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逃げた先の廃墟の教会で、せめてもの恩返しにお掃除やお祈りをしました。ある日、御祭神であるミニ龍様がご降臨し加護をいただいてしまいました。

作者: 下菊みこと

「はあっ…はあっ…はあっ…」


私は走る。ただただ、生きるために。


私は平凡な家庭で育った平民だった。けれど、ある日両親を事故で亡くした。ひとりぼっちになった私は、村の人達によって両親の財産を全て奪われて娼館に身売りされそうになった。


隙をついて村人たちから逃げ出して、村人たちが近付くことはない森に入った。


「あった…!」


森の奥には、今は誰も使わない教会があると言われていた。それを信じて森に逃げたが、正解だったらしい。その廃墟にそのまま逃げ込んだ。


この森は深いらしい。入れば最悪遭難するとも言われている。だから、追手は多分ここまでは来ないはず。


どうしてそんな森の奥にこの教会が出来たのかはわからないけれど、今は使わせてもらうしかない。


「お邪魔します…」


廃墟であった教会は、蜘蛛の巣も張っているし中は相当汚い。でも、建物自体は頑丈そう。私が隠れ家として使うのには十分。


「問題は食料だけど…」


一応、空間魔法で半年分の保存食と生活用水と、着替えと予備の靴と飲料用の水は確保してある。両親から、災害に備えて用意しておきなさいと教育されていたから。お金とかは、残念ながらないけれど。あと、寝袋とゴミ袋や簡易トイレも用意してあるのでとりあえずは安心だ。


「でも、半年経ったら…」


…なるべく、保存食にはまだ手をつけずに野草とか果物とかを探そうかな。


「…よし。ここを拠点にするとして、何か食べ物がないか探してみよう!目標は一時間の探索!スタート!」


ということで、この教会の周りをぐるっと一周探索してみる。


その間は教会の換気のために、教会のドアは開けっ放しにさせてもらった。











「…ふう、桃の木が沢山あって助かった」


教会があった頃に植えられたのか、教会の近くに大量の桃の木があった。これでしばらくは餓えの心配はない。大丈夫そう。


「…なら、次は教会のお掃除かな」


せっかくお世話になるのだ。御祭神様のためにも、教会を綺麗にしよう。


「よいしょっと」


教会裏にあった倉庫からちょっと掃除道具を拝借して、お掃除開始。目標は三時間。ちょっと疲れそうだけど、頑張ろう!















三時間が経った。まだまだ掃除しがいはありそうだけど、それでも大分綺麗になったんじゃないかな?特に御祭神様だろう龍の像はかなりピカピカにしておいた!自己満足かもしれないけれど、やっぱりお世話になるからにはその辺はやらないと!


そしてお掃除と食べ物の確保はしたので、今日はとりあえずもう休もう。


でもその前に。


「御祭神様、今日の貢物です。教会の周囲でいただいた桃を捧げさせていただきます」


桃をいくつか、御祭神様の像の前に供える。


そして祈りを捧げさせていただく。


「御祭神様、どうかここにいさせてください。そして、両親の魂が天国へ行けるようにどうか見守ってあげてください…」


一心不乱にお祈りを捧げて三十分。途中、両親を想って何度も泣いてしまった。失礼にならないかな。…お祈りは、御祭神様に届いたかな。


「…暗くなる前に、桃を食べて早く寝よう」


夕食の桃を食べて、生活用水を使って身体を水拭きする。そして、教会の隅に寝袋を敷かせてもらって眠った。















「…あら」


朝起きたら、御祭神様の像に供えた桃がなくなっていた。


「ドアは閉めて寝たんだけど…」


小さな動物が入り込んだのかな?


「それとも、御祭神様が食べたとか?」


自分で言って、笑ってしまう。でも、そうだったら嬉しいな。供物を受け取ってもらえたってことだもんね。


「さあ!今日も頑張ろう!」


なんとなく前向きな気持ちになれたので、早速朝の支度をする。生活用水で顔を洗って、着替えをして外に出る。


すると、ドアの前にどう見ても獲れたてぴちぴちのお魚が三匹。


「あれ?これどうしたんだろ?」


何かの動物がとってきたのかな。食べちゃ悪いよね…でも…。


「美味しそう…」


食欲には勝てず、獲ってきた動物には悪いけど魔法で焼き魚にして食べてしまった。


「美味しかった…」


名も知らない動物さんに、懺悔の気持ちでいっぱいだけど。


「さて、豪華な朝ごはんを食べたから元気に過ごせそう」


というわけで朝一で桃をいくつか収穫。魚を獲ってきただろう動物さんのために教会の外にいくつか置いておいた。


そして、御祭神様の像の前にも捧げる。その後三十分お祈りをしてから、また外に出た。昨日着てた服を洗濯をして、洗濯物を干して、今日も教会の掃除。今日は教会の周囲を綺麗にする。


そしてお昼に、再び桃を収穫して自分で食べてから教会に戻る。するとまた御祭神様の像の前に捧げた桃がなくなっていた。


「ふふ、また無くなってる」


どんな動物が拝借していったのかな、なんて思うと微笑ましい。


「さあ、次は御祭神様の像のお掃除!」


今日もピカピカに像を磨いた。そしてその後三十分のお祈り。正直、信仰なんてもの持っていなかったようなものなので御祭神様の祀り方が合ってるのかはわからないけど、気持ちが大事だよね!


そしてその後、洗濯物を取り込んで少しお昼寝した。













起きると、教会内の時計(まだ魔法で動いているらしい)が良い時間帯を指していたので夕飯の桃を収穫しに行こうとドアを開ける。


が。


「えっ」


そこには、川魚を咥えたミニ龍がいた。


「ミニ龍…」


龍自体が伝説上の生き物なのに、その上超絶可愛い。ちょうど、御祭神様をミニマムにしたみたいな生き物。


「むむっ!ミニとは失礼な!」


「え、あ、すみません…」


口に魚を咥えているのだが、問題なく喋れるらしい。…念話?


「だが、久方ぶりの敬虔な信徒故な!許してやろう」


「えっ」


「ん?」


まさか…。


「御祭神様?」


「そうじゃ!しかし何故昔のようにミラコロ様と呼ばぬのじゃ?信徒よ」


「ミラコロ様、と言うのですか?」


「なんと!近頃の者は神の名すら忘れたのか!なんと嘆かわしい…じゃが、そこまで廃れた我をそれでも信仰する心、それはとてもよい心がけじゃ」


うんうんと頷くミラコロ様。


「じゃからほれ、今日も神の奇跡を授けよう」


そういってミラコロ様は口に咥えた魚三匹をポテッと落とした。


「え、もしかして朝のも?」


「そうじゃが?」


「ありがとうございます!」


思い切り頭を下げる。食料調達はすごく有り難い。本当に有り難い。そんな私を見て、ミラコロ様はニコニコして続ける。


「良い良い、可愛い信徒のためじゃ。そうじゃ!お前の両親じゃがな、お前を心配して楽園になかなか行こうとしないので『我直々に見守ってやる故はよ楽園に行け!』と喝を入れておいたぞ!大人しく楽園に向かったわ。お前も死後はそこへ案内してやる故、今は元気に長生きして我に尽くすのじゃぞ!」


ミラコロ様の言葉に、涙が溢れた。


「お父さんと、お母さんが…楽園に…」


「な、なんじゃ、泣くな泣くな!楽園はそれはもう美しい土地じゃ、幸せに溢れた世界じゃ!悲しむことはない、いずれ再会できる!ただ、ちょっとそれまでの間我に仕えるだけのこと!大丈夫じゃ!」


私の頭をわしゃわしゃと、必死に撫でるミラコロ様。私はそんなミラコロ様に跪き、泣きながら一時間近くひたすら感謝の言葉を述べてミラコロ様を困惑させてしまった。


「やっと落ち着いたか」


「すみません、ミラコロ様…」


「よいよい、おかげで信仰ポイントがまた貯まったわい。良い機会じゃ、そなたに加護を与えよう」


ミラコロ様は私の頭に手をかざす。光が私の身体を包んだ。


「よし、これでそなたはミラコロ教の聖女じゃ!」


「え」


「聖女として、簡単な治癒などが出来るようになったぞ。これからも我を信仰するたび加護は増えるでな」


「え」


「良く我に仕えるんじゃぞ!」


ということで、聖女になってしまいました。














それから三年。結局ミラコロ教の聖女として、ミラコロ様に仕える生活をしている。


加護を貰いまくって、今ではなかなかすごい聖女らしい。


…森から出ないから、活躍の場がないけど。


とはいえ、その加護のおかげで生活用水やら飲み水やら食事やらの心配が一切なくなりました。祈れば出てくるので。


森の動物ともいつのまにか仲良くなり、心穏やかに平和に暮らしていたのですが…。


「す、すまない!だれか居ないか!助けてくれ!」


そこに、なぜか血塗れの男の子を抱えた初老のおじさんが現れました。


「え?え?」


「この方は第五王子であらせられるルーヴルナ様だ!頼む、なんとか助けられないか!」


「ええ!?」


ルーヴルナ様といえば、隣国の王女だった側妃様の御子。ここで死なせたらタダじゃ済まない!


「ちょっと失礼します!」


私は聖女の力を最大解放する。すると、傷が全て癒えてルーヴルナ様が目を覚ました。


「んん…」


「王子殿下!」


「ここは?」


「森の奥の廃墟…」


「廃墟ではないぞ!」


そこにミラコロ様が現れた。


「ここは我を祀る教会じゃ!こやつは我の聖女であり愛し子なのじゃ!」


「龍!?」


「あー…」


初老のおじさんはビビり、第五王子殿下は気の抜けた返事をした。


「つまり、このミニ龍様の聖女兼愛し子さんが殺されかけた僕を助けてくれたんですね?」


「ミニ龍ではない!ミラコロじゃ!」


「ミラコロ様が御祭神なのですね」


「そうじゃ!」


第五王子殿下は言った。


「ミラコロ様。もし全て上手くいったら、この国の御祭神をミラコロ様に変えていいですか?ミラコロ様を国を挙げて信奉したいです」


「んん?うーん、信徒が増える分には困らぬ。ただ、これからも我が愛し子だけ特別扱いするのは変わらぬぞ」


「それでいいです。…美しい聖女様、その暁には私を助けていただいたお礼をしたい。今は、訳あって無理なのですが」


「いえ、お礼なんて!…なにがあったのか知りませんが、ご無事を祈りますね」


「貴女の祈りがあれば、きっと大丈夫ですね」


第五王子殿下は笑った。そして初老のおじさんと共に去っていった。


「大丈夫ですかね」


「ふむぅ…まあ大丈夫じゃろ」


ミラコロ様は、なんだか微妙な顔をしていた。














「…ということで、腐りきったこの国を僕主導で建て直すことに成功しました。…僕の兄を含め、たくさんの血は流れましたが」


「…はあ」


「そして、国の主神をミラコロ様と定め国教をミラコロ教に変えました」


「ふむ」


「なので聖女様、あの時のお礼をさせてください」


何故だろう。なんだかとても嫌な予感がする。


「僕の王妃になってくださいませんか。決して不自由はさせませんし、必ず幸せにしますから」


「な、なんで!?」


「聖女様が妻になってくだされば、国民達も安心できるでしょう。急に国の建て直しが始まって、困惑する者も多い。聖女様のお力が必要なんです」


「お礼って話では!?」


「王妃になると色々便利ですよ。お互いウィンウィンです」


にっこり笑う第五王子殿下。この人さては腹黒いな!?


「幸せに出来ると我に誓えるか?」


「もちろんです」


「四六時中我が見守ることになるが?」


「夜以外は大丈夫です」


「ふむぅ…」


ミラコロ様は困った顔。


「どうする?我が愛し子よ」


「ご遠慮します!」


「ならダメじゃな」


「…そうですか、ではまた来ます」


「え」


またにっこり笑顔を向けられた。


「頷いて貰えるまで、何度でも来ますから」


その後本当に毎日来てアタックしてくるルーヴルナ様に対し、一年後についに根負けして森を出てミラコロ様と共に城に行くことになったのは…私は悪くないと思う。


そして、アタックしているうちにルーヴルナ様が私に対して本気になってしまい相思相愛の理想の夫婦、なんて言われるようになってしまったのも私は悪くないと思う。

【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話


という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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