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真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます  作者: アラサム


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第86話

本日、『真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます』の3巻が発売日になります!


本作を読んで頂いている読者の皆様、宜しければ刀彼方さんの綺麗なイラストも載ってますので是非、ご購入頂ければと思います!

「雷柱 四方鎖縛」


 ケイの指揮棒を振るうとサンドワームを囲むように地面から雷を帯びた石柱が出現する。

 そのままサンドワームに向かって四つの柱から雷の鎖が幾つも放たれ、その巨体を拘束せんと絡み付きながら雷撃を与える。


『ォオオッ!』


 全身に雷を浴びるサンドワームは苦しげな声を上げながらもその巨体を乱暴に動かして拘束から離脱しようと試みていた。


「灰熱衝!」


『グォオオッ!』


 そんな無防備なサンドワームの頭上を飛ぶサラマンダーの口からレイアの声に応じて咆哮と共に高熱の衝撃波が放たれた。大気を振動させる破砕音が響き渡ると共にサンドワームの頭上が煙に包まれる。


「どうだい?」


「手応えが無いとは言いませんが……」


 ケイの質問にレイアはそう答えながら煙が晴れた先、衝撃波の着弾地点に視線を向ける。


 確かにサラマンダーの一撃はサンドワームの外殻の一部を砕き、破壊しているがそれでもその内側に届くほどの威力は出せていない。


「ふむ、やはりもっと火力が必要か」


「ウィングストーム」


 ケイが呟いた直後、サンドワームの後方を飛んでいたグリフォンが大きく翼を羽ばたかせた。すると四つの石柱それぞれを包み込むように霊力を帯びた巨大な竜巻が現れ、そのまま内部の石柱を粉々に切り裂いて破壊した。


『ゴォオオッ!』


 石柱の破壊に伴って雷の鎖も消滅した為、自由を得たサンドワームは雄叫びを上げながらその巨体を天高く伸ばすとそのままサラマンダー目掛けて勢いよく倒れ込む。


「サラマンダー、急旋回ッ! 避けてッ!」


 迫ってくるサンドワームの巨体に対してサラマンダーは身体を思いっ切り傾けて旋回、軌道を変えるとその大きな影から出ることに成功する。直後、サンドワームが大地にその身体を叩き付けたことで土砂と土煙が舞い上がり、辺り一帯の視界が失われる。


『———ッ!!』


「おや?」


 歌声が響き渡り、視界の土煙が音圧によって払われる中、ケイは覚えのある禍々しい気配が現れたことに気付く。一拍遅れて気付いたレイアも「先輩」と声を掛けてくる。


「この気配……」


「ああ、彼が邪霊を出したんだろう」


 そしてそれは同時にロークがそれだけ切羽詰まっている状態であることに他ならない。学位戦ですら呼び出すのを躊躇っていた男が今、この大精霊演武祭の舞台で満を持して出したのだ。


 加えて何故かもう一つ感じる邪霊の気配、明らかに切羽詰まっている状況だと考えて良いだろう。  


 静かにケイの表情が鋭くなる。



「………レイアさん」


「は、はい」


「主役になりたいかい?」


 真っ直ぐこちらを見つめながら問い掛けてくるケイにレイアは動揺する。一体、どういう意味なのか、その真意の読めない質問にレイアは暫し押し黙るが———。


「……はい、なりたいです」


 ———最後にはケイの瞳を見つめ返しながらそう力強く返事をした。


「……よろしい」


 その返事に頷いたケイは勢いよく指揮棒を振り上げる。セイレーンが熱を帯びた声を上げ、サラマンダーの周囲を赤色の音符が舞う。


「では今から僕が君を全力でサポートする」


 ケイはその宣言と共に指揮棒を振るい、レイアとサラマンダーに霊術による強化を行う。途端に軽くなる身体と奥底から溢れ出す霊力にレイアが驚く中、ケイは告げる。


「君が出せる全力の火力でサンドワームごと後方の封霊石を貫くぞ」


「えっ、ここから!?」


「方向、角度、位置調整は全て僕が教える。君はただ自分が出せる全力を出せばいい」


 そう言うと困惑するレイアにケイは視線で「できるな?」と尋ねてくる。


「———はい」


 その視線を見たレイアは気付けばそう返事をしていた。否、そう言わざるを得ないほどケイからの視線は強い信頼の色が見えた。後輩として答えない訳にはいかなかった。


 息を吐き、稽古を付けてくれた先輩の言葉を思い返しながらレイアは静かに謳い始めた。


「炎の化身。紅蓮の翼。蒼穹を焼く焔———」


「……ふむ」


 朗々と詠唱を始めるレイアの姿にヴァンはその瞳を鋭くする。何をするつもりか分からないが、放置する理由も無い。


「サンドワーム」


『ゴォオオオオオッ!』


 出した指示は詠唱の妨害。そして最初から何度も出している封霊石は決して破壊するなという指示の二つ。特に今、ユーマ会長は念願の相手との戦いを楽しんでいる最中の筈だ。


 絶対に邪魔させる訳にはいかない。


「演劇『炎竜の巫女』前編 巫女の騎士」


 対してケイはヴァンの指示によって襲い掛かってくるサンドワームを迎撃するべく指揮棒を振るう。ケイの指揮の下、セイレーンが両手を広げながら美しい音色を響かせ、溢れんばかりの無数の音符を生み出す。


 やがてサラマンダーの前に集まった無数の音符はやがて人の形を成していき、やがて大盾と剣を装備した光の巨大な騎士へと変化した。


『ゴォオオオッ!』


『———ッ!』


 そして光の騎士は大盾を構えると突っ込んできたサンドワームの一撃をその盾で受け止める。鈍い音が鳴り響く中、反撃とばかりに光の騎士が剣をサンドワームの胴体目掛けて振るうが、その刃は外殻の表面で止まってしまう。


「やはり硬いな」


「無駄だ。その程度の鈍らで斬れる程、サンドワームの外殻は柔らかくない」


「そうだな。けど……」


「降り注ぐ厄災を喰らう———」


 ケイは視線を後ろに向ける。レイアの詠唱と共に辺り一帯の温度が段々と上がっていき、彼女の纏う霊力が膨れ上がっていく。


「本命は僕じゃない」


「……ッ! グリフォンッ! サンドワームッ!」


 止まることの無い詠唱にいよいよその危険性が自分の想像の上を行くことに気付いたヴァンは契約精霊達に攻撃を命じる。


「いいねぇ、ようやく君の顔から余裕が消えてきた」


 ケイは微笑みを浮かべながら指揮棒を振るい、上空から迫ってくるグリフォンに対して二重の結界を張り、サンドワームは再び光の騎士で受け止める。


「……ッ! だが、貴様とてこの規模の霊術長くは維持できない筈だッ!!」


「ああ、その通りだ。もし君がこの演劇を前編で終わらせたのならば僕の負けだ」


 額から滝のような汗を流すケイはヴァンの言葉を否定することなく頷くと指揮棒を構えながら告げる。


「さて、後輩に主役を譲っておいて劇を台無しにする訳にはいかないからね」


 ニヤリと霊力消費による疲労を一切見せない楽しげな表情を浮かべながらケイは言った。


「一勝負といこう」


*****


「ハハハッ! 最高だッ!!」


 闇に満ちた世界でユーマ・シュレーフトは歓喜の声を上げる。 


 無数の岩石が縦横無尽に飛び交う物理法則が滅茶苦茶になった世界で衝突する二つの黒い霊力。黒と黒が互いを塗り潰さんとより濃い黒を纏い衝突する二体の邪霊。


 そんな地獄のような空間を剣を片手に真っ直ぐに突き進んでくる精霊師、ローク・アレアスの姿にユーマは更に口角を上げる。


「おおおおッ!」


「クハハハッ!」


 堪え切れない喜びの感情を漏らしながら黒い霊力を帯びた斬撃を自身の光剣で受け止める。


「———ッ!! ハハハッ!」


 腕に伝わる今までとは桁違いに重い衝撃に耐え切れず、気付けば足が地面から離れて後方へと弾き飛ばされる。


「近接戦闘は分が悪いかッ! ならばッ!」


 近接戦での不利を悟ったユーマは霊術によって生み出した黒光の弓に光剣を番え、そのまま追撃を掛けてきたロークに向かって矢として放つ。


「重剣 波紋ッ!」


 ロークは迫ってくる矢に対して重力を纏わせた刃を横薙ぎに振るう。轟音が響き渡り、放たれた重力波と剣が衝突して爆発を起こす。


「重剣 轟ッ!」


 爆煙で視界が遮られる中、ロークは再度、剣に重力を纏わせると思いっきり地面を踏み込みながらユーマがいるであろう地点を狙って全力の突きを放つ。


「ッ!」


 放たれた突きによって爆煙が一瞬で晴れ、迫ってきた砲弾の如き霊力の塊をユーマは咄嗟に横に転がって躱す。   


 完全に崩れたユーマの体勢。

 その明確な隙を逃すまいとロークは剣を振り被るが、直後その身体がくの字に曲がる。


「この、クソトカゲめッ!!」


『ガァアアッ!』


 一瞬で真横に現れたクロムの尻尾が腰の部分を目掛けて振るわれ、咄嗟に剣で受け止めるが空中では踏ん張りが聞かず、そのまま吹っ飛ばされてしまう。


「クロッ!」


『△&$〇ッ!』


 ロークの声に応じ、巨大なエイの姿をした邪霊、クロがその重力操作の霊術をもってロークの身体を受け止める。


「ぶっ放せッ!」


『———ッ!!』


 クロの重力操作により、周囲の岩石が浮かび上がる。そのままロークの指示の下、幾つもの岩石が眼前のクロムに向かって弾丸のように放たれる。


『グゥウッ!』


 主人が側にいた為、クロムは回避行動を取らずにその翼をもって迫ってきた岩石の弾幕を受け止める。普通なら一溜まりも無い筈の物量攻撃もクロム相手では火力不足らしく、怯む気配が全く無い。


「やれッ!」


 ならばとロークはクロに自分を弾丸の如く放たせる。

 クロムは自身の翼と次々に放たれている岩石のせいでロークに気付くことができず、肉薄を許してしまう。


「はぁああッ!」


『グォッ!?』


 重低音を響かせながら斬り上げるように振るわれた斬撃はクロムの翼を弾き、一時的にではあるが無防備になる。


 ———ここだッ!


 この好機を逃さんと重剣を放つべく、ロークは霊力を込めながら剣を振るおうと試みるが、その直後にクロムの影から飛び出してきたユーマによって腕を抑えられ、斬撃が止まる。


「させねぇよ」


「なら潰れろ」


 霊術を発動。そのまま目の前にいるユーマを潰そうと試みるも危機を察知したらしく、霊術がその効力を得る前に退避されてしまう。


「ハハハッ! 危ない危ないッ!」


「チィッ」


 ロークが舌打ちを漏らす中、ユーマは陥没した地面を見て笑いながらクロの霊術によって浮かぶ岩の一つへと跳躍する。


「そうだ、これだ! この闇に満ちた世界ッこれこそ俺の望む世界だッ!!」


『グォオオッ!』


 両手を広げながら叫ぶユーマの背後で黒翼を広げたクロムが現れる。

 その紅い眼光が鋭くなると共に霊力が急激に高まり、その口腔から紫色の光が漏れ出す。


 その光を見たロークは全身に走る悪寒に従い、瞬時にクロの下まで後退した。


「クロ、障壁だ!!」


『〇■$@ッ!』


 ロークの指示にクロは返事を返すと周囲に黒い障壁を展開する。


 直後、クロムの口腔が煌めく。

 重低音と共に光線が周囲に浮かぶ岩石を容易く斬り裂きながら障壁に直撃する。ギィンと金属を削るような音を響かせながら光が暗闇を駆け巡り、その度に障壁が激しく軋む。


「この暗闇の世界でこそ、俺達は輝けるッ!」


『×□#ッ!?』


「ぐあぁッ!!」


 熱に浮かされたユーマの叫びと共に遂に障壁が砕かれ、光がクロと俺の胴体を斬り裂く。


 焼けるような痛みが右肩から左腰まで駆け抜け、俺は思わず地面に崩れ落ちる。そして俺と同様に浅くないダメージを負ったクロも霊術を維持できなくなり、浮かんでいた岩石が次々に地面へと落下していく。


「終わりだな」


 光が収まり、岩と共に地面に着地したユーマが先程と打って変わり、落ち着いた声音でロークに告げた。


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