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真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます  作者: アラサム


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第52話

お待たせしました。

今回から本編に戻ります。

 みんなの注目を浴びたケイ・トラルウスとの激闘を不本意な形で勝利を収めてから一週間ほどの時が経過した。その間、周囲から色々と質問攻めにされまくった俺ことローク・アレアスは憔悴し切っていた。


「いないって言ってたのはやっぱり嘘だったんだな!」


『やっぱり邪霊と契約してるのッ!?』


『隠すようなヤバい精霊と契約しているの!?』


 保健室であったような質問をここ一週間、延々と繰り返しされてはその度に否定の言葉を口にしていた。けれど否定されたらされたで彼らは……。


『分かった、分かった。そういう設定な』


『大丈夫よ、邪霊と契約してても私は貴方の味方だから』


『やはり事情があるのね……』


 そう言って彼らは勝手に理解した表情を浮かべながら颯爽と俺の前から去っていく。恐らく彼らは質問という形式こそ立っているが、実際のところ自分の中で結論を出しており、その確信となる言葉を俺から聞きたいだけなのだろう。そして聞けなかったら聞けなかったで勝手に曲解して自身の結論にもっていく。


 もう勘弁してくれ。

 俺に聞く意味ないだろ、それ。




「…………疲れた」


 人気の無い校舎の裏にあるベンチにて燃え尽きている俺は死んだ目で空を見上げる。雲一つない晴天の青空を見ているとこのまま鳥になって空に飛び去ってしまいたいと思えてくる。


 こういう誤解を解く為の勇気のカミングアウトをしたつもりなのに結果は何故か真逆に進んでしまった。いや、俺自身は契約精霊はいないとアピールしている分、前よりは気楽ではあるし、周囲からの視線も好意的なものが増えた気はするのだが……それはそれとして状況は悪化の一途を辿っている気がしてならない。


 とはいえ本人である俺が否定しているのに全く信じて貰えないのでは解決のしようもない。本当にどうすりゃ良いんだ。


「はぁ……」


 気付けば深いため息が漏れていた。

 何故、試験と学位戦という山場を越えたのに俺は達成感では無く疲労感に満ちているのだろうか……。


「前期最後の学位戦を勝利で終えた男の顔には見えないな」


「……あん?」


 ボケーッと空を眺め続けていると聞き慣れた声が聞こえてきた為、俺が気怠げに視線を向けると見慣れた褐色肌のイケメン、ガレスが視界に入った。


「やあ」


「何か用か?」 


「まぁ、用事があって会いに来たんだけど………思ったよりも疲れてるみたいだね」


「そりゃな、連日質問攻めを受ければこうもなるだろ」


 俺の言葉にガレスは苦笑を浮かべる。


「あの学位戦は何かと話題になっているから仕方ないね」


「まぁ、だよな……」


 自分で言うのもなんだが今回はあのトラルウスが相手な上に簡易契約とはいえ邪霊を使役して戦ったのだ。話題にならない方がおかしい。


「先生方にも色々聞かれたんだろ?」


「ああ、あの時間が一番堪えたよ」


 試合後、体調が回復したタイミングで教師陣に呼び出されて邪霊についての事情聴取を受けた。特にアルベルト先生に関しては柄になく興奮した様子で邪霊との出会いから簡易契約に至るまでのことを懇切丁寧に聞かれるし、本当に散々だった。


「契約精霊のことも話したのか?」


「今更隠しても仕方ないしな。尤も邪霊のことで頭が一杯だったみたいだけど……」


 上からすれば俺の契約精霊の有無よりも邪霊を使役したことが衝撃的だったのか、契約精霊のことは聞き流された感が否めない。


 いや、先生方が気にしないならそれで良いんけどさ……。


「まぁ、簡易契約とはいえ邪霊と正気のまま契約できる精霊師なんて前代未聞だからね。下手すると学院内どころか国中の騒ぎになるんじゃないかな?」


「マジでやめてくれ…。これ以上、俺の噂を流さないでくれ……」



 揶揄うような口調のガレスにロークは顔を手で覆いながら嘆く。

 国中に噂が広まったりしたらどんなことになるか、想像しただけで恐ろしい。そもそも学院内ですら噂が正しく広まらず、尾ひれが付きまくっているというのに国中なんて言ったらどんな噂になるか分かったものではない。



「さて、そんな何かと大変な君に更に悪い知らせが一つある」


「さっき言ってた用事か…」


 何だろうか。何かやったっけ?

 思い当たることが多すぎて全然分からない。



「明日、委員会会議だって。君、出席しなきゃだろ?」


「…………あっ」



 すっかり忘れていた。




*****


 多くの若き精霊師たちが在籍するユートレア学院には多種多様な委員会が存在している。その筆頭として挙げられるのは学院の運営を担当する学生たちの代表である生徒会、学院内にいる問題児の取り締まりや有事には外部の問題の対処を担当する風紀委員会などだろう。


 これらの委員会をはじめとして成績上位者には何処かの委員会への所属を学院から推奨されている。決して強制という訳では無いが内申点や一部講義の免除など相応のメリットが存在している為、多くの者は何処かしらの委員会に所属している。実際にミーシャやロクスレイなどはそれぞれ生徒会や風紀委員会に所属してそれぞれ長を務めている。


 無論、俺も例外では無い。

 尤も生徒会や風紀委員会など業務がハードな委員会からの誘いは断り、なるべく業務が少なく楽な委員会を探して俺は所属した。


 その結果—————。


「それでは委員会会議を始めます」


 学院内の講義室を貸し切って始まった委員会会議。

 ズラリと各委員会の代表者たち二人がそれぞれ自身の委員会の名前が書かれたプレートに腰掛ける中、俺も彼らと同じく自身の所属する委員会、霊輪祭実行委員会という名称が書かれた席へと腰掛けていた。


「それではまず、生徒会からの連絡からですが————」


「いやぁ、後輩くん。今日も眠いねぇ」


「委員長、ちゃんと話を聞いてないと怒られますよ?」


 ミーシャから連絡事項が説明される中、隣の席に腰掛ける女性から声を掛けられた俺は面倒臭げに言い返す。目元を黒い目隠しで覆い、桃色の髪を揺らし、どこかミステリアスな雰囲気を放つ彼女はネイ・キャリオン。この霊輪祭実行委員会の委員長を務める、三年生の先輩である。


「えー、だって本当なら私はもう引退している予定なのにぃ、君が委員長を拒否するからこうなってるんでしょぉ?」


「委員長なんて絶対嫌ですよ…」


「良いじゃん、別にこれといった活動もしてないんだしさぁ」


 机の上に顔を乗せながらネイ先輩はどこか拗ねた口調で呟く。そんな先輩の威厳を感じさせない彼女の態度に俺は呆れた表情を浮かべる。


 霊輪祭実行委員会。

 名前だけ聞けば仰々しいかも知れないが実際のところはただ学院内で行われる体育祭の運営である。しかもここ数年は大した活動もしていない実質、名前だけの委員会だ。

 というのも霊輪祭は一応、体育祭という形式を取っているがその内容は普通の学校のような運動はなく基本的には学位戦と同じように精霊を呼び出しての試合が主な内容なのだが、成績にもならないのに試合なんてしたくないという実技が苦手な学生達の猛反発によりここ数年は開催が見送られている。


 まぁ、これは反対意見だけが原因ではなくて霊輪祭への学生達の参加率が元々悪かったとか費用の問題とかも関係しているが………とにかく俺にとって大切なのは霊輪祭が行われないということは年一のメインイベントを行わないのでほぼ何も活動をしなくて良いということだ。


 そのお陰でネイ先輩も渋々ながらも委員長として今だに在籍してくれて俺は補佐という扱いだし本当にいいポジションに付けたものだ。我ながら素晴らしいとしか言いようがない。


「では、生徒会からは以上です。次に各委員会からの業務報告をお願いします」


「風紀委員会は前回の賊の侵入の一件以降、戦力向上の為に空いている時間で特別訓練を行っている。次の長期休みの際にも合宿訓練を——————」


「保健委員会では引き続き治癒術の訓練、それから養護教諭の負担を減らすために保健室にシフトを作って保健委員の—————」


 生徒会からの連絡が終わり、次に各委員会からそれぞれ業務報告が上がってくる。俺はその内容を聞き流しながらみんな大変だなと他人事のように内心で呟く。特に風紀委員会など前回の襲撃で風紀委員が壊滅状態に陥ったこともあり、ロクスレイによる強化合宿が予定されているらしい。アイツに扱かれる合宿なんて聞いているだけで恐ろしくなる、絶対に参加したくない。


「それでは次、霊輪祭実行委員会からお願いします」


「はーい」


 とそんなことを思っているといつの間にか俺たちの順番が回ってきた為、のほほんとした声でネイ先輩が立ち上がる。


「霊輪祭実行委員会ではぁ、今回も全学年にアンケートで霊輪祭の参加の可否を取ったところ不参加が半数近くになっていますので霊輪祭の実行は見送ろうかと思ってまぁす」


 話を聞きながら多分、みんな霊輪祭好きじゃないんだろうなと俺は思う。休日を潰される上に霊輪祭のカリキュラム上、人によっては見学だけで一日を終える者もいる。そりゃ、根本的に内容でも見直さない限りみんな参加しないだろう。


 まぁ、考えるのも実行するのも面倒臭いから別にいいのだが…………。



「そのことですが……」


 とそこで今まで報告に対して淡々と相槌を打って頷いていたミーシャが手元の資料を確認しながらその動きを一時的に止める。


 何事かと目を細める俺に対してミーシャは静かな、けれども講義室に響き渡る鈴のような声で予想外の言葉で口にした。


「今年の霊輪祭に関しては開催する方向で話を進めて下さい」



「…………へ?」


 ミーシャの言葉に対して思わず素っ頓狂な声を漏らす俺の横でネイ先輩は困ったんだが楽しんでんだかよく分からない声音で「あらら〜」と漏らしている。


「霊輪祭を開催しない理由は提出して頂いた資料からも理解しています。けれど霊輪祭はユートレア学院の設立当初から行われている伝統的な行事です、私が生徒会長に就任したからには是非、再開させたいと思います」


「けどぉ、相変わらず反対意見も多いですしぃ、現状のまま開催しても参加率は凄く低くなると思いますよぉ」


「無論、それは承知です。ですが反対意見があるから開催しないという訳ではなく、その意見を取り入れた上で学生の皆さんが霊輪祭を楽しめるように考えることが大切ではないでしょうか?」


「………」


 何か文句言って霊輪祭の開催を回避しようと考えるが、ミーシャの言うことが正論過ぎて何も言い返せない。


「ですから実行委員会の皆さんには霊輪祭で行われる競技を全体的に見直して頂きたいと思います。無論、必要な道具なども現在の予算内で足りなければ追加も検討します。その上で再びアンケートを取って頂き、そのアンケートの可否率をもって改めて開催の有無の最終決定を下そうと考えています。如何でしょうか?」


 うーん。ヤバい。 

 話を聞いている凄く忙しくなりそうだ。


 いや、けどどうせ委員長であるネイ先輩が適当に————


「分かりましたぁ、でしたらロークくんたち二年生を中心にこちらで考えてみますぅ」


「よろしくお願いします」


「えっ、ちょっ……」


 コイツしれっと押し付けやがった。


「それでは次の————」


「という訳でロークくん、よろしくぅ」


 ミーシャが霊輪祭実行委員会から次の委員会へと意識を向けたタイミングでネイ先輩が口角上げながらロークに声を掛けてくる。


「やってくれましたね」


「だって私もう引退だしぃ、本来ならロークくんが担当することでしょ〜?」


「ぐっ」


「頑張ってねぇ〜」


 ネイ先輩のゆる〜い声を聞きながら俺は脳内予定が全て委員会の文字で書き換えられていくのを感じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロークって三年生じゃないのか
[気になる点] 「目を細める」とは「嬉しさで笑みを浮かべる」という意味の慣用句です。愛らしい子供の姿や可愛らしい小動物などを見た時などに使います。怒りや不快感、心配事を表す時に使うのは誤用で、その場合…
[一言] 一番面倒なポジションにされてる
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