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真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます  作者: アラサム


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第88話

『ゴォオオオオッ!』


『キィイイイイッ!』


「ぐっ」


 幾度となく放たれる風の刃と振われる鉤爪。その巨躯を利用した体当たりとブレス。高位精霊達によって放たれる猛攻を今の今まで耐え続けていた光の騎士はケイの霊力の限界により、いよいよその姿が保てなくなる。


「チィッ」


 思わず漏れる舌打ち。ボロボロと崩れ始める光の騎士の姿にケイの限界を悟ったヴァンは次の一撃で完全に破壊するべくサンドワームにトドメの指示を出す。


「砕け、サンドワームッ!」


『ゴァアアアッ!』


 指示に応じて地面を潜行。勢いを付けて突進するべくその巨体がケイの眼前で躍動する。


 同時にヴァンはサンドワームが光の騎士を破った直後にグリフォンで攻撃を仕掛けてレイアの霊術を妨害するべく一度、後方に下がって霊力を溜める。


「これが最後の攻防だな……」


 相手の動き、自身の霊力量、そして背後で詠唱を続けるレイアの様子からそう判断したケイは精霊達に最後の指揮を行う。


『aaaaaッ!』


 セイレーンの歌声が響き渡り、現れた音符が崩壊しかけている光の騎士へと集まると、僅かながらもその形を再生させる。同時に一部の音符はレイアの周囲に飛び回り、小さな結界を展開した。


「最後の強化か。だが……」


 既にその光の身体がハリボテ同然であることを見抜いていたヴァンは構うことなくサンドワームに突撃を命じ、加えて自身もその後方からグリフォンと共にレイアの霊術を妨害するべく突撃を敢行する。


「これで終わりだッ!」


 ヴァンの叫びと共に迫ってくるサンドワームとグリフォンを視認しながらケイは指揮棒を振るい、光の騎士に盾を構えさせる。


 そのままサンドワームの頭部が光の騎士の盾と衝突せんとした瞬間、ケイは仕込んだ最後の霊術を起動させた。


閃光爆破(フラッシュバン)


 一瞬にして光の騎士の姿が球状に変貌すると次の瞬間に辺り一帯を照らす眩い光と轟音を響かせながら爆発する。


「なッ!?」


『ギィッ!?』


『グゴォオオ!?』


 予想もしていなかった爆音と閃光のよって混乱状態に陥ったことで一時的に飛行能力を失ったグリフォンはそのまま背に乗せていたヴァンと共に地面に落ちていき、サンドワームも思わず身体を捩らせながら苦悶の声を上げる。


「さぁ、後は……君の番だ」


 その様子を見届け、自分の仕事を果たし終えたことを確認したケイは最後を後輩に託してサラマンダーの背に倒れ込んだ。


「演劇『炎竜の巫女』後編……勝利の宴」


「———今、代行者たる我が命じる」


 ケイの放った防音と遮光の結界によって霊術の影響を受けていないレイアは長文の詠唱を唱えると静かに自らとサラマンダーの全霊力を込めて———今、解き放つ。


「《炎王の劫火》」


 レイアの声と共に夜空に一条の紅閃が煌めいた。

 溢れ出る紅蓮と共に赤竜の口腔から放たれた灼熱の紅閃は眼前のサンドワームの堅い外殻をいとも容易く撃ち貫いた。


『ォォォォオオオッ!?』


 身体にぽっかりと穴を開けたサンドワームが叫びを上げながら崩れ落ちる中、その勢いを欠片も落とすことなく突き進む紅閃はレイアが定めた進路に沿って地上へと突き進み、リベル学院の封霊石を穿ち、焼き払った。


*****


 それはまるで夜空から彗星が落ちてくるかのようだった。

 どこか幻想的に見えた光景も一瞬。地面に降り注いだ真紅の彗星は立ち上がる火柱と舞い上がる土砂へと変化した。


「…………」


 その光景をただ朦朧と見つめていたロークの視界に白い羽が見えた。

 気付けばロークはボロボロのミカエルによって抱き抱えられ、素早くミーシャの側まで運ばれる。そのままふわりとミカエルの翼がロークとミーシャの身体を覆ったと思った直後、轟音が響き渡り更に一拍遅れて衝撃と霊力を纏った熱波が迫ってくる。


「……ッッ!」


 その音と霊力によってようやく意識がハッキリしたロークは半ば反射的に目の前にいたミーシャを自分の身体で守るように抱き締める。


「ッ!?」


『———ッ!!』


 が、ロークの行動は杞憂だった。

 迫ってきた衝撃も熱波も全てミカエルが受け止め、翼の中にいたローク達にまで影響が及ぶことは無かった。


 そして———。


『リベル学院の封霊石の破壊を確認! 勝者、ユートレア学院!』


 静寂の中、ユートレア学院の勝利を告げるアナウンスが鳴り響いたことでようやくロークは競技が終わったことを実感したのだった。



*****


「はぁ、はぁ……」


 試合が終わったことで疲れが出たのか、俯いて黙り込んだミーシャと今にも俺に殴り掛かって来そうなミカエルから逃げるように俺はその場を離れると焼け野原状態になっている大地を歩いていた。


「……よぉ」


「………ああ」


 そして目的の人物。大の字に倒れているユーマ・シュレーフトを見つけた俺が声を掛けると覇気の無い声が返って来た。


「意外と、元気そうだな」


「……お前も人のことは言えないだろ」


 ユーマはそう言って息を吐くと視線を俺に向けながら言った。


「……で、殺すか? 今なら俺は何の抵抗もできないぞ」


「殺すかどうか別として、一つ聞きたいことがある」


「……組織のことを教える気は———」


「何でそこまで革命に拘る? 何がお前をそこまで駆り立てるんだ?」


「………」


 俺の問いにユーマは押し黙る。そんな彼に俺は続けて言う。


「随分と大層なことを言っていたけど、本当にあれがお前の全てなのか?」


「…………」


「もっと個人的な理由があるんだろ?」


 邪霊のことを語っていた時のユーマの真っ直ぐな瞳を思い返しながらずっと気になっていたことを尋ねる。すると彼は一度目を瞑って息を吐き、夜空を見上げながら少しして口を開いた。


「俺の契約精霊……クロム・クルアハはやたらと主人思いでな。危なくなると頼んでもいないのに勝手に側に来て俺を守ろうとしてくるんだ。それこそ、過保護とも思えるくらいにな」


「いきなり精霊の自慢か?」


「ああ。そうだ。自慢の精霊だ。例え邪霊だろうがどこに出しても、どの精霊と比べても恥じることの無い最高の相棒だと思ってる」


 心の底からそう思っているのだろう。

 そう呟くユーマの表情はとても穏やかで手の甲に刻まれている精霊紋を愛おしそうに眺めていた。


「けど、周りは違った」


 そこでユーマの表情が一変した。


「危険だから、邪霊だから、そいつは闇だから。たったそれだけ……それだけの理由で俺の精霊は否定され、契約者である俺も迫害された」


「…………」


「故郷が拝霊教の信仰が厚い地域だったことも拍車を掛けたんだろう。まぁ、最後には居心地悪過ぎて出て行ってやったが……」


 どこか達観したような表情で語るユーマに俺は何も言えない。その人々のことを否定することができない。


 他でも無い俺も否定よりの人間だった筈だから。


「クロムのことを理解して貰えないことが悔しくて……けど、何よりも故郷を追い出されたことを自分のせいだと罪悪感を覚えやがったクロムの姿が……許せなった」


「お前……」


「コイツは何も悪くない。何もしていない。ただの俺の自慢の精霊だ」


 そこまで言うとユーマは真っ直ぐ空に向けて腕を伸ばしながら言った。


「だから俺が世界を変える。どんな方法だろうとどんな組織と協力しようが、コイツが生きやすい……自慢の精霊なんだと堂々と誇ることができる世界を俺が作り出す」


「………ッ」


 グッと開いた手を握り締めながら語るユーマの姿に気付けば俺は強い羨望を抱いていた。


 契約精霊との強い絆。互いが互いを思い合い、契約精霊の為ならば世界すらも敵に回さんとする覚悟。


 それは何も持たない今の俺にとってあまりにも毒だった。


「……ローク・アレアス。お前は違うのか?」


「……何がだ?」


「邪霊を従えている上に最後のあの力。今のこの世界はお前にとって生きにくく無いのか?」


「……お前、俺の何を知ってる? あの力のことを分かるのか?」


 気付けば問い詰めるような口調に変貌していた。最後の一撃、あの時の俺は意識が朧気でミストルティンを呼び出したと誰かの力を借りたこと以外に何も覚えていない。


 気付いた時にはなんか凄い力が漲ってきてミストルティンを成長させることができたって感じであり、肝心なことはまだ何一つ分かっていない。


「……お前、自分でも理解できていないまま力を使ったのか?」


「ああ、そうだよ……ってそんな目で俺を見るなッ!」


 マジかコイツと言わんばかりの視線を向けてくるユーマに俺はそう憤慨する。


 分かんねぇもんは仕方ないだろ!?


「……はぁ、いいかローク・アレアス。お前は———ッ」


「なッ!? これはッ!!」


 ユーマが口を開いたタイミングで地面がいきなり黒く染まり、地面に寝転がっていた彼の身体はまるで沼に沈むかのように黒の中に沈んでいく。


「やれやれ、お迎えか」


「おいッ! ちょっと待———」


 咄嗟にユーマに手を伸ばそうとするもその時には既に顔を除いた身体のほぼ全てが沈んでおり、手遅れだった。


「ローク・アレアス。俺を倒したお前に敬意を評して一つ警告だ」


 闇に飲み込まれるようにして消えるユーマは最後に言った。


「四凶の復活は既に間近だ。覚悟をしておくんだな」


******


 ドラコニア王国の辺境に存在する巨大な鍾乳洞、竜湖洞。

 その鍾乳洞の中を二人の精霊師が足音を響かせながら歩いていた。


「あの、そろそろ足がヤバいんですけど、まだ着かないんですか?」


 黒衣を纏う若い男の精霊師、ホーンテッドは隣を歩く白い仮面を付けた不気味な姿の精霊師、デヤンにそう尋ねた。


「もう少しだ」


「デヤンさん、俺が聞く度にずっとそう言い返してますよね? 最後のもう少しから既に一時間以上歩いていると思うんですけど……。警備の精霊師達の相手もして流石に疲れましたし」


「アレはお前が戦いたいと自分であったんだろうが」


 文句を垂れるホーンテッドはデヤンは面倒臭げな口調で言い返す。そもそも手伝おうかと尋ねていらないと言ったのはホーンテッド本人だ。自業自得と言えるだろう。


 いや、そもそも……。


「俺に文句を言う前に肩のソイツを下ろせばいいだろ」


 デヤンはホーンテッドの肩に視線を向けながら言う。

 デヤンの視線の先には肩車状態でホーンテッドの肩に乗っているドレス姿の少女の邪霊、ヴラドの姿があった。


「さっきから何度も頼んでますよッ! けど、全然降りてくれないんですよ、コイツ」


『…………』


 そう言いながらホーンテッドはヴラドの小さな身体を掴んで地面に降ろそうと試みるが、ヴラドは手でがっしりと主人の頭を掴んだ上に足を首に回して徹底抗戦の構えを取る。


「なら耐えろ」


「酷い」


 どこまでも冷淡なデヤンの態度をホーンテッドが嘆きながら歩き続けること十分ほど遂に目的地である竜湖洞の最奥へと辿り着いた。


「意外と早く着きましたね」


「だからもう少しって言っただろ」


「何回目のもう少しだと思ってんですか……」


 ホーンテッドがデヤンにジト目を向けながらそう言うが、当の本人は知ったことでは無いと言わんばかりの態度で無視すると眼前の封印に視線を向ける。


 壁に刻まれている黒い方陣。

 過剰とも言えるほど幾つもの強力な封印術式によって眠らされているその存在を見つめるホーンテッドは微笑みを浮かべる。


「ああ、ようやくだ。随分と待たせてしまったね」


 最初に漏れた言葉は心からの謝罪だった。百年以上もの間、こんな辺境で待たせてしまったことに対する懺悔だった。


「今までずっとこんな辛気臭い場所で退屈だっただろう? けど、それも今日までだ」


 次に溢れて来たのは歓喜の言葉だった。ようやくこの偉大なる存在を封印から解放させることができる喜び、そして何よりも闇の時代の幕開けを実感しながら……。


「さぁ、目覚めの時間だよ。アぺプス」


 そう呟くとホーンテッドは四凶、暗冥龍アぺプスの封印に手を伸ばす。


 封印の術式が解け、ガラスが割れるような音を立てながら方陣が崩れていく中、二人の前に闇が溢れ出した。


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