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2.No.001 先走り系ヒロイン×パトリシアの中の人

 私は花音(かのん)

 小学六年生。

 気がついたら、無料ソーシャルゲーム『ドルチェのような恋をして』の世界に迷い込んでいた。


 このゲームは、いわゆる乙女ゲームと呼ばれる物で、クラスでも大人気。

 基本プレイは無料と言うこともあり、スマホやパソコンさえあれば誰でも遊べる手軽さから、友だちもみんなプレイしていた。



 花音だった頃の思い出せる限り最新の記憶⋯⋯学校での休み時間のこと。


「とうとう、ノエルルートのハッピーエンドまで、たどり着いた! 最後のスチルが最高だった!」


「ノエルルートは、難易度が高いけど、攻略出来たらすっごく感動するよね〜キュンキュンした〜」


 仲良しグループの友だちは、興奮気味だ。

 ちなみにスチルと言うのは、ゲーム内のワンシーンを切り取った静止画の事。


 ドキドキするようなロマンチックなシーンを、綺麗なイラストで見られるから、このスチルを集めるのも楽しみの一つだ。


「花音はどこまで進んだの〜?」


「私はキャラメイクとプロローグが終わって、ノエルルートで、王立医術学園に入学した所!」


 そう。実は私は、流行りに乗って最近このゲームを始めたばかりの初心者。

 

 このゲームは、自分が操作するヒロインの髪型や髪色、顔立ちや服装、声なんかも自由にカスタマイズできる。

 自由度が高い分、こだわれば、いくらでも時間をかけられてしまうのだ。



 このゲームを無料でプレイする場合は、1日一枚配布されるチケットを消費して、ストーリーを1話進めることができる。


 ストーリーを進める内に、選択肢が提示され、その選択肢によって、キャラクターの反応が変わり、正しい選択肢を選べた場合は、好感度が上がる。


 好感度が上がれば、キャラクターと、より親密な関係になる事ができて、甘い言葉を言われたり、スキンシップが多くなったりする、ハッピーエンドにたどり着けると言うわけ。


 ストーリーの結末が複数用意されているので、基本的にはみんな、愛し愛されのハッピーエンドを目指して攻略を進める。


 今回私は、複数いる魅力的な男性キャラクターの内、一番人気のノエル=アフォガートを選択した。

 

 彼の攻略が終わった後は、残りのキャラも順番に攻略してみたいけど、それはまだまだ先の話だ。



「今回もアンジェリカが邪魔だった〜」


「悪役令嬢らしく、しぶとく私たちの仲を引き裂こうとしてくるよね〜」


 アンジェリカ=コンフィズリー――ノエルの婚約者であり、ノエルルートの最大の強敵。

 黒くて艶のあるロングヘアーに、ルビーのような赤い瞳。

 キリッとした表情に、透き通るような白い肌。


 神秘的でありながら、不吉そうな見た目の美少女。

 権力を持った公爵家の令嬢で、才能にも恵まれた、優秀な人材。

 

 そんな彼女が側にいる事で、なんやかんやあって(私は正直なところよく知らないけど)、ノエルは闇堕ちしてしまいそうになる。


 そこを私たちヒロインが癒し、勇気付けることで愛を育む。


 つまり、アンジェリカは、ノエルにとっては害でしかなく、呪いそのもの。

 そんなアンジェリカを、いかに早く彼から遠ざけられるかが、一つのポイントとなるのだ。


◆ 


 迷い込んだゲームの世界にて、入学式後のパーティーで、アンジェリカを遠ざけるチャンスが、早速やって来た。


 一刻も早くアンジェリカを追放して、ノエルを助けるんだ。

 だって、彼女は悪者なんだから。


「きゃあ! 止めてくださいませ!」


 私はアンジェリカを悪役に仕立てるために、一芝居打つことにした。


 聞くところによると、男性キャラクターは、基本的にはヒロインに好感を抱きやすくて、多少辻褄が合わなくても、ヒロインこそが正しいと、都合よく解釈してくれるそう。


 悪役令嬢はどんな行動をとっても疑われ、虐げられ、断罪イベントからの婚約破棄&追放が定番なんだとか。 

 これを物語の強制力と呼ぶらしい。


 私はこれを利用したつもりだったんだけど⋯⋯



「どうして! ノエルは私の言葉を全然信じてくれなかった。アンジェリカは悪役令嬢なんだから、疑われて、追放されるんじゃなかったの?」


 学園寮のベッドにうつぶせになりながら、枕を叩く。


「それは、パトリシアが、先走り過ぎたからじゃないのかニャ〜?」


 間抜けな声で返答してくれたのは、本ゲームのお助けキャラのおデブなトラ猫だ。


「メープル、それってどういう意味?」


「ほぼ初対面のぽっと出の小娘が、幼い頃からの婚約者に敵うわけがないのニャ。少しずつ好感度を上げて、信頼を勝ち取ってからじゃないと厳しいのニャ。ドン引きするほど無鉄砲なことなのニャ〜」


「だって、パーティーで断罪されるのが定番って聞いたもん。乙女ゲームなんてやったことないから、知らなかったんだもん!」


「恐らくそれは、卒業パーティーのことニャ。まぁ、まだまだチャンスはあるのニャ。その間、自分磨きを頑張るのニャ〜」


 メープルはそう言って、何かをたくらんでいるような顔で笑った。

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