表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/77

女神の囁き

 

「よし。じゃ教えるからよく見とけ。俺がお辞儀をしたら、籠をお坊様に渡せ。それから、こうやって」と、正座をして地面におでこをつけ、手足をまっすぐにして腹這(はらばい)で伏せた。


「これを三回やった後で、花輪を女神様の首にかけろ。その時、お坊様が真言マントラを唱えるから、さっきも言ったように、()()()()()()()()()()と誓うんだ。わかったな?」

 僕は大きく(うなず)いた。


 女神様の祭壇は、建物の一番奥の突き当たりにあった。

 祭壇の部屋は、僕の背でやっと通れるほどの低いアーチ状になっており、中は暗かったが、女神像の周りをぐるりと囲む蝋燭(ろうそく)の灯りが揺れて、幻想的だった。

 しかし、僕はさっき聞いた千の姿を想像し、怖くてまともに像を見ることが出来なかった。

 中にいたお坊様は、僕らが入っていくと椅子から立ち上がり、僕の顔を見て、「子供はいないと聞いていたが、この子は親戚の子かね?」とおじさんに尋ねた。おじさんは軽く会釈をしただけで、はいともいいえとも答えなかった。

 

 教えてもらった順番通りに、お坊様に籠を渡すと、眉と眉の間に赤い粉をつけてくれた。

 腹這(はらばい)で三回、が終わって、次は花輪の番だった。

 

 勇気を出して顔を上げ、像を見た時、驚いて声が出そうになってしまった。

 この場に母さんが現れたのかと一瞬思った。女神様のお顔は、母さんにそっくりだったのだ。

 女神様は、とても悲しげな表情に見えた。

 それを見たら、僕は急に家が恋しくなって、悲しくてどうしようもなくなった。

 僕は女神様の像に抱きついて泣き出した。


「おい、何やってる!」

 慌てたおじさんは、僕の腕を引っ張って、女神様から引き剥がそうとすると、

「そのままにさせておきなさい」とお坊様は言った。


 僕は心の中で(ごめんなさい、もうしません)と何度も謝った。

 涙が頬を伝い、地面に落ちた。

 

 その時、上のほうから声がした。

 〝分かっている。あなたのことは、ずっと前から知っている 〟


 そうはっきり聞こえたので、すぐに左右を見渡したが、僕とおじさんとお坊様の三人の他には、誰もいなかった。

 まさか……と思って女神様を見ると、優しい表情に変わっていた。


 お坊様は驚いた声で、「おお、この子は、女神ラクシュミーと心が通じ合っているようだ」と言った。

 

 花輪はぎゅっと握っていたせいで、半分の花が潰れてしまっていた。

 女神様の首に手が届かずに困っていたら、後ろからおじさんが持ち上げてくれた。

 花輪をかけ、( これでいい?)と聞くと、( ああ、それでいい )とおじさんは微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ