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真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます  作者: アラサム


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90/98

第87話

現在、本作の3巻が発売中です!

是非、一冊手に取って頂ければと思います!!


「誰が……終わりだって?」


「その身体じゃ流石にキツいだろ」


 闘志を見せるロークに対してユーマは血によって紅く染まっていく制服に視線を向けながらそう指摘する。


 実際、その通りでロークは話しているだけでも辛い状況で可能なら今すぐ倒れてしまいくらいだった。


「まぁ、お前がずっと隠している契約精霊を呼び出せば多少はあるかもな」


「…………」


 ———隠しているんじゃなくて元からいないんだよッ!


 とロークが内心で思いっ切り突っ込みを入れているとユーマが苦笑を浮かべた。


「ハッ、そう睨み付けるなよ。これでもしっかりお前のことは評価してる」


「…………」


 多分、その評価間違っているから見直した方が良いだろうなと思いながらも今のロークにはわざわざそのことを指摘する余裕は無かった。


「どうやらホーンテッドさんの言う通り、実力に問題はないらしいな」


「その名前、まさか……」


 かつて戦った邪霊を契約精霊として従えた精霊師の名前を口にするユーマにロークは思わず目を見開く。


「……いや、当然と言えば当然か」


 暫しの間、驚きで固まっていたロークは次いで苦笑を浮かべながら呟く。今まで歴史上でしか確認されなかった邪霊の契約者がそんなホイホイいる訳が無い。


 寧ろ繋がりがあって当然と考えるべきだった。


「ようやく状況が理解できてきたか?」


「……一体、何が目的だ?」


「勧誘だ、組織からの指示でな」


 ロークの問いにユーマはそう言うと片腕を伸ばしながら言う。


「俺達と共に来い、ローク・アレアス」


「……理解できないな。あの男と言い、どうしてそこまで俺を勧誘する?」


「お前が俺達の同志足り得るからだ。その理由は既に察しているだろ?」


「……邪霊か」


 横で動けなくなっているクロを見ながら呟くロークにユーマは笑みを浮かべる。


「ローク・アレアス。お前はこの世界がおかしいと思うことはないか?」


「なに?」


「世界はかつて光と闇から生まれたと言われているが、光は善の象徴として扱われ、片や闇は存在そのものを悪だと恐れ、罵られる。どちらも原初の属性だというのに、この差は実に理不尽だと思わないか?」


「…………」


 ユーマの言葉にロークは押し黙る。

 その扱いの差の原因など幾らでも上げられるが、ユーマの言葉を頭ごなしに否定するのは違うと思ったからだ。


「何故、闇というだけ憎まれ、忌避されなければならない? どうして存在を否定されなければならない?」


「…………」


「俺は闇という存在を否定しようとするこの世界を決して認めない。光を尊いものだと決めつけるこの世界を否定する」


「……自分で光属性の精霊を使っておきながらよく言う」


「アレは俺なりの意趣返しだ。闇の先兵として使い潰しているのさ」


 ユーマの返答になるほど、と思いながらロークは改めて尋ねる。


「俺を仲間に勧誘して何をする気だ?」


「革命だ」


 ハッキリと少しの躊躇いも無くユーマはそう答えた。


「世界の表裏を反転させ、闇の時代を作る」


「……随分と大層な夢だな」


「だが、お前にとって悪い世界では無い筈だ。弾かれ者であるお前にとって」


「勝手に決めるな……よッ!」


 ユーマの言葉に対してロークはそう言い返しながら足に力を入れて立ち上がる。


「別に俺はそんな世界、望んじゃいない。そもそも俺は弾かれ者じゃ————」


「今は違うとしても、いずれそうなる」


 ロークの言葉を遮り、ユーマは首を横に振りながら強い口調で言い返す。


「邪霊と、闇と繋がった者はいずれこの世界から排斥される。確実に、間違いなくな」


「…………」


 まるで予言の如き確信を持った声音。

 今までのどこか芝居掛かった様子とは打って変わり、真っ直ぐこちらを見つめながら口にしたユーマのその指摘にロークは思わず押し黙る。


 軽い言葉では言い返すことのできない迫力が今のユーマの言葉には宿っていた。


「お前……」


「……さて、少し長くなったが問答は終わりだ。改めて返答を聞こう」


「…………」


 最後にユーマはそう言って話を終わらせると答えを求めてきた。

 ロークは静かに息を吐くと手元からオーウェンから受け取ったサファイア色の封霊石を懐から取り出しながら口を開いた。


「アンタの言い分を全て否定するつもりは無いし、同意できる部分もあった。その上で言わせて貰う」


「…………」


 ロークは一呼吸、置いた後にハッキリとユーマに告げる。



「学院を襲撃した犯罪集団の仲間になんかなる訳ねぇだろ、ドアホ」


「……ハッ!」


 ロークの啖呵混じりの返答にユーマは獰猛な笑みを浮かべながら腕を振り上げる。


「なら無理矢理連れ帰って教育してやろうッ!!」


「どいつもこいつも俺を倒せる前提で話すんじゃねぇッ!!」


 吠えるユーマにかつてのホーンテッドとの会話を思い返しながら霊術を発動させる。


 重力を操り、クロと共に勢いよく後方に吹っ飛ぶことで頭上から振り下ろされた黒竜の翼を回避したロークはクロを依代に戻す。



「ソイツを戻すとは逃げるつもりか!? 先に言っとくが、逃すつもりはないぞッ!! 」


「だから勝手に決めつけるんじゃねぇッ!」


 短い会話の間に背後に回り込んでいたクロムの黒翼が薙ぐように振るわれ、ロークは剣を盾にして受けながら宙を舞う。


『ガァァアアッ!』


「ぐッ!」


 再度、クロムの口腔から放たれる光線。

 上からまるで剣の如く振り下ろれる一撃をロークは何とか身体を捻って躱そうと試みるが、完全には避け切れず肩に鋭い痛みを覚えることになった。


「はぁ、はぁ……」


「諦めろッ! 大人しく来いッ!」


 光線によって地面の土砂が巻き上がる中、突っ込んできたユーマが光剣を横薙ぎにに振るう。迫ってくる刃に対してロークは剣精霊を宙に放り投げ、ユーマの腕をガッシリと掴む。


「むッ!」


「おらぁぁあああッ!」


 そのままロークは身体を回してユーマを全力で遠くへと投げ飛ばす。

 クロが消えたことで何も無い暗闇に包まれた空間を勢いよく舞ったユーマは再び瞬間移動を行ったクロムによって抱き止められる。


「まだ、これほど動けるのか……」


 当初の精細さこそ無いが、未だ余力を残すロークに戦慄するユーマ。

 そんな彼を他所にロークはクルクルと回転しながら落下してきた剣精霊をそのまま依代に戻すと今まで隠していた奥の手を呼び出す。


「来い、ミストルティン!」


 精霊達を依代に戻したことに違和感を覚えたユーマがロークの持つ封霊石から現れた精霊をジッと見つめれば、それは小さなヤドリギの姿をした低位の木精霊だった。



 そんな精霊で一体、何を? 

 そんなユーマの疑問に答えるようにヤドリギはロークの右腕にその根を降ろし、そして———。


「さぁ、遠慮はするなッ! 好きなだけ喰らえッ!」


『———』


「これは……ッ!」


 微弱だったミストルティンの霊力が急激に膨れ上がり、新芽だったその姿は見る見る内に成長していく。それは思わずユーマが驚愕の声を漏らすほど、異常な成長速度だった。


 木精霊ミストルティン。

 オーウェンから奥の手として手渡されたその精霊の真価は契約した精霊師の霊力を喰らい、どこまでも際限なく成長し、進化する性質にある。 


 故にミストルティンは契約者の霊力が多ければ多いほど強力な強力な精霊に生まれ変わることが可能だが———。

 


「ぐぁ……が……あ」



 成長の為に宿主の身体から一切の躊躇いなく霊力を吸い取っていくミストルティンの勢いの凄まじさにロークは思わず地面に膝を突いてしまう。幾ら人間離れした霊力を保持しているロークと言えど、ここまでの戦闘によって霊力は既に半分以下まで減っている上に重傷も重なり既に限界が近かった。


 ———駄目だ。まだ耐えろッ!


 朦朧とする意識の中、ロークは歯を食い縛りながらミストルティンに向ける。その姿は新芽の時とは見違えるほど成長しているが、まだ足りない。


 ミストルティンのは一度、呼び出して契約を結んで力を与えたが最後、その成長を止めることは許されない。一度でも成長を止めてしまえば二度とそこから成長することは無い。


 故にロークは何とか意識を保ちながらなけなしの霊力を注ぎ込んでいくが…………。


「……少し驚かされたが、やはり限界だな」


『グルルルル』


 ユーマはそう呟くと既に限界のロークを回収するべく近付いてくる。


 ———マズい、意識が……。


 一歩ずつ迫ってくるユーマに焦るもロークは遠のいていく意識を引き留め切れず、そのまま視界が闇に包まれかけた時だった。


「…………?」


 暗闇の中にロークは小さな炎の幻覚を見た。


 ————天を目指せし原初の翼。


 その炎は段々と暗闇の中でその勢いを増していく。


 ————今、破滅の狼煙は上がり暴虐が大地を覆う。


 気付けば炎はロークの身体を包み込み、冷え切っていた肉体が熱を帯びていく。


「———ッ!!」


 そして遠くに感じる霊力に気付いたロークは閉じた目を開く。四肢に力を入れ、ゆっくりと立ち上がろうとする。


「……この霊力は」


 同じく遠くで今も膨れ上がり続ける霊力を感知したユーマはその霊力の大きさに目の前で死に体のロークから意識を完全に外してしまう。


「ミス……トルティンッ!」


『駄目だよ』


 それを好機と見たロークは更に霊力を吸わせようとしたところで耳に懐かしさを感じる声が耳に入ってくる。


『それ以上はお兄ちゃんが持たない。死んじゃうよ』


 やんわりとした口調ながらも強い意志を感じさせる声。

 果たして声の主は何者なのか。或いは限界である自分が見ている幻覚かも知れないと思いながらロークは純粋に心配する声音を無視する。


 ここで我が身可愛さに引き下がるなど絶対にあり得なかった。


『お兄ちゃん』


「………」


『言うことを聞かないなら、私が……』


「———なら、力を貸してくれ」


 霊力の欠乏により朧気な意識の中、三度目の警告にロークは隣に見える夜色のドレスを纏った少女にそう助けを求めた。


 力の無い瞳で幻か否かも分からない少女の瞳を見つめるロークの口は気付けばごく自然に開いていた。


「頼む、■■■」


『————』


 少女はロークが無意識に放ったその言葉に目を見開く。

 そのまま少しの間、困惑や動揺を感じさせる表情を見せた後、彼女は嬉しそうに破巖した。


『…………仕方ないなぁ。特別だよ』


 そう言いながら少女はロークの右手に自身の手を添える。

 途端にロークの片目が黒く染まり、腕に寄生していたミストルティンが過剰とも言える力の供給によって瞬く間にその姿を変貌させる。


「———なに?」


 同時に走った黒い衝撃波によって大きく吹き飛ばされたユーマはこの大精霊演武祭中一番の驚愕と共に振り返ってくる。


 そんな彼に対してロークは主人の力によって進化を終え、黒い輝きを放つ木槍へと姿を変えたミストルティンの先端を向ける。


「成誕 黒夜の聖槍黒夜の聖槍(アーヴァカリプス)」 


「クロムッ!」


「——っ!」


 切っ先を向けられた瞬間、背筋を駆け抜けた凄まじい悪寒。

 あれを使わせてはいけない。反射的にユーマが下した指示に従い、クロムは素早く行動に移った。瞬間移動によってロークを背後から叩き潰すべく闇を纏い、霊術を発動しようとして————。


『グォッ!?』


 突如として顔面に浴びた光弾によって闇が霧散、霊術が不発になってしまう。


「……させませんよ」


「貴様ッ!」


 ロークによって作られた即席のバリケードの中から意識を取り戻したミーシャの正確な狙撃による妨害。よりによって光に邪魔されたという事実にユーマが憤るが、その僅かな時間が致命傷となった。


「行きなさい、ロークッ!!」


 ミーシャは叫ぶ。その全てを託すと言わんばかりの呼ばれた自身の名にロークは一歩、力地面を砕く強く足を踏み込んだ。


「はぁあああああああああああッ!!」


 響き渡る雄叫び。そして放たれるロークによる渾身の投擲。

 ロークによって一本の聖槍へと生まれ変わったミストルティンは黒い軌跡を残しながら一直線にユーマに向かっていく。


 本能的に命の危機を感じたユーマは霊術により何枚もの障壁を展開する。


 現れた幾つもの闇の盾はけれども聖槍に一度の拮抗を許さず、一枚また一枚とその全てを貫き突き進んでいく。


『ガァアアッ!』


 そして最後の障壁が音を立てながら砕ける中、瞬間移動によりユーマの前に現れたクロムが遂に自身を壁として立ち塞がる。


 二枚の黒翼と聖槍が闇を振り撒きながら衝突し、火花を散らす。竜の翼によってようやく受け止めることができた一撃。


 だが、クロムは気付く。その翼を薙ぐことによって槍を払おうとするも動く気配がなく、それどころか槍の穂先が徐々に自らの翼に食い込んでくることに。


『グォオオオオッ!』


 クロムは咆哮を上げながら翼に力を込め、槍を弾き返そうとするも翼全体に走った鋭い痛みによってその動きが止まる。


 ミーシャの槍撃を始めとしてロークの剣やクロの霊術を受け続けたことにより少なからず消耗していた翼は遂に限界を迎えた。


『グガァアアアアアアッ!?』


 翼を貫通し、そのままクロムの胴体を穿った聖槍はその先にいる主の姿を捕らえた。


「その力、まさか…………」


 聖槍が纏っている黒い力。

 霊力よりもより濃く、より純粋な闇の力を前にして様々な感情を交差させながらユーマは肩を貫かれる。


 同時にユーマの張っていた結界がミストルティンによって貫かれ、音を立てて砕け散っていく。


「————」


 闇が晴れて月明りの穏やかな輝きに照らされる夜空を黒い閃光が駆け抜けた。



 そしてロークは夜空に浮かぶ月とは別の光を目にする。


 眩い真紅の輝き。

 その輝きを飲み込まんと襲い掛かる巨大な蛇と盾で阻止するする光の巨人。まるで物語に出てくるような騎士と怪物との一騎打ちの光景だった。


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