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真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます  作者: アラサム


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第81話

「あっ……」


「おや」


「私ですか」


 輝く手袋の持ち主達、レイア、トラルウス、ミーシャの三人が順に自分の手袋を眺めながら次々に声を漏らす。


「こら、手袋を外そうとするんじゃない」


「ぐッ!」


 そして選ばれた選手の最後の一人である俺は手袋を外そうとしたところをガレスに止められるのだった。畜生。


「やっぱりフラグだった」


「うるせぇッ!」


 やれやれと言わんばかり言うリリーに俺はその頭に弱めのチョップを繰り出す。するとリリーは「うぐッ」なんてオーバーリアクション気味の声を漏らしながら頭を抑える。


 お前、絶対にそんな痛くないだろ。


 いや、そんなことはどうでもいい。それよりもマジ競技に選ばれるとは……。あんなこと言うんじゃなかった……。


「随分と心強いメンバーが選ばれましたね」


 軽率なフラグ発言を後悔する俺を尻目にミーシャが選ばれた選手達を見回して自信と信頼の籠った声音で呟く。


 その言葉に俺もハッとする。


 確かに自分が選ばれてしまったことで気が動転していたが、よく見れば選ばれているのはミーシャを筆頭にユートレア学院の中でも最強格が二人も選ばれている。


 …………そう考えてみるとそこまで落ち込む必要は無いのかも知れない。


「まさか君達と一緒に出ることになるとは」


「緊張してきました……」


 競技に参加する面々を見ながら楽しげに呟くトラルウス、逆にレイアは自分以外が先輩だということもあり、顔を青くしながらそんなことを呟いている。


 その気持ち、よく分かるぞ。と、ミーシャが選ばれた俺達に視線を向けながら言う。


「では皆さん、勝利を掴みに行きましょう」


 俺達は各々、返事をすると控室を出て会場へと向かった。


******


「演武祭ももう終わりか……」


 手にしていた紙を霊術で焼き消しながらユーマは静かに呟いた。

 その横顔はどこか楽しげにも寂しげにも見える表情を浮かべており、その心情を読み取ることは当人以外には難しいだろう。


「……にしても思ったより都合よくいったな」


「何が?」


 ボソリと呟くユーマ・シュレーフトは背後から聞き覚えのある声と気配にため息混じりに振り返る。


「相変わらず気配を消して人の背後を取るのが上手ですね、月影さん」


「ふふっ、実は人の背後に立つのが趣味なの」


 嫌な趣味をお持ちでと内心でユーマが呟いていると「で?」と暗が再度、問い掛けてくる。


「何が都合よくいったの?」


「こっちの話です。お気にならさず」


 そう淡白に告げてユーマはさっさと話を終わらせ、この場から歩き去ろうと試みるも素早く暗に回り込まれてしまう。


「気になるわねぇ」


 ゾクリとその容姿から発されたとは思えぬ不気味な声と共に暗の纏う気配が禍々しいものに変化する。

 気付けば暗の足元から双頭の白蛇がその華奢な身体に巻き付くように姿を現し、その赤い蛇眼がギロリとユーマを睨んでいた。


「何を隠しているの?」


「それは質問ですか? それとも脅迫ですか?」


「どっちだと思う?」


「前者であって欲しいですね。僕としても、試合直前で無駄に霊力を消費したくはありませんから」


 そう呟くユーマの周囲には既に依代から現れてフワフワと浮かんでいる微精霊の姿あり、場に一触即発のピリピリとした空気が漂い始める。


「…………」


「…………」


 そのまま重苦しい沈黙が暫くの間、場を包んでいたが、やがてどちらともなく敵意を霧散させた。


「なんてね、脅かし過ぎたかしら」


「そうですね、正直ビクビクしていましたよ」


 互いに呼び出していた精霊をしまいながら微笑みと共に中身の籠っていない上辺だけの会話を行う。


「それじゃ、僕は競技なのでもう行きますね」


「ユーマ君」


 今度こそ話は終わりだと暗の隣を通り過ぎようとしたユーマはその途中で彼女に再度、声を掛けられて足を止める。


「君の言う通りアレアス君、確かに面白かったよ」


「そうでしょう?」 


 その言葉にユーマは笑みを浮かべながらそう言うと再び歩き出す。そして、去り際に暗に振り返ることなく言った。


「けど、まだまだ。本当の彼はもっと面白いですよ」


「へぇ、なら彼の本当の姿をユーマ君が見せてくれるの?」


「見れるかどうかは知りませんが、引き出すつもりではありますよ」


 待機場所へと向かって消えていくユーマの後ろ姿に暗はそれ以上、言葉を掛けることはなく静かに見送るのだった。


******


「お互い全力で頑張りましょう」


「ええ、よろしくお願いいたします」


 そう言って挨拶を交わす両院の生徒会長の姿を俺は後ろから眺めていた。


「それに君ともう一度戦えるとは……。非常に喜ばしいですね」


「アハハハ……」


 ミーシャとの会話を終え、ニコニコ顔でそう語りかけてくるリベル学院の生徒会長ことユーマに俺はぎこちない笑みをもって答える。


 またこの人と戦うのか……とても嫌なんだが……。


「…………」


 まぁ、暗が選手に選ばれていないだけまだマシだと考えるか。彼女のオロチがいるといないでは天と地ほど差がある。


「フフッ」


「何を笑ってるんだ?」


 話を終えて離れていくユーマの背中を見送っていると唐突にミーシャに笑われた為、俺は思わず眉を顰めながらその理由を尋ねる。


「いえ、ローク・アレアスがリベル学院から評価されているようでユートレア学院の生徒会長として誇らしいと思っただけですよ」


「…………」


 変な尾鰭が付いた噂を聞いて誤解しているだけだろと思いながらも微笑んでいるミーシャの姿を見ているとそのことを指摘する気にもなれず、俺は静かに頭を掻いて誤魔化すのだった。


「さて、作戦を決めましょうか?」


 ミーシャはそんな俺の様子に改めて微笑むとトラルウスとレイアを集めて作戦会議を始めるのだった。


******


 最終競技に選ばれたのは防衛戦。


 用意された精霊の入っていない巨大封霊石をお互いに守りながら戦い、先に相手の封霊石を割った方が勝ちという比較的単純な内容の競技だ。


「舞台は聖都近郊の丘陵地帯。参加人数はお互いに四人。条件は珍しく同じですね」


「確かにな」


 考えて見れば今回は競技によって参加人数が多かったり少なくかったりと平等な条件で勝負するのは少なかった気がする。精霊さんも最後は公平な勝負が見たかったのだろうか?


「注意するべきは生徒会長であるユーマ・シュレーフト。それから……」


「ヴァン・ランドルフさんですね」


 レイアがリベル学院の参加選手の一人、金色のメッシュが入った黒髪が特徴的な少年の精霊師に視線を向けながら答えるとミーシャは静かに頷く。


 ヴァン・ランドルフ。グリフォンとサンドワームという二体の高位精霊と契約しているリベル学院の学生であり、ユーマと暗に続いて三番手の立ち位置にいると思わしき精霊師だ。俺は今回まで当たることは無かったが、一度レイアが競技で対戦して敗北していたのはよく覚えている。


「それらを踏まえた上で私達は攻撃と防御にチームを分けます」


 この競技において重要なのは誰が攻撃を担当し、誰が防御を担当するかだ。それぞれの精霊の適正、それに相手の精霊との相性もある。


 メンバーは慎重に決める必要があるだろうが、どうやらミーシャの様子からして既に決めているらしい。


「どう分ける?」


「攻撃側は私とミカエル。それに手数が多く、臨機応変な対応が可能なローク・アレアスにそのサポートを。防御側は封霊石を掴んで移動が可能であるサラマンダーを使役するヴァルハートさんと強力な結界を張ることができるケイ・トラルウスにお願いしたいと思っていますが、いかかでしょうか?」


「……いや、俺からは特に」


 そんな臨機応変に対応できるかなと思わなくもないが、防御側の編成理由が正論過ぎるので攻撃側に回らざるを得ない。


「私も、この編成で良いと思います」


「本音を言えば攻撃側に行きたいところだけど……まぁ、これが妥当だろうね」


 レイアとトラルウスも俺に続いて同意する。トラルウスは若干の不満こそあるようだが、どうやら許容範囲らしい。


 確かにコイツが攻撃側に回ったら変に調子に乗って負けそうだし、そういう意味でも防御側の方が良いだろう。


「後は相手がどう動くか、か」


 こちらの方針は決まった。後は相手の動き次第だが……・


「恐らく精霊の特性からしヴァン・ランドルフは防御側になる可能性が高いと思います」


「確かにヴァンがどちらに付くとしてもサンドワームは少なくとも防御だろうね」


 トラルウスはミーシャの言葉に頷く。

 確かにサンドワームはその巨体故に動きは鈍重だが、防御力は高い。精霊の性能を生かすなら攻撃に回すよりも封霊石の防御に回す方が無難ではある。


「となるとユーマは必然的に攻撃側か?」


「可能性は高いですよね」


 俺が呟くとレイアは自信無さげながら頷く。

 戦力的に考えてユーマとヴァンが分かれるはほぼ確実の筈だ。となると高い機動力と攻撃力を持つ白竜を従えるユーマは攻撃側に回る可能性が高い気がする。


 加えて言えばユーマ本人がめっちゃ好戦的だし……。


「では、これより移動を開始しますので選手の皆様はサークリアの円の中に入るようにお願いします」


「行きましょう」


 精霊院からの指示が入る。いよいよ最後の試合だなと頬を叩き、気合を入れた俺は歩き出すミーシャの背中に続く。前方からはリベル学院の面々がこちらへと向かって歩いてきており、否応にも互いの視線がぶつかってしまう。


「…………」


「…………」


 けれどお互いに何かを言うことはなく、ただ静かにその場に佇みながらサークリアによる転送による光を受け入れるのだった。


******


「相変わらず凄いな」


 何度も繰り返し、体験しながらも一向に薄れることのない転移術への感動を覚えながらぐるりと周囲を見回す。

 仲間である三人の精霊師、そして地面に置かれている巨大な封霊石。


「デカッ!」


 思わず驚きの声が漏れる。

 この大きさの封霊石になると相当な値段になる筈だ。それこそ下手をすれば一般人の年収レベルの値段になりそうなものだが、これを競技の道具として消費しようというのだから精霊院は恐ろしい。何たる財力か。


「では皆さん、手筈通りに行きましょう」


 俺が場違いなことを考えているとミーシャから指示が出た為、俺達はそれぞれの役割を果たすべく動き出した。


「来い、サラマンダーッ!」


 俺が依代を取り出すと共にレイアもサラマンダーを呼び出す。

 現れた赤竜を一瞥すると前方に現れた複数の霊力に視線を向ける。


「ミーシャ」


「ええ」


 俺の言葉にミーシャは頷くとその傍らに控えていた天使に抱き抱えられる。


「お二人とも、よろしくお願いします」


「はい!」


「ああ、こっちはこっちで楽しませて貰う」


 若干、トラルウスの返事に不安を感じないことも無かったが、ミーシャは特に気にすることもなく二人の言葉に頷きながら天使と共に空へと飛び上がる。


「ローク・アレアス。ミカエルの手を掴んでください」


「分か……」


 頷きながら空にいる天使に向かって手を伸ばそうとするが、そこで俺は思わず身体を硬直させる。


『………』


「………」


「どうしました?」


「……い、いや」


 何故か天使から謎の圧を感じる。その表情こそ仮面に隠されて見ることは叶わないが、多分、仮面の下は凄く険しい表情を浮かべている気がする。


 ……何か嫌われるようなことしたっけ?


「ローク・アレアス。早くして下さい」


「あ、はい」


 いや、何もしいていない筈だ。うん、気のせいだろう。

 ミーシャに急かされた俺は記憶を掘り返して感じた圧を自分の気のせいだと結論付けると差し出された天使の手を掴み取る。


『…………』


「…………」


「一気に行きますよ」


 俺が天使の手を掴んだ瞬間、空気が一瞬ピリッとなるがミーシャは特に気付いた様子もなく天使に指示を飛ばす。


 主人に忠実な精霊も特に命令を拒否せず、俺をその細腕からでは想像もできない力で持ち上げながら丘陵地帯を凄まじい速度で飛行していく。


「……ここにいると言わんばかりに霊力を放っているな」


 天使の飛行速度によって周囲の景色が目まぐるしく変化していく中、目標の霊力反応がセオリーを無視して逃げも隠れもせずに自身の存在をアピールするかのように霊力を放っている。


「罠かな?」


「有り得なくは無いですが、どちらにしても封霊石の反応もある以上、行かざるを得ません」


 巨大な霊力の側に感じる封霊石の微弱な霊力。

 確かに何かしら罠を敷いているとしても勝利条件に封霊石の破壊が必須な以上、ミーシャの言う通り向かう以外に手は無い。


「……ミカエル、高度を上げて下さい」


 そうして目的地近くに到達したミーシャは一度、天使に俺達を抱えながら高度を上げるように指示を出し、上空から敵の様子を確認する。


「あれは……」


 リベル学院の封霊石を視界に入れ、ミーシャは驚きの表情を浮かべる。

 眼下に映る精霊。巨大な封霊石を守るように一対の白翼を広げる雄々しい姿の竜、ユーマの契約精霊であるクロムが俺達を睨み付けながら佇んでいた。


「待っていましたよ」


 クロムの下から依代である本を片手にユーマは現れた俺達を確認すると好戦的な笑みを浮かべながらそう声を掛けてくる。


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ミカエル…まさか気づいてるのか?ロークの中にいる翼を持った女の子の存在を…
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