15歳の誕生日
そうして、私の15歳の誕生日はあっという間にやってきた。
恐ろしい思いをした16歳まであと一年。あとたった一年で、私は自分が特別教ではなく平凡教にどっぷりつかっているのだという事を、お兄様に主張しなくてはならない。
私がギロチンにかけられた時、お父様は亡くなっていた。領地内で事故に遭ったと聞いた。なんでも、私の誕生日プレゼントを探しに行く途中だったとか。
そう、私の誕生日3か月前に、お父様は亡くなった。
私が特別なプレゼントがいいだなんて言わなければ、きっとお父様は亡くならなかった。
あの時は、泣いて泣いて泣きまくって呆然と3か月を過ごした末に迎えたのが、運命の日だった。
「ミリアリア、今日は特別綺麗だね」
自室に迎えに来てくれたお父様が、ドレスに身を包む私に声をかける。
普段のドレスは、落ち着いた雰囲気の七着を着まわしているけれど、今日のドレスは特別な日用の凝ったドレスだ。
平均的な令嬢も、普段使いじゃないドレスをも2枚くらいは持っているものだ、というマリーからの助言に従ってとっておいたうちの1枚だ。
だから、お父様の言う「特別」は、至極当然の事だ。怖がる必要はない、受け止めても大丈夫な「特別」だ。
「ありがとうございます、お父様」
にっこり笑って返すと、お父様は嬉しそうにうなずいた。私の事を、たっぷりと甘やかしてくれるお父様。特別なお姫様だと可愛がってくれる、お父様。
――大好きだ。
その気持ちを、大事にしたい。
前の時は、その愛情を当たり前だと思っていた。さらに自分は特別なのだから愛情をもっと貰えるはずだと勘違いし、特別なものばかりねだるようになってしまっていた。
そんな特別なものなどなくても、愛情はちゃんと感じられるのに。
「それにしても、盛大なパーティを開かなくて本当に良かったのかい?」
「はい。準備してくれていたのに、やっぱり要らないと言ってしまってごめんなさい。だけど、家族だけでお祝いをしてほしくて」
私がそう言うと、お父様は感動したように微笑んで何度もうなずいた。
前回の15歳の誕生日は、それはそれは派手に行われた。
盛大なパーティを開こうと、手当たり次第に招待状を出し、食事も豪華に振る舞い、一日中私は祝われた。
沢山のプレゼントと、沢山のおめでとうという言葉。
それらはすべて、上辺だけのものだった。現に、かつて私の誕生日に招待状を出した人達から、プレゼントもお祝いの言葉も、今回の誕生日にはきていない。
あれらは、招待状をもらったから仕方がなく用意したプレゼントであり、招待状を受け取ったから仕方なく口にしたお祝いの言葉なのだ。
「お誕生日おめでとう、ミリアリア」
お父様が、私の頭を撫でながら言う。
前回送られた沢山の人からの上辺だけの言葉より、何十倍も何百倍も心がこもったお父様の「おめでとう」だ。
沢山のプレゼントも、沢山のお祝いの言葉も、私には必要のないものだったのだ。
「お父様、ありがとうございます。私、お父様の娘で嬉しい」
「ミリアリア……!」
長生きしてほしい。
今までの私のせいで、お金を無駄に使わせてしまったけれど、もうそんなことは絶対しないから。
特別なものもねだらないから。
平凡な幸せだけで、それだけで十分だから。
私は心から願い、お父様の両手を握り締めるのだった。