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真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます  作者: アラサム


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第110話

「ミカエルッ!」


『———ッ!』


 迫ってくる闇に対してミーシャの叫びに応じ、天使がその翼を広げて周囲に結界を展開して防御を試みる。


「幽炎・斬華」


 天使が結界を展開するよりも更に早く、一歩前に出たオーウェンは紫炎を灯した刃を勢いよく薙ぐ。


 刃から放たれた紫炎の斬撃がまるで華を咲かせるが如く広範囲へと広がっていき、迫ってきた闇と衝突してその侵攻をせき止めることに成功するが、それも一瞬。紫炎の華は闇を焼き尽くすには及ばず、数秒も経った頃には闇に飲み込まれて散ってしまう。


「こちらへ!」


 けれど、その霊術によって生み出された僅かな時間によって結界を完成させたミーシャはオーウェンに結界内へと入るように叫ぶ。


 オーウェンはその言葉に従い、素早くミーシャの形成した結界内へと避難するとその直後に迫ってきた闇が結界に衝突する。


「くッ!」


 結界が音を響かせながら軋む中、ミーシャは険しい表情を浮かべ、天使と共に結界を維持する為に霊力を注ぎ込む。


 それでも激しい音を響かせながら少しずつ罅割れが生まれていく結界を見て、このままではやられるのは時間の問題だとロークはこの状況を打開する手立てを考える。


『ガァアアッ!』


 けれどもそんな時間は与えないと言わんばかりに闇の奔流の中からアぺプスのおどろおどろしい雄叫びが聞こえてくる。


 その声を聞いたロークは素早く依代を広げる。


「クロッ!」


『〇×$#!』


 今すぐこの場から離れる必要がある。

 アぺプスの雄叫びを耳にして直感的にそう感じ取ったロークはクロを呼び出して簡易契約を結ぶとそのまま霊術を行使する。


「二人とも、上に飛ばすんで気を付けて下さいッ!」


 ロークはそう言うと返事を聞く前に霊術によってミーシャと天使、オーウェンを闇が薄い上空に向かって勢いよく吹っ飛ばす。


『ガァッ!』


 直後、前方の闇の中から大顎を大きく開いたアぺプスが姿を現す。

 そのまま結界ごとこちらを飲み込まんと迫ってくるアぺプスに対して、ロークは手にした剣精霊に霊力を込めながら構える。



「雷襲ッ!」


 そして結界が砕けたタイミングでロークは跳躍。

 全身に雷を纏いながらアぺプスの鼻頭を目掛けて斬撃を振るうが、纏う闇に刃を受け止められてしまう。


「くッ!」


 霧のようなその形状とは裏腹に腕に伝わってくる衝撃はまるで鋼鉄に斬り掛かったかのような感覚であり、思わず顔を顰める。


『シャアアァァッ!』


「ぐおッ!」


 甲高い声を響かせたアぺプスはそのまま速度を緩めるず闇を纏いながらロークと共に廃神殿の壁へと勢いよく衝突する。


 轟音が幾度となく響き渡り、何枚もの壁を突き破ったアぺプスはそのままロークと共に廃神殿の外へと飛び出す。


「うわッ!?」


 そのまま瓦礫と共に吹っ飛んでいたロークは唐突に自身の身体が上空に引っ張り上げられる感覚に襲われる。


『□@#ッ!』


「クロか……ッ!」


 どうやらアぺプスが作り出した天井の穴から追ってきたらしいクロが霊術で助けてくれたらしく、その身体の上に着地したロークは感謝を告げる。


「助かったぞ」


「〇◇&●♪」


『シャァッ!』


 喜びも束の間、アぺプスは身体をくねらせると上空へと退避したロークを目掛けてその尾を勢いよく薙ぐ。


「クロ、障壁を!」


『▼#□*ッ!』


 大きくしなりながら迫ってくる巨大な尾に対して回避が間に合わないと判断したロークの指示に応じたクロは自身とロークを囲うように障壁を作り出すが、尾の一撃を完全に防ぎ切ることはできず、そのまま地面に向かって叩き落される。


『ッ!』


 しかし、地面にぶつかる寸前で態勢を立て直すことに成功したクロは地面スレスレを飛びながら再び宙に舞い上がる。


「よくや———なッ!?」


 そんなクロを褒めようとしたロークは眼下に広がる光景を視認して息を呑む。



 海だ。

 まるで黒い海の様だった。



 廃神殿から溢れ出した闇が辺りにいた邪霊たちごとこの一帯を飲み込むように広がりっており、気付けば大地が黒一色に染め上げられていた。


「みんなはッ⁉」


 あまりの衝撃に言葉を失っていたロークは我に返るなり、すぐに仲間たちの姿を探すがその姿を見つけることができない。


 ———まさか、あの闇に飲まれて……ッ!


 最悪の可能性が脳裏を過る中、どこかから「ロークッ!」と自分の名を叫ぶ声が耳に入った。


「どこに———ッ!」


 ロークは声を元に周辺を探す。

 すると闇から逃れんと大地を走るベオウルフの背に乗るガレスとリリーの姿を視認し、迷わず霊術を行使した。


 ベオウルフの巨体が浮かび上がり、そのまま宙に浮かび上がる。

 その直後、先程までベオウルフが駆けていた地面が闇に飲み込まれた。


「すまない、助かった」


「センキュー」


「礼は良い。それより怪我は?」


 感謝よりも二人の状態が気になるロークがそうガレスは苦笑を浮かべながら「問題無い」と首を横に振る。


「そんな心配しなくても僕たちは大丈夫だよ。それより他のみんなは……」


「ああ、他のみんなも探して———」


 ロークの呟くに応じるようにして竜の鳴き声が三人の耳に入る。


「レイアッ! それに委員長にトラルウスもッ!」


 歓喜の声を漏らすロークの視線の先、そこにはサラマンダーの背に乗ったレイアとロクスレイ、そしてその手元から伸びた銀色の縄に縛られているケイの姿があった。


「ローク先輩、無事だったんですねッ!」


「ねぇ、助けてくれたことには感謝しているけど少し雑じゃないかい?」


「文句を言うな、突き落とすぞ」


 ロークの姿を確認して安堵の息を漏らすレイア。

 対してロクスレイとケイはこんな状況であっても普段通りの様子で言い合いをしていた。


「とりあえず、持ち上げるぞ」


「おお、気が利くね。ありがとう」


 そんな二人の様子を眺めながら万が一にも落ちたら怖いなと思ったロークが霊術でケイの身体を持ち上げてサラマンダーの背へと運んだ。


「他の人たちは?」


「すみません。分かりません」


「正直、少し離れた場所で戦っていたコイツを咄嗟に回収するのが精一杯だったからな。無事を祈るしか———ッ!」


 この場にいない王国精霊師たちはどうなったのか、その安否を気になるところであったがそれを気にしている余裕は無かった。


 全員を襲う死の予感。跳ねるように見上げれば空を覆うようにしてロークたちを見下ろすアぺプスがその口腔から黒い光を輝かせながら何かを放とうとしていた。


 アレを喰らってはいけない。


 主人が指示をするまでもなく同じく危機感を抱いていた精霊たちが回避行動を取ろうとする中、アぺプスの巨大な頭部が不自然に揺れる。


天剣ヴォーパルソード


「幽炎・断頭」


『———ッ‼』


 アぺプスのさらに上から振り下ろされる光の剣と紫炎の刃。

 再び纏う闇が防御に入るが完全な防御は不可能だったらしく、衝撃によって口腔が閉じたことで霊術が暴発、口から煙が漏れ出る。


「ちょっとは効いたかな?」


「だと良いですが……」


 いつの間に復活したのか、バサリと青い翼を羽ばたかせるサンダーバードの背に乗るオーウェンと天使に抱えられているミーシャが呟く。


 どうやら今回の一撃は闇の防御を突破したらしく、二人の攻撃を受けたと思わしきアぺプスの頭部には血が滲んでいた。


「…………」


 その光景にミーシャは静かに安堵の息を漏らす。

 アぺプス討伐の要である筈のゼルが現状どうなっているかが分からない状況だ。



 となれば光属性を扱える自分が攻撃の要になるのが必定となった今、火力不足でダメージを与えられませんでしたなんて状況では目も当てられない。


『———やるじゃないか』


 ミーシャがそう思っているとアぺプスの口から賞賛の声が漏れた。


 今だに煙が漏れている口が重々しく開かれるが、そこから音を発している様子はなく念話のように語り掛けるアぺプスはその金色の瞳で周囲を見回す。


『あの獅子の男の姿が見えず、つまらないと思っていたが存外、楽しめそうだな』


「獅子の男……お父様?」


 獅子の言葉に反応を示すレイアを無視して一通り敵を確認したアぺプスは最後にその瞳をロークとクロへと向ける。


『……にしても我が同胞がそちらと手を組むとはな』


『…………』


 特に何も反応せずに無言を貫くクロに対して『まぁいい』と特に気分を害した様子もなく呟いたアぺプスはその長身を伸ばして空高く舞い上がる。


『歯応えがあるのならば、誰が相手だろうと大歓迎だ』


 その言葉と共にアぺプスが咆哮を上げると空に黒い球が生まれ、ガラテアの時と同じように空が闇に覆われる。


「来るぞッ!」


 辺り一帯が夜の如く暗くなる中、オーウェンの警告が響き渡る。見れば闇を纏ったアぺプスがロークたちを目掛けて勢いよく落下してきていた。


 精霊たちはそれぞれ回避行動を取って躱すことに成功するが、アぺプスは勢いを落とすことなく、そのまま下に広がる闇の中にその巨体を潜らせてしまった。


「あの中って潜れるのかい?」


「俺が知る訳、無いだろ……」


 ガレスの疑問にロークは投げやりに答える。

 どう考えてもあの闇の海にアぺプスの巨体を容量は無い筈だが、もはや真面目に考えたところで無駄だろう。


 相手は四凶の一角、どんな霊術を行使してきても不思議じゃない。


「それより一旦、ベオウルフを戻せ。二人ともこっちに乗せるから」


 ロークはアぺプスが潜った黒海を油断なく眺めながらガレスにそう言う。



 クロの使役に加えてガレスたちを浮かせる為に霊力を消耗させられている。今はまだ問題ないが、この状態が続くとなると流石にマズい。


「ああ、分かった」


 頷いたガレスがベオウルフを一時的に送還させたのを確認するとロークは二人を霊術でクロの背へと移動させる。


「まさか邪霊にこうして乗れる日が来るとは……」


「おお~」


「契約を結べる内ならいつでも乗せてやるから、それより来るぞ!」


 どこか感動した様子でクロを触る二人にそう答えていたロークは闇が波打つのに気付き、迎撃の構えを取る。


『シャァアアアッ!!』


 直後、闇飛沫を上げながら地面から姿を現したアぺプスがロークたちを喰らわんと輝く牙を見せ付けながら襲い掛かってくる。


「ガレス、飛び込むぞッ!」


「後でしっかりキャッチしてくれるんだろうなッ!?」


 手にした双剣が雷を帯びるのを見て動きを察したガレスは一抹の不安を抱きながらも共にクロの背から跳び立つ。


「先輩ッ!?」


「二人とも!」


「クロ、やれッ!」


 驚きの声を漏らす周囲の声を背にしながら落ちる二人はクロの霊術によって加速しながらそれぞれ手にした剣を雷と共に振り下ろす。


「「はぁあああッ!」」


『———ッ!』



 雷鳴と共に二人の斬撃がアぺプスの纏う闇と衝突する。


 大気を震わせる衝撃と共に互いの霊力が周辺に弾け飛んでいく。



『ハハハッ! まだ軽いなッ!』


「クソッ! 硬ぇッ!」


「ぐッ! キツイな!」


 クロの霊術による加速も利用した一撃にも関わらず、怯むどころか余裕そうに笑うアぺプスにロークが顔を歪めていると背後から雷鳴を耳にする。


「ごー」


『ブォォオオッ!』


 覇気のない主人の指示とは対照的に、気合の籠った雄叫びを上げながら宙に呼び出されたミノタウロスはそのまま落下すると雷を纏った戦斧を力一杯に振り下ろす。


『ぬうッ!』


 二人の斬撃に重なるようにして振るわれた高位精霊の一撃。

 流石のアぺプスも重みを感じたらしく、その頭部が僅かに揺らいだ。


「魔剣開放、雷公絶破らいこうぜっぱッ!」


 そしてここが押し時だと判断したガレスは魔剣に霊力を注ぎ込むとその刀身から大量の雷を解き放つ。辺り一帯が雷光に包まれて一時的に昼間のように明るくなる中、サンダーバードの甲高い鳴き声が響き渡った。


「ダメ押しだ」


『キィイイッ!』


『グォッ!?』


 バサリと翼を折り畳んだサンダーバードは勢いよく急降下するとそのまま雷を纏いながらアぺプスを目掛けて突進を敢行。


 更なる追加の雷撃にアぺプスは遂に態勢を崩すとその長身をくの字に曲げる。


『——ッ! 面白いッ!!』


『△○$ッ!』


 雷を払うように頭を振るったアぺプスの楽しげな声が響き渡る中、バサリと翼を広げて上昇するサンダーバード。それに続くようにクロによってロークとガレス、ミノタウロスもアぺプスから逃げるべく浮上した。


「ふぅ、何とか迎撃できたが……」


「次やる時はもっと事前に話してくれ。本当に……」


『ブルル!』


 限界を迎えて送還させる剣精霊を見つめるロークに疲労感を漂わせながらガレスがそう呟くと、側でミノタウロスがまだまだやれるぞと言わんばかりに戦意を滲ませる。


 尤もその直後に「一時撤退」と呟いたリリーによってミノタウロスは送還されてしまったが……。


「四人掛かりでこれか」


 

 一方でサンダーバードの上でオーウェンは四人掛かりで攻撃を仕掛けてようやく怯ませる程度の軽傷しか負わせられなかったこの結果に顔を顰めていた。


 卓越した剣技を持つ二人の斬撃と高位精霊二体による雷撃、加えてクロによるバックアップまであってコレだ。


 このままではこちらが先にバテる。

 どうにかこの状況を打開しようと思考を巡らせていたオーウェンは翳りが自らの身体を覆うことに気付く。

 


「———避けろッ!」


 オーウェンが叫ぶと同時に上空から生えた巨大な尾が宙にいる精霊師たちを目掛けて薙ぎ払われた。


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