特別教からの脱退
「特別なんて求めないから!!!!!!」
私は大声で叫び、体を起こした。
目に入る風景は、いつものベッドだ。真っ白なシーツに、真っ白なふわふわの布団。
「……え」
慌てて、首を確認する。
つながっている。
ついてる。
ちゃんと、体に、頭が、ついている!!
「生きてる!!!」
思わずこぶしを握り、天へと突き立てる。
「やったー、生きてる! というか、悪い夢だったのかしら?」
もしそうならば、ひどく悪趣味で、ひどく長い悪夢だった。
自分が特別だと信じ、特別なものだけを愛し、特別だという事を掲げていた。
それはもう、信仰のように。
特別教というのに、はまっていたのかもしれない。
「もう、特別なんて求めてはいけないわ。平凡なのが一番なのよ。平均で平凡。ふふ、平和っていう言葉にも似ているわね。最高よ」
私は呟きながら、ちらりと鏡を見る。
髪はつやつやで、肌も綺麗。最後に見た時よりも少し幼いような気がする。
ん? 幼い??
「おはようございます、ミリアリアお嬢様」
勢いよく、侍女のマリーが部屋に入ってくる。「あら珍しい。もう起床されておられるのですね」
「マリー、今日、何月何日だっけ?」
「今日は、3月5日、もうすぐお嬢様の誕生日でございますね」
「そうだっけ……?」
「まあ、お嬢様ったら。もうすぐ15歳にもなられますのに」
くすくすとマリーは笑いながら、私の準備を手伝う。
「そう、15歳に」
ということは、今、私は14歳。4月1日の誕生日に15歳になる、ということは……。
「過去に、戻ってる」
ぽつり、と呟く。
幸い、マリーには聞かれなかったようだ。
あのおぞましい悪夢は、私が16歳の誕生日に行われたものだ。
となると、考えられる結論は一つしかない。
私はやっぱり、あの16歳の誕生日に死んでしまったのだ。
特別を求めるあまり、領地にひどい事をしたという罪で、レジオンの手で。
ぶる、と体を震わせる。
本当に、悪夢だったのかもしれない。
それでも、それまでに体験してきたことは夢とは思えないほど鮮明に覚えているし、ギロチンにかけられた恐怖もたやすく思い返せるのだ。
私は、このままいけば、一年後にまた同じように死んでしまうのだ。
「ミリアリアお嬢様、今日はどのドレスにいたしますか? 今日も、もちろん特別に拵えたものにいたしましょうね」
マリーがドレスを選ぶ。
特別なドレス。
私の持つドレスは特別製がいいと言って、常に一点ものを求めてきた。それなのに、着るのは数回。
だって、何度も何度も着てしまったら、特別じゃなくなるのだから。
「……同じので」
「え?」
「マリー、私、もう特別を求めるのをやめたわ。平凡で、平均的な、特別じゃないドレスがいいわ」
「お嬢様?」
マリーが動揺している。
無理もない。私だって、ドキドキしている。今日、私はこの瞬間から、特別教を脱退するのだ。
「今あるドレスを、そのまま着続けるわ。新たなドレスは、そうね、体型が変わった時だけにするわ」
「お、お嬢様、一体どうなされたのですか?」
私は、ぐっとこぶしを握り締める。
できることをコツコツと。まずは私の中にある「特別なドレス」への渇望と、決別するのだ。
「えい、えい、おー!」
「お嬢様?」
「ほら、マリーも一緒に! えい、えい、おー!」
私の謎の勢いに導かれ、マリーも動揺しながらも、小さく「おー」と言ってくれるのだった。