第108話
「これはこれは、リベル学院の生徒会長じゃないか。いや、元かな?」
「……ケイ・トラルウスか」
襲い掛かってくる邪霊を霊術で一掃していたケイはその中で一際強い気配を放つ邪霊に攻撃を仕掛けようとしたところでその側にいる少年、ユーマ・シュレーフトの存在に気付いた。
「演武祭の時に感じた気配と表彰式にいなかったことと言い、何となく察してはいたけどまさかここで会うことになるとはね」
「お互い様だ。俺もお前とここで会うことになるとは思っていなかった」
ユーマの側で唸り声を上げる黒竜、クロムの姿を見たケイは口角を上げながらゆっくりと指揮棒を構える。
「丁度良かった。邪霊とはいえ、思ったより歯ごたえのない奴ばかりだと思っていたところだったんだ」
「………」
ケイの言葉に応じるようにユーマが鋭くなり、クロムの身体から黒い霊力が漏れ出していく。
「あの時は結局、最後まで戦えなかったからね。良ければ一戦どうかな?」
「……いいだろう。来い」
『ガァアアッ!』
「ah——!」
クロムの咆哮とセイレーンの荒々しい歌声が辺り一帯に響き渡り、二つの巨大な霊力が衝突した。
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「ヴァルハート、キツくなったら無理せずにすぐに言えよ」
「はい、ありがとうございます」
レイアはロクスレイのその気遣いに感謝しながら邪霊たちと激しい戦いを繰り広げている彼に視線を向ける。
銀騎士から生み出した剣を片手にロークに勝るとも劣らない動きで迫ってくる邪霊たちを捌くロクスレイ。背後から迫ってくる邪霊にも銀騎士がその身体を瞬時に拘束し、その直後にロクスレイはその頭に剣を突き立て、あっという間に送還させてしまった。
———凄い。
かつてホーンテッドとの戦いを見てその実力は把握していたつもりだったが、こうして戦っている姿を見ているとまだ彼の実力を理解しきれていないと思わざるを得なかった。
———私も負けていられないッ!
「サラマンダー、焼き払ってッ!」
『ガァアアッ!』
レイアを背に乗せたサラマンダーはその指示に従って眼下邪霊たちを纏めて焼き払わんと口腔から凝集した霊力を込めた業火を吐き出す。
かつて高位邪霊であるクロやホーンテッドと戦ってきたレイアにとって目の前の一、二つ霊位が下であろう邪霊たちなど恐れるに足りない相手だった。
「フッ、なかなか心強いな」
そんなレイアの様子にロクスレイは自然と笑みを浮かべながそう呟く。
入学したての頃のレイアは実力こそあれど、どこか頼りなさを感じるところがあった。
けれど今の彼女からはそれがまるで感じられず、その成長具合にロクスレイは感心せずにはいられなかった。
「ヴァルハート、風紀委員会に入るつもりはないか?」
「え、何故いきなり……」
「お前なら委員長の座も狙えるぞ。この戦いが終わったら是非、検討してくれ」
「は、はい……」
いきなりのヘッドハンティングにレイアは動揺しながらもまずは目の前の敵を倒そうと素早く思考を切り替ると後方から襲い掛かってきた邪霊に霊術をお見舞いするのだった。
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外でレイアたちが奮戦している中、ビブリア廃神殿へと入ったロークたちはその内部を駆け足で進んでいた。
「まさか、またここに足を運ぶことになるとはな」
「そういえば、前回のビブリア廃神殿の調査も貴方にお願いしましたね」
「ああ、とはいえ状況の悪さはあの時と比べもにならないけどな」
ミーシャの言葉に、ロークは顔を顰めながらどこか愚痴るように呟く。
あの時と違って今回は封印されているアジ・ダハーカが復活間近である上に万全では無いながらもアぺプスまで控えている。
恐らく最悪一歩手前くらいの状況と言って良いだろう。
「まさかこんなことになるとはなぁ……」
そして前回の調査を共に行ったカイルもロークの言葉に苦笑を浮かべながら同意する。
尤も同じくアルベルトも調査として共にここに足を運んでいたことを考えると全て彼の計画通りなのだろうが……。
「ああ、本当にね。けれど、だからこそこの先は絶対に阻止しなくちゃいけない」
「ええ、オーウェン・リブリアさんの言う通りです。何としてもアぺプスをここで討ち、アジ・ダハーカの復活を止めなければなりません」
「……ん?」
決意の籠ったオーウェンとミーシャの言葉に改めて今回の任務の重要性と厳しさを実感していたロークは奥の方から激しい戦闘音と同時に巨大な霊力を感じる。
「ゼルさんが戦っているようだね、急ごう」
霊力の質から戦っている人物が誰かを察したオーウェンがそう言いながら速度を上げ、他のメンバーも頷きながらその背中を追う。
やがて戦闘音が大きくなっていくのを感じながら通路を抜け、広々とした空間に足を踏み入れた。
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最初に視界に入ったのは今回の目的であるアジ・ダハーカの封印術式が刻まれた方陣と、その側で何かを行っているアルベルトと、ボラーと呼ばれていた褐色の肌を持つ禿頭の精霊師、そしてそんな二人を守るように立つ仮面の精霊師デヤン。
そして———。
「ぉぉおおッ!」
「ハハハッ!」
ゼル・ヴァルハートが放つ金色の炎を纏った拳とホーンテッドが振るう赤色の剣が衝突し、火花を散らす姿がロークたちの視界に入った。
「フッ!」
「くッ!」
『グォオオ!』
力任せに剣を振るわれたことで弾き飛ばされたゼルに間を開けず、頭上から三体の人狼の邪霊たちが飛び掛かっていく。
「はぁああッ!」
『ッ⁉』
対するゼルは気合の叫びと共にその全身から金色の炎を放つとその炎圧によって飛び掛かってきた邪霊たちを思いっきり吹き飛ばした。
「血刀・戒罰」
『グォオオオッ!』
ならばとホーンテッドはゼルに向けて霊力を帯びた紅の斬撃を飛ばすが、その間に金色の獣毛を生やした獅子が割って入り、炎を帯びた咆哮と共に斬撃を打ち消した。
「はぁ、はぁ……」
「流石は筆頭精霊師の立場を持つだけある。俺たちを相手に一歩も引かないか」
「本当に面倒な男だ」
息を切らしながら攻撃を全て凌いでみせたゼルに対してホーンテッドは賞賛の言葉を漏らし、その後方で三体の人狼の邪霊たちの主人である男、デヤンはため息を漏らす。
「まぁ、けどこの調子なら問題無く……おや」
「やれやれ、援軍まで来たか」
「二人とも来てくれたか……って、どうしてミーシャ様とアレアス君がッ⁉」
ホーンテッドとデヤンに僅かに遅れて援軍の存在に気付いたゼルはオーウェンとカイルの姿に安堵するが、次の瞬間にはその後ろにいるミーシャとロークを確認して驚愕の声を漏らす。
「二人とも戦力になると判断してのことです」
「けれど、だからといって二人を……」
オーウェンの考えに理解を示しながらもゼルはこの危険な戦場に学生を連れてきたことに難色を示す。
「隙だらけだ」
その様子を見ていたデヤンは敵を目の前にして気を逸らしたゼルへと人狼邪霊の一体を即座に嗾ける。指示に従い、勢いよく駆け出した人狼邪霊はそのままゼルへと襲い掛かるが、その牙が届く前に割って入ったロークの回し蹴りが直撃する。
「ふんッ!」
『ギャンッ!』
そのままくの字に曲がる人狼邪霊を力いっぱい蹴り飛ばしたロークは地面に着地するとホーンテッドたちを一瞥するとゼルに声を掛ける。
「俺も精霊師です。覚悟を決めてここに足を運んでいます」
「…………」
「一人の精霊師として貴方と一緒に戦わせて下さい」
静かに話を聞くゼルに対してロークはその顔を見上げながら力強い声で言うと同じく側に近付いてきたミーシャも同意しながら天使を呼び出す。
「ローク・アレアスの言う通りです。立場も年齢も関係ありません。どうやら今はアぺプスもいない様子、この好機を逃さない為にも皆が一丸となって戦う時ですよ、ゼル」
「………そうですね。その通りだ」
二人の言葉を聞いたゼルは静かに頷くと次の瞬間、全身から溢れ出んばかりの霊力を放ち始めた。
「レグルスッ!」
『ガァッ!』
驚く周囲を気にすることなくゼルは自らの契約精霊の名を呼ぶと応じた獅子はその姿を光へと変えて主人の元へと回帰する。
「精霊の霊装化か……」
「俺、あの人の霊装を見たことないんだけど、どんな感じなの?」
眩い光に包まれたゼルの様子に方陣から視線を外したアルベルトが面倒そうに呟くと興味津々といった様子のホーンテッドが霊装について尋ねる。
「ゼル・ヴァルハートの霊装化は自らの精霊を鎧として身に纏う」
「それで防御力が上がるだけって訳じゃないよね?」
ホーンテッドの質問にアルベルトは「当然だ」と頷く。
「そもそも勘違いされているが、ゼル・ヴァルハートの『炎獅子』の二つ名は彼の精霊によって付けられた訳じゃない」
アルベルトがそう呟く中、ゼルを覆っていた光が弱まっていき今まで隠れていたその姿が露になっていく。
「霊装を纏って戦うその姿から与えられた二つ名だ」
「…………」
ガシャリと金属音を鳴らしながらゼル・ヴァルハートはその姿を晒す。
全身を覆う獅子の意匠が刻まれた金色の鎧に背中の辺りまで伸びた赤色と銀色の交じった髪、そしてその身体の周りには金色の炎が常に纏わり付くかのように揺らいでいた。
「ミーシャ様、ローク君」
ゆっくりと構えを取るゼルはそう言って二人の名を呼ぶと口元に笑みを浮かべながら力強く告げる。
「共に勝とう」
そう呟いた瞬間、ゼルの姿がブレたかと思えば前方から轟音が響き渡る。
ロークが慌てて音の響いた方に顔を向けると拳を振るったゼルとその拳を受けて後方の壁まで殴り飛ばされながら血を吐き出すホーンテッドの姿が視界に入った。
「かはッ⁉」
拳を受けたホーンテッドを含めて初撃への反応が遅れたデヤンたちが僅かに遅れて迎撃に移ろうとするが、その動きに先んじてカイルとオーウェンが動き出した。
勢いよく駆け出したカイルはゼルに向けて霊術を放とうとするデヤンに向けて一切の遠慮なく霊装である槍を突き出した。
『ガルルッ!』
「チッ!」
けれど槍は咄嗟に主人を庇って前に出た人狼邪霊によってその軌道を逸らされ、その間にデヤンはゼルに向けて放とうとしていた霊術をカイルに向ける。
足元の影から伸びた黒槍を放とうとするが、その寸前で素早く態勢を立て直したカイルよる薙ぎ払いによって黒槍が砕かれてしまう。
「久しぶりだな、仮面野郎。あの時の決着、付けようぜ」
「……調子に乗るなよ」
槍を突きつけてくるカイルにデヤンは不愉快そうな表情を浮かべながら三体の契約邪霊を嗾けるのだった。




