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真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます  作者: アラサム


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第85話

「ほらほら、上から来るぞ!」


「だからそんなに焦らせないで下さいッ!」


 頭上を覆う巨大な隕石……否、サンドワームの尾を見上げながらケイは楽しげに警告の言葉を口にする。レイアはそんな先輩に苛立ちながらもサラマンダーを操って振り下ろされたサンドワームの尾から逃げ延びる。


 ドンッと地震にも似た激しい振動が大地を揺らし、尻尾の振り下ろされた地面を見ればその部分だけぽっかりと陥没していた。


「……ッ!」


「ハハハッ! あれ喰らったらペシャンコだね~」


 その威力に息を呑むレイアを他所にケイはどこまでもマイペースに呟く。そんな先輩の姿に段々とレイアのフラストレーションが溜まっていく。


「先輩……ッ!!」


「おっと、今度はブレスが来るね」


「ッ!!」


 後方にて急激に膨れ上がる霊力。振り返ればその口を目一杯開いたサンドワームが口腔の奥を輝かせながら何か恐ろしい一撃を放とうとしていた。


「サラマンダーッ!」


 レイアがサラマンダーの名を叫び回避を命じる中、ケイは指揮棒を振るって契約精霊達に霊術を発動させる。


「千鏡の盾」


『ゴォオオオオッ!!』


 ケイの霊術が完成すると同時にサンドワームの口腔から霊力と吸い込んだ瓦礫を凝縮した破壊光線がサラマンダーを目掛けて一直線に突き進む。


 しかし、サラマンダーの後方に無数の鏡がどこか亀の甲羅を彷彿させるような形状で展開され、甲高い音を響かせながらサンドワームの破壊光線を受け止める。



「やはり防ぎ切れないな……レイアさん、回避は止めずに」


「……は、はい!」


 鏡の盾は破壊光線の一部を跳ね返し、正面にいた天狗に直撃させて落下させるが、暫くするとひび割れが生まれ始める。


 その盾の様子を見て限界を悟ったケイは安堵して回避行動を中途半端に終えようとしていたレイアを注意するように告げる。




 その言葉に従ったレイアにより破壊光線の攻撃範囲からサラマンダーが離脱すると盾はその役目を終え、ガラスが砕ける音と共に消滅した。


「やれやれ、大した火力だけど……やっぱり変だな」


「変……ですか?」


 どちらかと言えば先輩の方が変な気がという気持ちを抑え込みながらレイアは「何が変なのでしょうか?」と尋ねる。


「さっきからどうも決めにくる気配が無いんだよね」


「……どういうことですか?」


 その言葉の意味が分からずレイアが再度、尋ねると「実はね……」とケイは口を開く。


「今みたいにサンドワームの攻撃を防御した時に結界の維持ができなくて何度か無防備な状態を晒している筈なんだけど、一向にそこを突いてくる気配が無いんだよね」


「気付いてないだけじゃ? もしくはそのタイミングで攻撃ができなかったとか、罠だと思って警戒しているとか?」


「そんな格下の相手じゃないよ。明らかに何かを意図してる」

 

 幾つかの可能性を指摘するレイアに対してケイはその全てを否定しながら視線をヴァンへと向ける。


「………」


 ジッとこちらを見つめるその瞳から彼の意図を読み取ることはできない。


 が、この瞬間も攻撃を仕掛ける気配の無いヴァンの様子にやはり違和感を覚えずにはいられなかった。


 ———何を狙っている?


 不気味とも言えるヴァンの挙動に今度はこちらから仕掛けようかとケイが指揮棒を構えた瞬間のことだった。


「……ッ!」


「———これは」


 全身に走る悪寒。

 本能的な恐怖を湧き上がらせる禍々しい気配にレイアとケイは思わず視線を眼前の敵からそちらへと向けてしまう。


 覚えがあった。ルナの遺跡、学院襲撃事件、ビブリア廃神殿、或いは学位戦。それらの戦場にて現れた闇を司る精霊。


「……先輩?」


 レイアは自分で呟きながら瞬時に違うと否定する。


 ルナの遺跡で出会った時でさえ、あの邪霊からここまでの恐怖は感じなかった。


 下手をすれば今、現れたその存在はつて自分を追い込んだホーンテッドの邪霊よりも濃く禍々しい気配を放っている。


「始めるのですね」


 聞こえてきた声にケイは静かに顔を上げる。

 見れば隙だらけだった筈の二人に攻撃を仕掛けることもなく、ヴァンも禍々しい気配を放つ方向へと視線を向けていた。


「……何が狙いだ?」


「…………」


 その問いに対してヴァンはグリフォンの背の上で静かに手を上げる。


『ゴォオオオオオッ!!』


 響き渡るサンドワームの雄叫びにそれが答えかとケイが指揮棒を構える中、ヴァンは静かに言った。


「全て会長の思うままに」


******


 何が起きた?

 それが今、俺が胸中に抱いている気持ちだった。


「————」


 崩壊した大地、送還された雷獣、地面に倒れるミーシャの姿、周囲を覆うように漂っている黒い霧、そしてユーマの背後に現れた禍々しい気配を放つ黒い鱗に覆われた竜精霊。


「……ッ!!」


 暫くの間、目の前の景色に呆然としていた俺は我に返ると倒れているミーシャの下へと駆け寄り、その容態を確認する。


 霊装化こそ解除されているが、その身体に大きな傷はなく呼吸もしっかりとしている。霊装化をしていたことが功を奏したのだろう、意識が無いだけで特に命の危険は無さそうだ。


「動揺しながらもすぐに仲間の容態を確認か。立派だな」


「…………」


 ミーシャの無事を確認して安堵する俺に対してユーマはそう言いながら掛けていた眼鏡を放り投げ、前髪をかき上げる。


 ユーマの容姿が先程までの生徒会長らしい理知的な容姿から一変、荒々しく野生的な変貌に変わるが、今のロークのとっては些細なことだった。


「……何をしたんだ?」


 未だに混乱の残っている頭の中で辛うじて声に出すことができたのはそんな漠然とした疑問だった。


「何をしたと思う?」


「———ッ!」


 ユーマの言葉を聞き終える前に俺はミーシャを抱えながらその場から跳び退く。


 直後、ついさっきまで自分が立っていた場所を見れば翼を鈍器の如く振り下ろすクロムの姿があった。


「いつの間———」


『ガァアアッ!』


「———にッ!?」


 砕けた岩が舞い上がる中、不気味な効果音と共にその場から搔き消え、次の瞬間には眼前で雄叫びを上げながら尻尾を横薙ぎに振るってくる。


「くそッ! ぐぁあッ!?」


 ミーシャを抱えている以上、避けきれないと判断した俺は咄嗟に剣を盾にクロムの尾を受け止めようと試みるも、剣越しに伝わる圧力に耐えきれず俺の身体は勢いよく吹っ飛ばされていく。


 何だ、あの速度ッ!? 速過ぎるだろッ!!


 もはや瞬間移動の領域に足を踏み入れているクロムの移動速度にブチギレながら何とか体勢を立て直そうとするが、再び高速移動の際の不気味な効果音が響き渡る。


「———後ろッ!」


 視界にクロムの姿が無かった為、半ば反射的に後ろを振り返りながら剣を振るうが、そこに手応えは無かった。


「しま———ッ」


『グォオオッ!』


 空を斬ったことに虚しさを覚える間もなく頭上から雄叫びが聞こえてくる。咄嗟に顔を上げれば俺達に向けて勢いよく落下してくるクロムの姿が視界に入った。


 もう回避は間に合わない。ならせめてミーシャだけでも……ッ!


「クロム、そこまで」


 俺がミーシャを遠くに放り投げる前にユーマからの制止の声が入り、クロムは俺に直撃する寸前で急上昇。予想外の形ではあるが、直撃を回避することに成功した。


「と、これがさっきの返答の一つになるが、理解してくれたかな?」


「……随分と物騒な回答だな」


 一瞬、何のことだと思ったが、これが先程の漠然とした質問の答えなのだと理解した俺は思わず顔を顰めながら呟く。


 しかもまだまだ謎なことが多いし……。


 加えて——————。


「何故、精霊院の回収が来ない?」


 現在のミーシャは意識を失い、とてもでは無いが戦闘を続行できるような状態では無い。本来ならば精霊院の精霊達がミーシャの回収に来る筈だが、一向に来る気配が無い。


「悪いが、彼女の回収は来ないぞ」


「なに?」


「中継と監視を務める精霊共はクロムで纏めて薙いだ上に結界も張った。暫くの間、精霊院の介入は無い」


「おいおい……」


 競技違反では無いにしても下手すればペナルティを課されない暴挙に思わず絶句する。


「正気か?」


「これが狂っているように見えたか?」


「思わないが、お前の精霊を見ているとあり得ない話でも無いと思ってな」


「ほう、気付いたか?」


「気付かない方がおかしいだろ」


 俺は目の前に降り立ってきた黒竜に視線を向けながら言う。

 紅い眼光に貫かれながら俺はかつてルナの遺跡で出会ったクロ以上の禍々しい気配と霊力を目の前の竜から感じていた。


 信じ難いが、この精霊———。


「———邪霊か」


「そうとも。クロム・クルアハは邪霊。この黒い姿こそ俺が契約した竜の本来の姿だ」


 そしてそんな俺の内心を読み取ったかのようにユーマは自分の従える竜が邪霊であることを告げる。


「…………」


 恐らく目を見開いて「な、なんだってー!」と驚くべきなのだろうが、ここ最近、邪霊と契約している精霊師と戦ったり、俺自身も簡易契約を結んだ経験があるせいで驚きが全然無い。だろうなという納得の気持ちしか湧かない。


 ただ、代わりに目の前の邪霊に対して一つの疑問を抱く。


「何故、今までクロムから邪霊の気配がしなかった?」


「別に難しい話じゃない。単純に封印を掛けているだけだ、普段からな」


俺の問いにユーマはクロムの黒い鱗に触れながらその答えを述べた。


「封印だと?」


「ああ、精霊の真名を縛る封印だ。お陰で普段のクロムは本来の半分程度の霊力出力しか出せない上に霊力属性も反転してしまっていたがな」


 何てことないような口調でユーマは語っているが、俺からすると聞き捨てならない内容を口にしている。


 特にクロムの話は個人的に洒落にならない。

 先程の戦闘でキツイとは思っていたが、仮に今までの発言が全て事実なら動けないミーシャを守りながらユーマに勝つのはまず不可能だ。


 どうにかしてこの場から離れたいところだが……。


「……何故、そんな封印をする必要がある?」


「聞かなくても予想は付いている筈だ」


 とにかく今は時間を稼ぐ必要がある。俺は適当に思い付いた質問をするとユーマから素気無く返されてしまう。


「今の邪霊は恐怖と悪の象徴だ。加えて契約できないものと認識されているこの世界で邪霊と契約していることを大っぴらにするのは何かと面倒事が多い。お前も分からない訳じゃないだろ?」


「……知るか。俺に同意を求めるな」


「冷たいな。邪霊を使役する仲間だろ」 


 時間稼ぎの為の質問だったので適当に聞き流そうと思っていた俺はその指摘に俺は言葉を詰まらせる。


「………どこでそれを」


「それはこの場において重要な話じゃない」


「俺にとっては重要だ。そもそもこの戦いは中継されているんだぞ」


「さっきも言ったろ、精霊院の監視は全て薙いだ。今、この瞬間に限っては誰の目に入ることも無い」


 そう言うとユーマは霊術を発動させる。


 まるで掌から引き抜くようにして黒い輝きを放つ光剣をその手に生み出したユーマはそのままゆっくりと近付いて来る。


「さて、このまま勧誘と行きたいが—————」


「は? 勧誘って……ッ」


 その言葉の意味を尋ねる前にユーマが剣先をこちらに向けるのを確認した俺は素早く依代から火、水、風、土の四属性の微精霊達を呼び出して契約を結ぶ。


 そのまま霊術を発動、生み出したゴーレムにミーシャを預けるとこの場から離脱させる操作を行う。


「まずはその実力を確かめさせて貰うぞッ!」


「ッ!」


 直後、ユーマの振るう光剣が俺の剣に衝突する。


「どうした!? 軽いぞッ!!」


「ぐぅッ!」


 咄嗟に防御には成功したがユーマの一撃が今までよりも重く、押し返すことができない。


 しかも———。


『ガァァアアッ!』


「クソッ!」


 真横に突然現れたクロムに対応する間もなく全身に凄まじい衝撃が走る。翼の薙ぎ払いを受けて思いっ切り吹っ飛ばされたのだ。


「卑怯だろッ! その瞬間移動ッ!!」


『ォオオオッ!』


 思わず文句を言うがクロムは知ったことでは無いと言わんばかりにその口に霊力を溜め、口腔から危うげな紫色の輝きが放たれる。


……これはマズいッ!


 その危険性を直観的に理解した俺は地面を蹴り、竜の射線から外れる。


 刹那、紫色の光が真横を走り抜けた。熱を全く感じないその光に更なる悪寒が俺を襲う中、光は俺を追いかけるようにして振るわれる。


「チィッ!」


 新たに呼び出した微精霊を利用し、霊術を使用する。足元で風が舞い上がり、俺の身体が勢いよく宙へと飛ぶ。


 そこでようやく光の追尾が止む。

 が、代わりに今度はユーマが宙にいる俺を目掛けて霊術を放ってきた。ユーマの周囲に展開されている漆黒の矢、その全てが俺に向けて放たれる。


「水流弾ッ!」


 風と水による複合霊術。渦を描きながら放たれた霊術は迫ってくる矢の群れの撃墜こそ叶わなかったが、その軌道を逸らすことには成功した。


 俺は周囲に逸れていく漆黒の矢の行方を見届けることなく地面に着地すると剣を思いっ切り振り被り、刀身に大量の霊力を込める。


「爆風乱舞ッ!!」


 振り下ろすと共に解放された紅蓮の炎が渦巻く暴風によってその威力を増しながらユーマ達へと突き進んでいく。


「この程度で俺をどうにかできると思うなッ!」


『グォオオッ!』


 主人に呼応するようにして響き渡るクロムの咆哮が響き渡る。

果たして眼前に生み出された炎の海は黒い衝撃波と共に一瞬にして搔き消え、代わりに無数の紫色の光弾が俺に向かって飛んでくる。


「チィ———ッ!」


 迎撃は不可能。となれば回避しかないと足を動かそうとした俺はそこで背後に存在する霊力に気付いた。


「ミーシャッ!!」


 背後に存在する自分の霊力。その正体が自分の生み出したゴーレムであることに気付いてしまった俺は思わず足を止める。


 ここで俺が躱したらミーシャがッ!


「さぁ、仲間を見捨てるか!? それともその剣で防ぎ切るかッ!?」


「……ッ!!」


 ユーマの叫び声に思わず歯を食い縛りながら依代を広げる。腹立たしいことこの上ないが、躊躇いは無かった。


『〇■@□?』


 相変わらず理解できない言葉と共に視界に黒い影が現れ、こちらに向かってきた光弾の全てがユーマに向かってその軌道を変え、跳ね返っていく。


「ッ!?」


 跳ね返ってくるとは思って無かったのだろう。ユーマの表情が驚愕に染まった直後、降り注ぐ光弾と土煙によってその姿が見えなくなる。


「…………」


 俺は静かに剣を構え直しながらミーシャを抱き抱えるゴーレムごと浮かばせ、とにかく戦火の及ばない結界の縁へと運び、その周囲に霊術で壁を生み出す。


 結界外には出られないが、これで最低限の安全は守れる……筈だ。


「ハハハハハッ! いいじゃないかッ!!」


 俺がミーシャを退避させた直後、狂笑と共に風が吹き荒れて視界が明瞭になる。見れば心底楽しげな様子で笑うユーマとその後ろに控える黒竜の姿が確認できた。


「それがお前の闇かッ!? ローク・アレアスッ!!」


「うるせぇッ!」


 俺は興奮した様子のユーマにそう言い返しながら剣に黒い霊力を付与する。剣から聞こえてくるブゥンという重低音を耳にしながら構えを取る。


「行くぞ、クロ!」


『〇●ッ!』


 恐らく肯定の言葉であろう邪霊、クロの返事を聞きながら刃を横薙ぎに振るった。


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― 新着の感想 ―
やっぱりユーマは邪霊使いの一派だったのか…本契約で且つ真名を縛った状態でもトンデモない強さのクロムと、仮契約のクロ…これ大丈夫かローク⁉︎頼む勝ってくれ!
>その威力に息を呑むレイアを他所にケイはどこまでもマイペースに呟く。そんな先輩の姿に段々とケイはフラストレーションが溜まっていく。 訂正です。ここ『レイアは』じゃないですかね?
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