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12.No.004 男装系ヒロイン×ジュディ②

 王家の別荘に来て三日目の夜。

 夕飯と入浴を済ませた私は、再び図書室に来ていた。

 せっかくの機会なので、一冊でも多くの蔵書に目を通しておきたいと思い、時間があればここに来るようにしている。


 部屋を出てすぐの廊下で、ノエル殿下の執事のトルテと、ばったり会った。


「アンジェリカ様、こんばんは。このような時間にどちらへ?」


「こんばんは。わたくしは図書室に行こうと思って。トルテは?」


「私も、明日の研修の調べ物をしに、図書室に向かうところです」


「そうなのね。それなら、一緒に行きましょう?」


「はい。光栄です。それでは前を失礼致します」


 トルテは、頬にえくぼができるほど、嬉しそうに笑ったあと、私の前を歩いた。


 間もなく階段に差し掛かり、私の手を取り支えながら、一段下を歩いてくれる。


「執事の研修って、どんなことを勉強するの?」


「立ち振る舞いや家事に加え、外国語や社会情勢、芸術に関する知識などを学びます」


「面白そうだけど、たくさん学ぶことがあって大変ね」


「はい。ですが、未来の王であるノエル殿下にお仕えするためには、必要なことですから、やり甲斐を感じます」


 そう語るトルテの目は、キラキラと輝いている。


「トルテは真面目で努力家なのね。尊敬するわ」


「いえいえ、私は⋯⋯」


 トルテは照れたように笑った。 

 


 図書室に到着しトルテと別れ、私は一人で、門外不出の蔵書が保管されている奥の部屋へと向かった。


 何百冊もある本の内、次はどれを読もうか迷っていると、ここに到着した日の昼間、ガーデンでのティータイムの時に見かけた執事がいた。


 取りたい本に手が届かないのか、一生懸命背伸びをしている。

 小柄なその執事は、私より10センチは低そうだ。

 推定身長150センチ前後といったところか。


 それにしても、重要な書物が保管されている部屋に、執事が単独で入っても良いものなのか⋯⋯


「ノエル殿下のご指示の本は、これだ。くっ⋯⋯届かない⋯⋯」


 なるほど。

 その大きな独り言によると、ノエル殿下が許可されたとのこと。


「大丈夫ですか? お取りしましょうか?」


 良かれと思い、その執事が取ろうとしていた本に手を伸ばした。

 すると⋯⋯


「アンジェリカ様! いけません! そのような、淫らな行為はお止めください!」


 その執事は突然大声で叫んだ。


「え? 淫ら? え? え?」


 その執事の身体には一切触れていないけど、いやらしい事をされるかもしれないと、怖がらせてしまったってこと? 


「アンジェリカ様!? 何があったのでしょうか⋯⋯ジュード? なぜ君がここに?」


 トルテが大慌てで背後のドアから入って来た。


「トルテ様! 実はアンジェリカ様が、強引に迫って来られたのです! 身体に触れられ、キスをせがまれ、愛人にならないかと⋯⋯」


 ジュードと呼ばれるその執事は、何故かウソをついた。


「そんな! わたくしはただ、本を取って差し上げようとしただけで⋯⋯」


 けど、トルテから見たら、私が彼を本棚に追い詰めているように見える。

 どうしよう。言い逃れはできない。


「ジュード! 君は何を考えているんだ!? アンジェリカ様のような清らかな御方が、君に迫っただって? 不敬にもほどがある!」


 トルテは肩を怒らせながら、近づいてくる。

 あれ? もしかして、信じて貰える感じ?


「ウソではありません! この状況が何よりの証拠です!」


「では、まず、何故、君はここにいる? この書庫は王族もしくは、王族から特別な許可を得た人間しか入れない。君はどうやってここに入った?」


「それは⋯⋯アンジェリカ様に連れ込まれて⋯⋯」


「私は、アンジェリカ様が書庫に入られる、そのお背中を最後までこの目で見守っていた。その後、間もなくこの騒ぎが起きた。君は元々この書庫に潜んでいたのではないか? いったい何をしていた?」


「ノエル殿下に頼まれた書物を探しに⋯⋯」 


「僕がなんだって?」


 騒ぎを聞きつけたのか、誰かが報告してくれたのか、ノエル殿下が入って来られた。

 私の侍女のシフォンも一緒だ。


「僕はこの執事に、書物を探すよう指示した覚えはないよ。そもそも、この書庫にある本は図書室から持ち出せないのだから、君にお使いを頼む理由がないんだ」


 確かにそれもそうだ。

 ということは彼は、独り言でもウソをついていたってこと?


「君は、僕のアンジェリカに迫られたと主張しているようだけど、そういうウソをつくと、どうなるか分かっているよね?」


 ノエル殿下も怒りながらジュードに迫っていく。

 ジュードは殿下とトルテに迫られ、怯えている。


「殿下、僭越ながら申し上げます。この御方は女性です」


 シフォンは頭を下げながら発言した。

 え? それってどういう事?

 殿下とトルテは目を見開き、ジュードはあからさまに狼狽えている。


「シフォン、どうしてそう言えるの?」


「先程、浴場でお会いしました。もちろん女湯です」


 ⋯⋯⋯⋯え?

 ジュードと呼ばれるこの執事が、実は女性?

 なぜ男性のフリをして、執事研修に潜り込み、こんな所で私に襲われそうになったとウソをついたのか⋯⋯


「アンジェリカ⋯⋯ノエルだけでは飽き足らず、トルテまでたぶらかすなんて。許さない、許さない⋯⋯」


 ジュード(?)はぶつぶつとつぶやき、私を睨みつけながら、退出させられた。


「アンジェリカ、怖かっただろう? 申し訳ないことをしたね。まさか性別を詐称している執事が潜り込んでいたなんて⋯⋯貴族の紹介状が無いと入れないはずなのに。すぐに彼女の身元を調べさせるから」


 ノエル殿下は頭を撫でてくれる。


「はい、ありがとうございます」


「アンジェリカ様、申し訳ございません。私はこの研修期間中、彼と行動を共にしていたにも関わらず、彼⋯⋯彼女の正体を見破る事が出来ませんでした」


 トルテは私の前にひざまずいた。


「いえいえ、トルテのお陰で助かったわ。ありがとう」


 ⋯⋯⋯⋯で? 結局、何が起こったの? 

 どうして私はこんな目に遭っているの?

 状況が全く理解出来ないまま、連休は終わった。

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