第111話
「ぐッ!」
咄嗟にオーウェンが庇うように霊装で防御を試みるが、尾を止めることは叶わずそのまま弾き飛ばされる。
「きゃぁああッ!?」
『グォオッ!?』
「ぐぁッ!」
「くッ」
オーウェンが壁になったとはいえ、それでも充分な威力を保って振るわれる尾に対して回避行動が間に合わなかった精霊たちは勢いよく吹っ飛ばされてしまう。
「銀騎士ッ!」
『———』
激しい衝撃によってサラマンダーの背から落下しかけるレイアとケイに対してロクスレイは銀騎士から作り出した鎖で素早く二人の身体を拘束するとそのまま思いっ切り引っ張り、サラマンダーの背へと戻す。
「あ、ありがとうございます」
「礼は良い。それよりも———」
感謝するレイアがロクスレイに感謝を述べている間にも、再びアぺプスの尻尾がサラマンダーたちを目掛けて振り下ろされる。
「謳え、お前たちッ!」
視界を覆う黒い鱗に覆われた巨大な尾を前にしてケイは霊装である指揮棒を構え自らの契約精霊たちに指示を出す。
「カンタータッ!」
滑らかに音楽が奏でられる中、迫ってきた尾の軌道が不自然に逸れ、サラマンダーへの直撃を回避することに成功する。
「なんで尻尾が空から生えてるんだよ!?」
レイアたちが追撃を受けている間に態勢を立て直したロークは、クロの背に戻りながら目の前の不気味な光景を見つめながら叫ぶ。
空に広がる闇から生えた尾が見える一方でアぺプスの上半身は大地に存在している。
けれど周囲を見回たしても本来そこにある筈の尻尾と上半身の間を繋ぐアぺプスの身体がどこにも見当たらない。
それこそ胴体が分離でもしていないと説明がつかない状態だった。
「あの空と地面の闇、繋がっているんじゃないか?」
ロークと同じくクロの背に戻ったガレスは上空の尾と地上にいるアぺプスの姿を確認しながら仮説を口にする。
確かにその仮説なら今のアぺプスの状態も納得できるが……。
「一体、どういう霊術なんだ?」
「考えるだけ無駄さ。伝承の邪霊だぞ」
ロークの言葉にガレスは投げやりに答える。
深く考える余裕もなければそもそも目の前の攻撃一つ一つへの対処で精一杯だった。
『カァアアアッ!』
そんな二人の会話を遮るようにアぺプスの声が響き、空と大地から溢れるようにして生み出された闇が無数の弾丸となって放たれる。
「くっ!」
「範囲が広過ぎるぞッ!」
前方に広がる闇の弾幕を前にして防御の霊術を繰り出そうとするロークに先んじてミーシャが霊術を行使する。
「ホーリーレイ」
ミーシャの指示の下、両手の間に霊力を凝縮した光球を生み出すとそのまま弾幕に向かって解き放つ。
放たれた光球はまるで爆弾の如く膨れ上がると眩い光を放ちながら拡散し、迫ってくる闇の悉くをその極光によって掻き消した。
『ほう……あの獅子の男と言い、良い光だ』
自身の霊術が完璧に防がれたことにアぺプスはその金色の瞳を僅かに広げるとミーシャに対して賞賛の声を漏らした。
「伝説の邪霊にそう言って頂けるとは光栄ですね」
『伝説か、どうやら今の世で私は随分と大層な扱いを受けているようだな?』
僅かに息を乱しながらのミーシャの返事にアぺプスはその金色の瞳を細めながらどこか興味深げに呟く。
「ええ、貴方の名は英雄アーサーが倒し切れなかった四体の邪霊の内の一体として歴史書で貴方の名が乗っていない本は無いでしょうね」
尾の一撃を受け止めようとしたことで腕に鈍い痛みを覚えるオーウェンはそれを欠片も表情には出さず、淡々とした口調でアぺプスに答える
『ハッ、英雄か。あの小僧も随分と出世したものだな』
「…………」
説明を聞いてどこか呆れと懐かしさが入り混じったかのような声音でアーサーのことを小僧呼ばわりするアぺプスにロークはある種の感慨を覚える。
———そうか……。今、俺は物語の中の英雄が戦った相手と戦っているのか。
アーサー伝記の山場。
イーヴァンと彼が従える四凶たちとの決戦。
かつて読んで胸を熱くした描写。
幼いながらにいつか自分もこんな英雄のようになりたいと憧れたワンシーン。
憧れの英雄である彼がかつて見ていたであろう光景をこうして目にしている。その事実にロークはこの危機的状況にも関わらず、心が僅かに高揚していくのを感じた。
『……あの小僧を英雄と呼ぶのは業腹だが、あえて聞こう』
そんなロークを他所にアぺプスはその全身から今までの比じゃないほどの禍々しい霊力を放ちながら重々しく口を開く。
『万全からは程遠いとはいえ、英雄ですら倒し切れなかった私を果たしてお前たちは倒すことはできるか?』
「……ッ!」
「くッ」
その問いと共に放たれる伝説の邪霊の威圧感にレイアは勿論、ミーシャやオーウェンまでもが怯む。
その中ただ一人、行動を起こしている人物がいた。
アぺプスの問いに応じるようにロークは広げた依代から傷を回復させた剣精霊の柄を握り締め、簡易契約を結びながら腰を低くして構えを取る。
「ローク?」
刀身から漏れる重低音と黒い霊力。
アぺプスに気圧されていたリリーはそこでロークの様子に気付き、その表情を見て目を見開く。
「重剣・轟ッ!!」
『……ッ!?』
重苦しい沈黙を斬り裂くが如く気合の声と共に放たれた突き。
刀身から放たれた霊力の砲弾は真っ直ぐにアぺプスの下顎に直撃し、その首を大きく仰け反らせた。
「ローク、お前……」
「上等だ、冥闇龍アぺプスッ!」
驚くガレスの声など聞こえていないと言わんばかりに、ロークは不敵な笑みを浮かべながらハッキリと告げる。
「俺たちがアーサーに代わってお前をぶっ倒してやるよッ!!」
『☆×$ッ! &△○ッ!』
かつて読んだ物語の再現。
憧れの主人公の如く吠えたロークに呼応するようにクロが「そうだ! やってやるッ!」と言わんばかりに声を上げる。
その様子にミーシャたちが驚きで身体を硬直させる中、アぺプスの狂笑が戦場に響き渡った。
『———クハハッ! よくぞほざいたッ!』
場を包む気配が変わった。
ロークの啖呵に対して態勢を立て直したアぺプスは場を覆いかけていた恐怖が今の発言によって晴れていくのを感じながら歓喜の声と共に闇を解き放つ。
闇が勢いよく渦を巻いて柱を形成する中、剣を構えるロークの姿にアぺプスは脳裏にかつて死闘を繰り広げた英雄の姿を過らせながら叫ぶ。
『ならば、やってみせろッ!』
「ああ、やってやるよッ! 」
売り言葉に買い言葉。伝説の邪霊と少年の言い合いが終わり、戦いが再開する。
ロークの返事を聞き、ボルテージを上げたアぺプスは生み出した渦を自らの姿を覆い隠すほどの巨大な竜巻へと変じさせるとそのまま解き放った。
******
「……やべ、随分とデカいのがきたな」
ゆっくりと、けれど確実に迫ってくる闇の霊力を帯びた巨大な竜巻を前にしてロークは冷や汗を流しながら呟く。
物語の英雄を思い出して勢いよく啖呵を切ったはいいが、どうやらさっそく伝説の洗礼を浴びることになりそうだ。
「……なかなか良い啖呵だったけど、どうやらあっちもギアを上げてきたようだね。どうする?」
「……なら、こっちはギア全開だッ! クロッ!!」
『☆○&#ッ!』
迫ってくる黒い竜巻を前にして、ロークは弱音を投げ捨てるとそう叫びながら剣を上段に構えるとクロと共に刀身に霊力を注ぐ。
再び響き渡る重低音。剣に宿る霊力が増していくにつれて刀身が黒い輝きも強くなる。
「重剣・神楽ッ!!」
やがて霊力を溜め終えたロークは一歩足を踏み出すと先程の倍以上の霊力が込められた剣を勢いよく振り下ろした。
放たれた黒い斬撃は迫ってくる竜巻に衝突し、轟音を響かせながら周囲に闇をまき散らす。
「チィッ!」
全力の斬撃を放ち、息を切らすロークは完全に打ち消すことのできなかった眼前の霊術を見て苦い表情を浮かべる。
「なら、もう一度だ」
ロークはそう呟きながら再び剣を構える。
放った一撃は消滅こそさせられなかったが竜巻の勢いを大きく削ぐことには成功している。
もう一発当てれば———ッ!
「ここは私に任せて下さいッ!!」
再び霊力を溜めようとするロークは上から聞こえて来た声にその動きを止める。
声の方へと視線を向ければバサリと翼を広げながらクロの側に降り立つ赤竜、サラマンダーとその背に乗るレイア、ケイ、ロクスレイの三人の姿が視界に入る。
「いけるのか?」
「はい、勿論です!」
戦意を漲らせながら頷くレイア。
その瞳から恐怖の色は見て取れず、ただ目の前の難敵を打ち破らんとする精霊師の強い意志のみを感じ取ることができた。
「高火力は私の得意分野ッ! 竜の一撃で撃ち抜いて見せますッ!!」
『グォオオオッ!』
レイアのその言葉に応じるようにサラマンダーは咆哮を上げ、その口腔に膨大な霊力の込められた炎を溜める。
「分かった、なら代わりにデカいのをぶちかましてくれッ!」
「はいッ!」
自らの両手にも大量の霊力を集め、術式を構築したレイアはロークの言葉に力強い返事をしながら霊術を発動させた。
「双竜火葬ッ!」
レイアの両手から竜の顎を模る炎が生み出されたかと思うとサラマンダーと共に竜巻に向かって熱線を解き放つ。
二つの熱線は勢いの弱まっていた竜巻を焼き貫くとそのまま後方に控えていたアぺプスへと直撃した。
「流石だな」
自分の攻撃で勢いが弱まっていたとはいえ、いとも容易くアぺプスの霊術を貫いたレイアの霊術にロークは賞賛の声を漏らさずにはいられなかった。
「くっ」
けれどそんなロークとは対照的に霊術を放つレイアの表情は険しかった。
その理由は彼女の視界の先、自身の霊術を喰らいながら怯む様子をまるで見せないアぺプスの様子にあった。
『ガァアアッ!』
響き渡る冥闇龍の咆哮。高位精霊ですら喰らえばひとたまりもない霊術を前にして回避をする素振りすら見せなかったアぺプスは凝縮された闇を前面に展開した障壁によって熱線を完全に受け止めていた。
それどころか、アぺプスはレイアとサラマンダーの放った熱線を受け止めながらロークたちへと向かって突進を仕掛けた。
「ッ!」
熱線に全く怯む気配のないアぺプスにレイアは更なる霊力を込めて迎撃を試みるが、それでも勢いが止まる気配はまるで無かった。
「ここは俺たちで防ぐ」
ならばと剣を構えるロークとガレスを制するように動いたのはロクスレイだった。
ロクスレイによって霊力を与えられた銀騎士はその姿を変化さえ、剣や槍、戦斧、鞭、大鎌、メイスといった様々な武器の集合体のような不気味な姿に変化する。
「君たちばかり格好付けさせてはいられないからねッ!」
次いでケイの叫びに応じて荘厳な音色を響かせながらセイレーンが歌い出し、銀騎士が変化した武装たちが淡い光を放ち始める。
「銀装百式・煌刃乱舞ッ!」
ケイの霊術によって光属性の霊力を付与された銀の武装たちが、一斉にアぺプスに向かって振り下ろされる。
『ぬうッ!』
放たれる武器の数々に対してアぺプスは更に障壁を展開することで防御するが、熱線を防いでいることもあり、遂にその動きを止めてしまう。
「やはり硬いな」
「けれど、動きは止められた」
押し切れないことに顔を顰めるロクスレイに対してケイはそう呟きながら指揮棒を振り上げ、更なる霊術を放とうとする。
「私を忘れないで下さい」
けれどケイに先んじて上空からアぺプスの頭部を目掛けて降り注いできた光槍がアぺプスの闇の防御を突き破る。
『ガッ』
その黒い鱗に槍が直撃した衝撃によってアぺプスは地面に広がる闇の海へと落下し、そのまま中に沈んで見えなくなった。
「いいとこ取りかい?」
「それを言うなら一番いいところは持っていったのはローク・アレアスでしょう?」
不満げに呟くケイに対して霊装化に生えた白い翼を羽ばたかせながら降り立つミーシャは揶揄うような口ぶりでそう言うとロークに視線を向ける。
「ハッ、それはそうだ」
「間違いないね」
「確かにな」
「お前ら、馬鹿にしてる?」
ケイを筆頭に同意の返事を口々に漏らす仲間たちの様子にロークが頬を引き攣らせているとリリーに「どんまい」と肩に手を置かれる。
レイアも何か「私は……と思い……」と言っているが、ボソボソとした声で聞き取ることができない。何て言ったのかを聞き返そうと思っているとそのタイミングで今度はミーシャが口を開いた。
「そんなことはありません、本当にカッコイイと思っていますよ」
ミーシャのその言葉を聞いたロークが視線を向けると案の定と言うべきか、楽しげに微笑んでいる彼女の笑顔があった。
———絶対に馬鹿にしてやがる。
「ふむ、まるで信じられないと言わんばかりの表情ですね」
「実際そうだろ」
「誤解を解きたいところですが……」
「そんな話をしている余裕はないな」
ロークはそう答えながらミーシャと共にアぺプスが潜った闇の海へと視線を向ける。
あのアぺプスの巨体が存在しているとは思えないほど凪いでいる闇の様子にロークは違和感を覚える。
「ローク・アレアス。先程の尾の攻撃、覚えていますね?」
「ああ……」
ミーシャの言葉にロークは頷きながら視線を上へと向ける。
案の定、上空に広がっている闇がまるで液体のように波紋を広げたかと思うとアぺプスの巨体が飛び出した。
「援護はお願いします」
「おいッ!」
ミーシャはロークにそう言うと返事も聞かずに翼を広げて飛び立ち、アぺプスに向かって槍を突き立てる。
『ガァアアッ!!』
対するアぺプスも雄叫びを上げると向かってくるミーシャにその鋭い牙を突き立てんと顎を大きく開く。
「はぁあああッ!」
『シャァァアアッ!!』
闇と光の霊力が上空で激しく衝突する中、精霊師と精霊たちは援護の霊術を放つ。
炎の槍、雷撃、そして銀色に輝く無数の武器が四方八方からアぺプスへと迫り、彼が全身に展開した障壁に衝突する。
『ハハハッ! なかなか苛烈だなッ!』
ミーシャたちの攻勢の悉く防ぎながらアぺプスは楽しげに叫ぶ。
放たれた刃と霊術は障壁によって防がれるが、周囲の防御を意識したことにより正面に展開されている障壁の闇が僅かに綻びる。
「重剣——」
アぺプスが抱いている慢心。
そこから生まれた防御の僅かな隙を見抜いたロークは素早く剣を構えると闇を帯びて黒く染まる剣先をアぺプスへと向ける。
「——破轟ッ!!」
『ぬぅッ!』
突きと共に刀身から勢いよく放たれる漆黒の重力波がミーシャの真横を通り過ぎてアぺプスの障壁に衝突する。鈍い音を響かせながらアぺプスを覆う闇が重力波によって少しずつ散らされ、障壁に穴が形成される。
「行け、ミーシャッ!」
「ええッ!」
『ッ!』
ロークの声に返事をしたミーシャは翼を大きく広げて一度、後方に退くと障壁の修復を試みるアぺプスに霊装の穂先を向ける。
「ミカエルッ!」
ミーシャの呼び掛けに応じるように構えた霊装に膨大な霊力が込められ、その穂先が極光を放ったところで障壁の脆い部分を目掛けて霊術を発動させる。
「貫け、天槍ッ!」
『———ッ!?』
漆黒を照らす眩い光を放った次の瞬間、槍から放たれた閃光が障壁の一部を勢いよく貫き、そのままアぺプスの右目と頭部の一部を思いっきり抉り取る。
『グォオオッ!?』
閃光と共に血飛沫と肉片が宙を舞い、纏っていた闇が霧散する中、アぺプスの苦しげな悲鳴が響き渡る。
「効いてる!」
「流石ですッ!」
本来であれば送還されてもおかしくないほどの一撃を受けているにも関わらず、未だ健在であることは恐ろしいが、その一方でこれまでの攻撃に対してダメージを受けている様子を見せなかったアぺプスが明確に苦しむ様子を見せたことに周りから希望の声が漏れる。
『ガァアアッ!?』
弱点である光の霊術を頭部に受けたことで激痛に苛まれるアぺプスは叫び声を上げながらその巨体を闇雲に振り回す。
「くッ!」
風切り音を響かせながら縦横無尽に暴れ回る黒い巨体。
ただ意味もなく身を捩らせるだけだというのにその威力は凄まじく、全力の一撃を放った直後で動きが鈍っていたミーシャはその巨体によって弾き落されてしまう。
「ミーシャッ!」
ロークは落ちていくミーシャを霊術で自身に向けて引き寄せるとそのまま彼女の華奢な身体を抱き寄せる。
「大丈夫かッ!?」
「ええ、お陰様で」
ロークの声にミーシャは気丈に微笑みながら答える。
ただ流石に消耗が激しいようで霊装化が解けてミーシャは普段の学生服姿へと戻ってしまった。
「とはいえ、ミカエルを再び呼ぶには少し時間が掛かりますね……」
「ああ、ちょっと休んどけ。その間は———」
「ローク、来るぞ!」
ミーシャを労らっているとガレスの鋭い警告が耳に入る。
「ッ!」
弾かれるようにして顔を上げればロクスレイが放った銀騎士の拘束を振り解き、その黒い尾をこちらに向けて勢いよく振り下ろすのが見えた。
「クロ、避けろッ!」
銀騎士がバラバラになって宙に飛散してしまう中、上空から迫ってくる尾にロークはクロに回避行動を指示する。
『△$●ッ!』
応じたクロはそのヒレを大きく羽ばたかると迫ってきた尾の一撃を回避し、そのまま上昇。アぺプスの頭上を取ることに成功する。
「ここは僕が仕掛ける。援護してくれ」
「ああ、分かった」
「私も援護する」
ロークとリリーの返事を聞いたガレスはクロの背から勢いよく飛び降りると腕の契約紋を輝かせ、ベオウルフを呼び出す。
「行くぞ、ベオウルフッ!」
『グルルッ!』
主人の声に応じて雄叫びを上げるベオウルフは宙に氷塊を生み出すとそこを足場にしながら跳躍を繰り返し、アぺプスへと迫っていく。
『ォォオオオッ!』
狂乱するアぺプスは闇雲に闇を放つがクロの背からロークとリリーが霊術で迎撃し、その中を縫って進むベオウルフの背でガレスは魔剣を構えるとその刃に雷を溜めながらゆっくりと振り上げる。
『ガウッ!』
雷鳴が響き渡る中、一際高く跳躍したベオウルフはアぺプスを目前にして巨大な氷剣を生み出すと柄をがっしりと咥え込む。
「はぁあああッ!」
『ガァアアッ!!』
気合の声と共に振るわれる雷と氷の刃。迫りくる危機を前にしてアぺプスの残った金色の瞳に理性が宿る。
『———————』
それまでの乱雑な動きから一転。迫ってくる刃に対して冷静に身体を捻り、斬撃を回避するとそのままカウンターでガレスとベオウルフを弾き飛ばす。
「ぐッ!?」
『ガァッ!?』
明確な意志の籠った反撃に対してガレスとベオウルフは防御も間に合わず大地に広がる闇に向かって勢いよく落ちていく。
「ガレスッ!」
ロークは咄嗟に霊術で落下するガレスたちを引き寄せようとするが、そのタイミングで闇を凝縮した霊力の弾丸が全方位に向けて一斉に放たれる。
「くッ!」
咄嗟にクロが迫ってきた霊術を躱すが、急なクロの動きに対してミーシャを抱えるロークは上手くガレスを捉えることができなかった。
「ロークッ!」
「分かってるッ!」
普段の様子とはかけ離れたリリーの切羽詰まった声にロークも声を荒げながら応じる。
サラマンダーもサンダーバードもアぺプスの霊術に対して回避に精一杯でガレスの救助に向かえそうな様子では無い。
故にロークは自分が助けなければと再度、霊術でガレスを捉えようとするがその直後、激しい揺れに襲われる。
「ぐおッ!?」
『×▼#ッ』
見ればアぺプスの巨体が頭上を通り過ぎており、一拍置いて咄嗟にクロが障壁を張って防御してくれたことを理解する。
「クソッ!」
ロークは舌打ちを漏らしながら咄嗟にミーシャとリリーを抱き寄せる。
その様子に回避を止めたオーウェンが被弾を覚悟でサンダーバードと共に救援に向けおうとするが、そんな彼らを一網打尽にせんと舞い上がったアぺプスが霊術を放とうと口腔に闇を溜める。
「———ッ」
「くッ!」
『ガァアアアッ!!』
禍々しい光を放ちながら口腔に溜めた闇を解き放つ霊力。
防御も回避もままならない状況で誰もがその表情を絶望で染める中、ただ一人、鋭い瞳でアぺプスを見つめるケイはゆっくりと口を開いた。
「英雄賛歌 英雄の舟」
上空から破滅をもたらす闇が迫ってくる中、響き渡る精霊たちの讃美歌と共に周囲一帯が眩い光に包まれた。




