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真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます  作者: アラサム


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第60話

もはや毎度のことながら遅く申し訳ございません。

お久しぶりの更新になります。

そしてくどくはありますが、今月の25日に2巻がでます!

刀彼方さんのイラストもとても美しいので良ければご購入を検討頂ければと思います!


それでは本編です。

「いやぁ〜、とても楽しかったね!」


「こっちはお前のせいでひやひやしたわ」


 競技が無事?に終了して観客席に戻った俺とガレスは最終競技であるリレーを眺めながら互いに感想を述べる。


 ちなみに俺もガレスもリレーの参加選手ではあったが互いに霊力の消耗が激しく最後の競技に参加する気力が無かった為、申し訳なく思いながらも補欠の選手に競技を任せて休んでいた。


「確かに少し興奮し過ぎたかも知れない」


「あれのどこが少しなんだ?」


 どう考えても少しの範囲を超えている。

 競技中の敵と仲間のオオダマ送還数がほぼ変わらない辺り、あの時のガレスが間違いなくエキサイトしていたことを証明している。


「わ、悪かったよ」


「いや、別に怒ってはいないけどさ……」


 バツの悪そうな表情を浮かべるガレスに俺は苦笑を浮かべる。

 そもそも霊輪祭の趣旨を考えればはしゃぐのは全然構わないし、寧ろ開催者側としては楽しんでくれるのは嬉しくはあるんだが………。


「まぁ、けど久しぶりに勝負できて俺も楽しかったよ。最後は勝ちに行かせて貰ったけど」


「ああ、ヴァルハートさんね。正直、彼女があのレベルの霊術を使えるとは思わなかったよ。油断してた」


 俺の言葉を聞いたガレスは競技中の記憶を思い返しながらそう感想を述べる。


「アレは俺も驚いた。あくまでアイツに期待したのはお前の鎧を剝がすことだけだったんだけど、まさか全部吹き飛ばすとはな………」


「オオダマ越しであの威力なら本来の威力はもっと高いだろうね」


「怖いなぁ、成長って……」


 優秀な後輩たちが後ろから段々と迫って来る姿を想像して思わず身震いする。

 

 俺も新しい戦力として簡易契約でクロを使役できてはいるが、仮にも邪霊との契約。どんなリスクがあるかも分からないのでそう何度も気軽に使える訳でも無い。


 もっと安定して使える力を手入れる必要がある。


 そう、つまりは精霊との契約…………いつも通りの結論である。


「はぁ、精霊と契約してぇ……」


「まだ諦めてなかったんだ?」


「諦める訳ないだろ……」


 精霊師にとって一番大切なことだ。

 妥協する訳にはいかない。


「とはいえ、邪霊とも契約できなかった今、俺は誰となら契約してくれるのか……」


 

「そのことだけど………」


 また依頼ついでどっか遠出でもして契約してくれそうな精霊でも探しに行こうかなと考えているとガレスがどこか悩まし気な表情を浮かべながら口を開いた。


「精霊との契約の前に考えるべきことがあるんじゃないか?」


「どういうことだ?」


 ガレスの言っている言葉の意味が分からず、俺は首を傾げる。


「……前から思っていたが、やはり君は少し変だと思う」


「お、何だ何だ?屋上行くか?」



「違う違う、そういう意味で言ったんじゃないって」


 俺の怒気を感じ取ったガレスは誤解だと首を横に振ると改めて意見を述べた。



「ローク、君って過去に邪霊と契約を結んだことってあるかい?」


「いきなりだな。ある訳ないだろ…………」


「本当に?」


 俺が瞬時に否定するとガレスに鋭い視線と共に質問を繰り返され、その圧に思わず言葉が詰まる。



「何が……言いたいんだ?」


「君が邪霊との契約を行おうとした時に暴走したっていう話はしたよね」


「ああ、したな……」


 俺は頷く。

 何一つ覚えていなかった為、俄かには信じ難かったが俺もガレスもボロボロになっていたし、何より現場の惨状が俺が暴れまくったことを裏付けていた。


「あの時、僕は邪霊が原因で君が暴走した…………そう思っていた」


「……違うのか?」


「分からない……けど、君とトラルウスの試合を見た時——君とクロとの連携を見た時、とてもでは無いがあの子が君を暴走させたようには思えなかった」


「…………」


 ガレスの意見に俺は静かに耳を傾けながら考える。


 確かに契約に挑んだ時、それに修行の時もクロから俺に対する悪感情は伝わって来なかった。だから俺はあの時、契約ができると踏み切った訳だし、学位戦の時にも簡易契約を結んで一緒に戦うことを決めたのだ。


 言われてみるとそう思えなくも無い。


「…………」

 

 まぁ、けど未だに何言ってるかはサッパリ分からないし、よくよく考えたら最初の出会いの時にはヒレぶった斬ってるから恨まれてるのも当然な気がしなくも無いが………。


「そもそもロークが暴れた時、君の意識を乗っ取っていたモノからは明らかに君への強い執着があった。とてもじゃないが、クロからはそんな執着心は感じ取れなかった」


「そうだな、アイツにそんな執着心は無いな……」


 どちらかと言えば能天気なイメージだ。


「……ローク、何か覚えは無いのか?過去、精霊に執着されるようなことをした覚えはないか?」


「……いや、無いと……思う……」


 ガレスの質問に過去の記憶を掘り返しながら俺は答える。


 どちらかと言えば執着しているのは俺の方だし、仮にそんな精霊がいるなら絶対に記憶に残っている気がする。何なら依代にぶち込んで持ち帰っていることだろう。


「本当かい?学院に来る前のこともしっかり思い出したのか?」


「いや、学院に来る前は入試の為に基本、勉強ばっかだったしな。まぁ、途中で精霊と契約が上手くいかなくて実技試験がヤバいって精霊探すようになったけど………」


 あの頃も基本拒否られてばっかだし、そんな記憶に残るような精霊はいない。


「その前は?」


「その前になると今度は親父の浮気で母さん出て行った時期でな、ぶっちゃけその記憶しかない」


「えっ、ごめん。そんなことが………」


「いや……」


 予想外の回答だったらしく驚きと罪悪感の入り混じった表情でガレスから謝罪される。


 そう言えばガレスには伝えてなかったか……。


「大変だったね」


「そりゃな、もう家の空気最悪よ」


 まぁ、あの頃は何かと親同士で言い合いをしていたし空気が悪いなとは思っていたが、まさか不倫にまで発展するとは思ってなかった。お陰で母さんは出て行くし、マジで最悪だったなぁ〜。


「今、実家にいるのは父親だけかい?」


「そうだな、母さんとそれに……妹も、出ていったからな」


「へぇ、君に妹がいたのか」


「あ、ああ、とは言ってもあんまり覚えてないんだけど……な」


 頭を抑えながら俺は頷く。

 妹がいたこと自体は記憶にある……が、それだけだ。

 彼女と何を話したか、どんな遊びをしたか、どんな性格だったのか、年齢……挙句には名前まで思い出すことができない。


「あまり一緒にいなかったのか?」


「いや、どうだろう……というか、そもそも記憶が…………」


 思い出そうとまるでモヤが掛かったかのように記憶があやふやになってしまう。自分の家族のことなのにこんなに思い出せないなんてことがあるだろうか?


「ローク、君……もしかして」


 そんな俺の様子を見てガレスが何かに気付いた様子で口を開く。


 何だ、何に気付いた?





「空想上の妹を作り出してしまうほどに妹が欲しかったのか」


「ちゃうわ」


 予想の右斜め下の回答に思わず突っ込む。


「まさか、君がそこまで妹に飢えていたなんて……」


「待って待って、勝手に変なキャラ付けしないで」


「けど、わざわざ妄想なんてしなくてもリリーがいるだろう?もう、彼女は君の妹みたいなものじゃないか」


「違う違う、話が盛大に逸れちゃってる。別に妹に飢えてる訳じゃないから」


 どんどん深まっていく誤解を必死に解きながら俺は言う。

 というか妹萌えはどうでも良いんだ。いや、どうでも良いというか元々そんな属性所持してねぇし。



「へぇ、妹萌えなの?」


「だから違ぇって言って———-」


 何回言わせるつもりだと俺が文句を言おうとして硬直する。


「…………えっ、誰?」


 いつの間にか隣に腰掛け、ニコニコと親しげに話し掛けてくる少女にけれども全く見覚えが無い。


 首元辺りで切り揃えられた黒く艶のある髪、どこか闇を感じさせる赤い瞳、衣服からでも分かる胸元の膨らみ。美しくもどこか恐ろしさを感じさせる容姿をしている。


 知ってるかと隣のガレスに視線を向けるが、首を横に振られる。どうやらガレスも知らないらしい。


 となると本格的にコイツは誰だということになるが…………。


「どなたですか?」


「誰でも良いじゃん。それより君の妹萌えの話を———」


「嫌だよ、何で名前も知らない奴と妹萌えについて語らなきゃいけないんだよ。つーか、そもそも妹萌えじゃない」


 何で知らん奴にも説明しなきゃいけないんだよ……。


「待て、その制服、もしかして………リベル学園の学生か?」


「あら、バレちゃった」


「リベル学園って確か……」


「アドラ帝国に存在する精霊師育成機関の一つ。前大精霊演武祭の優勝校だよ」


「マジかよ」


 そんなリベル学園の学生がどうしてここに……と思っていると俺の疑問を読んだかのように彼女は口を開いた。


「別にそんな深い理由は無いよ。強いて言えば妹の様子を見に来たんだ」


「……妹?」


 訝しげな表情で呟くガレスの隣で俺はまた妹かよ、と内心で突っ込む。何でこんな瞬間的に妹の話題が出続けているんだ。


「そう、愚かで可愛い妹の様子を見に来たんだ」


「「……………」」


 そう言って楽しげに微笑む少女に俺とガレスはゾクリと背筋に悪寒を走らせた。よく分からないが、この女はヤバい。本能がそう告げていた。


「ふふ、まぁついでに何か面白いモノでも見れたらなぁって思ってたんだけど、意外と収穫があったよ」


「そ、そうですか……それは何より」


 どこか獣を彷彿とさせる視線を向けてくる少女に俺は若干引きながら答える。


 何だろう、凄く怖いんだが……。


「それじゃ、僕は———」


「…………」


 標的が俺になったと判断し、この場からの逃走を図ろうとしたガレスの腕を俺は全力で掴んでこの場に留まらせる。


 ———離せ。


 ———逃がさん。


 互いの視線が交差する中、終わりは予想外の形で訪れた。


「あ、気付かれちゃった。もうちょっと話しでみたかったんだけど残念ね」


「気付か……え?」


「縁がまた会いましょう、えっと、お名ま……え」


 言葉の途中で少女の姿が脳天から縦真っ二つに分断され、その姿がまるで空気に溶け込むかのように消滅する。


「「…………」」


 まさかの事態に俺とガレスは絶句しながら下手人に視線を向ける。


「……チッ」


 苛立たしげに舌打ちをする後輩、月影燈は手にしていた刀を鞘へと納刀する。


「………えっと、もしかして君のお姉さん?」


 予想外の出来事ラッシュにパンクしていた脳をようやく再起動させた俺が遠慮がちに燈へと尋ねる。よくよく見るとあの人と燈は容姿や雰囲気に近しいところがある。


「…………」


 燈は俺の質問に答えることなくジッと今し方自分が斬った……先程まで姉がいた虚空を見つめている。



「……良かったな、ローク。妹属性がここにいたぞ」


「だから違うって……」


 ポンっと肩に手を置きながら言うガレスに俺は再度、突っ込むのだった。


 そうして俺たちが訳分からん女と話している内に霊輪祭は俺たち赤組の敗北という形で幕を閉じていたのだった。

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