えるけど⋯⋯


 後退りすると、ミシミシと枯れ枝を踏む音が鳴る。

 

――キィキィキィキィ


 黒い生き物は、大きな羽根を広げて、こちらに向かって飛んできた。

 

「いやー!! オオコウモリ!?」

 

 大きい! 怖い! こんな大群に襲われたら死んじゃう!


 大急ぎで迷路の入り口に逃げ込む。

 コウモリが真っすぐ、追いかけて来ている。

 右? 左? 一度でも間違えたら引き返せない。


 よく分からないけど右! 

 その次も右! 

 そろそろ左?


 ただの勘で突き進むと、行き止まりにぶつかってしまった。

 大量のコウモリが、黒くてグリっとした目で、こちらを見つめている。


 血を吸われる? それとも食べられちゃう?

 パンチで戦えばいい? けど、あんなのに勝てる?


 頭をフル回転させながら、突破口を探す。

 先ほどからコウモリは、こちらには近づいて来ずに、遠巻きに私を見ている。

 

 なんだかよく分からないけど、様子を伺われている。

 まだチャンスはあるかもしれない。


 震える脚でなんとか立ち上がる。

 コウモリの方へ一歩進むと、コウモリ達は羽ばたきながら後ろに飛び退いた。

 なんだか、警戒されているみたい。

 このまま、さっきの分かれ道まで引き返そう。


「へぇ〜面白いね〜ウチのコウモリたちが、女の子を怖がるなんて」


 場違いな明るい声が、後ろ上方から聞こえた。


 恐る恐る振り返り、上を見上げると、黒いスーツに赤いマントを羽織った、二十代半ばくらいの男性が、壁の上に腰かけていた。 


 男性の背中からは、コウモリのような羽根が生えている。


「獣人⋯⋯って、吸血鬼!?」


「そうそう。ようこそ、僕が作った迷宮(アトラクション)へ」


 吸血鬼は、両足をバタバタさせながら、嬉しそうに笑った。



 吸血鬼のお陰で、コウモリ達に襲われる心配もなくなり、迷路の裏口を通って、先に進ませて貰うことが出来た。


「僕の名前は、ダックワーズ。最近では珍しい吸血鬼。いや〜よくこんな奥深くまで来てくれたね〜だいたいの子は、半分位のところで帰っちゃうんだけどな〜」


 ダックワーズは、スキップしながら私の前を歩く。


「赤い扉を潜ったら、一気に、ここまでたどり着いたんです」


「へぇ〜あんな、いかにも不気味な赤い扉をよく進む気になったね〜僕だったら絶対に青にするけどな〜」


「そもそも貴方は何が目的なんでしょうか? ここは学園の敷地内なのに、勝手に住み着いて、こんな風に改造して⋯⋯」


「僕は退屈しのぎに、女の子と遊びたいだけなんだ。ここにアトラクションを作れば、薬草目的の子が来てくれるでしょ? 僕、女の子が怖がる姿を見るのが大好きで!」

 

 目をキラキラと輝かせながら語るダックワーズ。


「⋯⋯そうでしたか。そんなことのために⋯⋯」


 怖がらせるためだけにしては、仕掛けが大がかりで、危険すぎる気がする。

 こちらは何度も死ぬかと思ったのに。


「男性が入れないようになっているのは、どうしてですか?」


「野郎が怖がるところなんて、見たって面白くないから。こうやって入り口の防犯カメラで確認して、男がドアノブを触った時には、電流を流してるんだ」


 ダックワーズが案内してくれた部屋には、いくつものモニターが並んでいた。


「すごいですね! この部屋にいながら、入り口や他の部屋の様子が見れるなんて!」


 こんなハイテクな機械をこの吸血鬼は、いったいどこで手に入れたんだろう?

 物珍しくって、夢中になってモニターを眺めていると、洞窟の入り口に、ノエル殿下とトルテがいるのが見えた。

 

 ノエル殿下は相変わらず目を閉じたままで、トルテが身体を支え起こしている。


 一刻も早く薬を摂取するために、ここまで移動してきたんだろう。


「わたくし、あそこで倒れている方を助けるために、万能草が欲しくて、ここに来たんです。分けて頂けないでしょうか?」


 ダックワーズに向かって頭を下げる。


「いいよ〜僕と遊んでくれるならね! そんじゃ、そこの彼女〜! アンジェリカちゃんの代わりに、あそこで伸びてる彼に、この薬を届けてあげて〜」


 ダックワーズは、引き出しから液体が入った瓶を取り出した。


 何故か柱の陰に隠れていたソフィア嬢を呼び寄せ、それを手渡す。


「ソフィア嬢、ご無事だったんですね」


「はい! 大丈夫です! そういう事なら、ノエル殿下のことは、わたくしに、どーんと、お任せください! アンジェリカ様は、ごゆっくり! お先で〜す!」

 

 ソフィア嬢は、片手をあげたあと、脱兎のごとく走り去っていった。

 

「え! ちょっと!」


 ⋯⋯行っちゃった。

 まさか、吸血鬼と二人きりで、こんなところに残る羽目になるとは。


 

 防犯カメラの映像を確認していると、間もなくソフィア嬢は、洞窟の入り口に帰り着いた。


 すぐにノエル殿下に薬を飲ませてくれたみたい。

 ノエル殿下は目覚めて、笑顔で周囲の人々に頭を下げている。


 よかった。

 薬が効いたんだ。

  

「さっ、アンジェリカちゃんの目的は達成出来た事だし、次は僕の番だね」


 ダックワーズは、小悪魔っぽい笑みを浮かべながら、首をかしげた。


「はい。何をするのでしょうか?」


「吸血鬼と乙女が二人きりですることなんて、決まってるでしょ? 吸血だよ。きゅ・う・け・つ!」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」


 ようやく言葉の意味を理解した頃には、既に腕を掴まれていた。

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