第107話
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「今更だけど、みんな無事だったんだな」
サラマンダーでの移動中、ロークは自らの身体に霊力強壮剤を打ち込みながら姿の見えなかったガレスとリリー、ロクスレイの三人に声を掛ける。
「ああ、何事かと思ったけどロクスレイたち風紀委員会が避難誘導を始めるっていうからそれに協力していたんだ」
「同じく」
ガレスと共に一緒にいたらしいリリーは彼の説明にそう付け加える。
「ミーシャ様からの素早い指示があったからな、こっちもすぐに動くことができた」
「流石だな」
実際、ロクスレイが風紀委員を率いて救助活動を行っていたお陰で都市の被害は随分と抑えられた。
ミーシャの指示があってこそかも知れないが、それでも見事と言わざるを得ない。
「ええ、貴方には感謝しています。風紀委員長」
「いや、まだ感謝には早い」
礼を述べるミーシャに対してロクスレイはそう返しながら視線を前方へと向ける。
「四凶をここで倒すことができなければ都市の人々が脅威に晒され続ける。あの化物を倒すまでは感謝の言葉を受け取る訳にはいかない」
「相変わらず生真面目だなぁ、折角のミーシャ様からの感謝の言葉くらい素直に受け取ればいいのに」
「そういうお前は色々と雑過ぎる」
やれやれと呆れた様子で呟くケイに対してロクスレイは煩わしそうに言い返す。
二人は互いの性格もあって相性が悪く、合えば何かと衝突することが多い。尤も大体はケイの方に問題があるのだが………。
「まぁまぁ、二人とも。これから協力して戦うことになるんだから、そんないがみ合わずに……」
「コイツと協力するのか……」
ガレスがそう言って二人を宥めようとするとロクスレイはどこか嫌そうな表情を浮かべながらケイに視線を向ける。
「ハハハ、足を引っ張らないでくれよ? 風紀委員長」
「こっちの台詞だ、不良学生」
「お前ら、ここで火花を散らさないでくれ。後輩がビビっているぞ」
二人の放つ威圧感にビクリとレイアが身体を震わせていえることに気付いたロークが呆れ気味に止めに入る。
「おっと、レイアさんを怖がらせるつもりは無かった。申し訳ない」
「すまないな、ヴァルハート」
二人が、後輩がビビっていると聞いて威圧感を消しながら謝罪の言葉を口にするとレイアは苦笑を浮かべながら「いえ、それよりも……」と気になっていたことを口にする。
「それより皆さん、これから四凶と戦うことになるのに落ち着いていますよね。恥ずかしながら私は緊張してしまっているのですが………」
レイアは内心これからの戦いに対する恐怖や不安、緊張など覚えているがロークたちからまるでその様子が見られないことに驚いていた。
「……確かにみんな落ち着いているな」
「君も落ち着いているじゃないか」
レイアの指摘にロークが同意しているとガレスからそう突っ込まれる。
確かに傍から見ていると今のロークは普段とあまり変わらないように見える。
「まぁな」
嘘である。
実際のところ今のロークの心境は普段とはかけ離れた状態だった。
———帰りたい。
ずっと心臓はバクバク鳴っているし、頭の中ではどうして一緒に行くなんて言ってしまったのだろうと自らの言動をずっと後悔し続けていた。
いや、原因は分かっている。
格好付けたせいである。ミーシャが保健室で王族の貫録をこれでもかと見せ付けながらアぺプスに立ち向かう意志を示したからである。
流石にそんなミーシャの姿を見て「そうか、頑張ってな!」と見送ることができなかったロークは勢いで自分も参加すると言ってしまい、そして最終的に引くに引けなくなってしまった。
———というか、なんでコイツらこんな落ち着いているんだ? 怖くないのか?
そんな内心、ビビり散らかしているロークはケイやロクスレイを始めとして他のメンバーが普段通り会話をしている畏怖さえ覚えていた。
とはいえ、自分だけビビっているのをカミングアウトするのは恥ずかしかったのでこうして誤魔化してしまった。
「流石だね。僕は結構、ビビっているけど」
「え、そうなの? 全然普段通りじゃん」
「ただやせ我慢しているだけだよ。貴族として情けない姿は晒せないからね」
———え、お前もやせ我慢してたの?
苦笑交じりにそう答えるガレスにロークは驚いていると「当然だ」とロクスレイが擁護するように頷く。
「伝説の邪霊との戦いだ。恐怖を抱かない方がどうかしてる」
「僕も恐怖とまでは言わないけど、緊張はしているよ。流石にね」
ロクスレイに続いてケイまでもがガレスに同意を示したことにロークはお前らもかよッ!? と更なる驚きを覚える。
「そうですね。闇冥龍アぺプスに挑むのですから、恐怖を抱くことを恥じる必要は無いと思います。それに正直言えば私も少し怖いですし」
「私も怖い」
そう言って笑うミーシャに乗じて欠片も怖さを感じていなさそうな真顔で頷くリリーの言葉を聞き、ロークはやっぱりみんな少なからずビビっているんだなと考えを改める。
「………」
みんなの本音を聞き終えたロークはふと気付く。
———これ、俺だけビビってないみたくなってね?
見栄を張ってビビっていないアピールをしてしまったロークはこの状況に嫌な予感を覚える。
「流石、ローク先輩です」
「ああ、いい根性している」
すると案の定と言うべきか、ロークの言葉を間に受けたレイアが敬意の交じった言葉を漏らし、ロクスレイからも流石だという反応される。
これはマズい。
「あ、いや、待って。実は———」
「流石はローク・アレアス。頼りにしているよ」
咄嗟にロークは誤解を解こうと試みるが、それに先んじたケイからそんな信頼の言葉を口にされたことで妨害されてしまう。
なんて間の悪いと思いながらケイに視線を向けたロークはニヤリと笑みを浮かべるその表情から確信犯であることを察する。
———コイツうッ! 揶揄いやがってッ!
「ハハハ」
こちらのやり取りに苦笑を浮かべているガレスにロークは助けを求めるようとして前方から放たれる禍々しい気配にその表情を変える。
「これは……」
「いよいよですね」
邪霊が持つ特有の気配を感じ取り、全員が緊迫した表情を浮かべる中、ミーシャは静かに呟く。
「全員、もうビブリア廃神殿が近いッ! 気を引き締めるようにッ!!」
するとサラマンダーの前を飛ぶサンダーバードに乗るオーウェンからも警告が入り、ミーシャは全員を見渡しながら口を開く。
「皆さん、敵は強大ではありますが全員無事で———」
「「それ、フラグだ(です)」」
ミーシャの言葉を言い切らせる前にロークとガレスはそう言って止めるとケイとロクスレイはうんうんと頷き、レイアとリリーは不思議そうに首を傾げるのだった。
******
「見えましたッ! あそこですッ!」
ビブリア廃神殿の周辺で幾つもの大きな霊力が衝突しているのを感じながら身構えていたロークは、レイアのその叫びに素早く反応する。
「おいおい……」
見ればビブリア廃神殿の周囲には何体もの邪霊たちと精霊たちが激しく衝突しており、辺り一帯は見事に荒れ果てている。加えてよく見れば王国の精霊師らしき人々が倒れているのが視界に入り、ロークは焦燥感を覚える。
「結界班がやられてるッ! 突っ込むぞッ!!」
けれどオーウェンの抱く焦燥感はそれ以上であり、被害状況を見るやサンダーバードに指示を出すとカイルと共にビブリア廃神殿に向かって急降下していく。
「ヴァルハートさん、私たちもッ!」
「は、はいッ! 皆さん、しっかりサラマンダーに捕まっていて下さいッ! 一気に降りますッ!!」
ミーシャの指示に従ったレイアは全員にサラマンダーにしがみ付くよう伝えるとそのままサンダーバードに続くように降下態勢に入る。
『ガァアアッ!』
サラマンダーは雄叫びを上げるとその翼をバサリと大きく広げ、そのまま勢いよく降下していく。
『ギィッ!』
『ガァッ!』
「邪魔はさせません」
その途中、降下してきたサラマンダーに向かって二体の邪霊が地上から襲い掛かってくるが、ミーシャが契約紋を輝かせながら天使を呼び出して迎撃する。
『——ッ!』
『ギッ!?』
『ガッ!?』
白い羽が宙を舞い、現れた麗しき天使はその両手に光剣を生み出すと向かってきた邪霊たちを瞬く間に斬り裂き、送還させる。
「よし、行くぞッ!」
その間にロークたちは地面へと着地したサラマンダーの背から降り立つと、彼以外の全員がそれぞれ契約精霊を呼び出す。
「ロークとミーシャ様は僕たちとこのまま廃神殿の中へッ! 残りはこの場で他の精霊師たちの支援を!」
「気を付けて」
「ばーい」
「ああ、ガレスとリリーもな」
近くにいたガレスとリリーの二人と互いの健闘を祈りながら別れを告げるとロークはオーウェンたちと共に廃神殿の奥へ向かって駆け出す。
「よし、頑張ろうか」
「おー」
リリーと気合を入れていたガレスは邪霊の気配を感じて魔剣を構える。
『グォオオオッ!』
巨大な嘴と黒い翼を広げた邪霊は雄叫びを上げるとそのまま勢いよくガレスに向かって突進を仕掛けてきた。
『ブモォォオオッ!』
けれど、その突進はガレスに直撃する直前で彼の前に躍り出たリリーの契約精霊であるミノタウロスによってあえなく受け止められてしまう。
そのままミノタウロスの腕で拘束されそうなった邪霊は鉤爪をその筋骨隆々の身体に突き立て暴れて離脱しようと試みるが、唐突に鈍くなるのを感じた。
『ギィッ!?』
何事かと自分の身体に異常を覚えた邪霊はそこで自身の翼がカチコチに凍り付いていることに気付くが、その時には手遅れだった。
『グルル』
「よくやった。ミノタウロス、ベオウルフ」
ミノタウロスの影から姿を現したベオウルフが口から冷気を漏らす中、その主人であるガレスは二体の精霊を労いながら跳躍。ミノタウロスの巨体を飛び越えるとそのまま魔剣を上段から勢いよく振り下ろす。
「フンッ!」
『ギッ———』
身体を抑え付けられ、翼を凍らされた邪霊にガレスの一撃を躱す術は無く、そのまま魔剣によって真っ二つに斬り裂かれた。
「いえーい」
「はいはい」
手を伸ばすリリーに応じてハイタッチを交わすガレスは邪霊の強さに対して僅かに安堵を漏らしていた。確かに強力な邪霊もいるようだが、見たところその多くは中位と高位の間ほどの強さのようだ。
これならば思ったよりも役に立てそうだ。ガレスがそう思っていると王国の精霊師たちの驚きと困惑の入り混じった声が聞こえてきた。
「オーウェンさんの連れてきた援軍って学生じゃないかッ!?」
「けど状況が状況だ、情けないがこのまま一緒に戦って貰うしかないぞッ!」
「皆さんの足は引っ張りません! 一緒に戦わせて下さいッ!」
そう言いながら襲ってきた邪霊の一撃を魔剣で受け止めるガレスの姿に精霊師の男はその素性を察した。
「その魔剣、オーロット家の子だなッ! 今は有難くその好意に甘えさせて貰う! このまま邪霊の撃退を手伝ってくれッ!」
「はいッ!」
精霊師の男は話し終えると雷をその身に纏い、邪霊たちの群れへ突撃していく。ガレスはその後ろ姿を見送ると邪霊との戦闘に入るのだった。




