特別なミリアリア
「可愛い可愛いミリアリア。自分が特別な存在だからと、いつも僕に主張してきた、愚かな愚かなミリアリア」
美しい顔のレジオンは、美しい笑顔を保ったまま、私の方に近づいてくる。
悔しいけれど、本当に綺麗な顔だ。
目は、全く笑っていない。
「特別な君の為に、特別なものを用意したよ。ほうら、今の君にぴったりだろう? 16歳の君へ贈る、誕生日プレゼントだよ」
兵士に膝をつかせられたまま、ぐい、と乱暴に顔を挙げさせられる。
目の前に置かれているのは、ギロチン。
首と体を、一瞬で真っ二つにする、恐ろしくも慈悲深い装置。
思わず、叫び声をあげた。自分でも何と言っているのか分からない。ただただ獣のように吠え、腹の奥から恐怖を吐き出す。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!
死ぬのは嫌だ!
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない!
思いを込めて叫ぶのに、レジオンはただただ美しい笑みを浮かべたまま、私を見ている。
美しいレジオン。
賢いレジオン。
慈悲深いレジオン。
公正なレジオン。
兵士や民衆、貴族たちがこぞって口にしていた彼の賛美を思い出す。
それに比べて、と付け加えられるのも同時に思い出す。
分かっていた、分かっていたの。
自分が美しくもなく、賢くもなく、慈悲深くもなく、公正でもないという事を。
特別なんかじゃないってことを。
分かっていたからといって、どうするのが良かったのだろう。
子どもができないから後継者にと養子になったというレジオンを、本当の兄として敬えば良かったのだろうか。
体の弱かったお母様が、私を生むのと引き換えに命を落としてしまったことで、お父様が私を甘やかしてしまいすぎることを諫めれば良かったのだろうか。
世界が自分のものだなんて思わなければ良かったのだろうか。
どうすれば、良かったのだろうか。
答えは欲しいけれど、問う事すらできない。
目の前にあるギロチンの存在が、私に叫ぶことしか許さない。
レジオンが手をあげると、兵士たちが私をギロチンへと引きずっていく。
抵抗を試みるけれど、屈強な兵士二人がかりに勝てるわけもない。
「税金を食いつぶし、自分勝手なふるまいを続け、前領主と共に民を虐げた罪を、その首をもって贖うがいい」
がちん、と首がギロチンにかけられた。
下を見せられているから見えないけれど、私の首をすっぱりと斬るための刃が上にあるのを、さっき見たから知っている。
――怖い!
「さようなら、ミリアリア。これで本当に、特別になるね」
優しい声で、レジオンが言う。
その声と共に、シャッという冷たい音がして、そうして一瞬で、真っ暗になった。
まっくらに、なった。