猫には猫の事情がある その1
ミケはうっすらと目を開けた。
もうすぐ小鳥が目覚め、騒ぎ出す時間だ。
大きなアクビをすると、ウンヌと立ち上がる。
猫背をこれでもかというほど丸めるかのように体を丸め、今度は逆に弓なりになる。
前足をめいっぱい伸ばして。
「うううう~にゃん! 今日も絶好調!」
そう言って、朝の毛繕いを始める。
ぺろり、ぺろぺろ。
べろ、ぺろぺろぺろ。
「身だしなみは大切ニャン!」
さてと、すがすがしい夜明け前、東雲の時刻だにゃん!
いったい何時までご主人様は寝ていんのさ!
そう思い、ベットに床から思いっきりジャンプをした。
ボフン!
その音とともに 「ウグッ!」 というくぐもった声が聞こえた。
「ふんむ! 今日も見事に鳩尾に的中にゃん!」
そう呟くと同時に、不機嫌なご主人の声がきこえた。
「お前な~!! 毎朝、毎朝・・、はぁ、今、何時だ?」
そう言ってご主人様は時計とかいう物を見て、また頭から布団を被ろうとした。
だが、そうは問屋がおろさない。
「お、重い・・。」
ご主人はそう言って布団を被ろうと悪あがきをした。
やがて、ずるずると布団は引き上げられ、頭をすっぽりと隠した。
暫くすると、寝息が聞こえる。
ふふんだ、一人だけ気持ち良さそうに寝て・・・。
そうは問屋がまたしても卸さないかんね。
それによ、これよ、これ!!
「ねぇねぇねぇ! 起きなって!」
「うううう・・・。」
「お、き・ろぉ! ナォナォナォ!」
どうじゃ、私のキュウティな、このボイス。
ほれぼれとするでしょ?
「う、うるさいなぁ! まだ4時すぎ! 眠いの、私は!」
「なぁなぁなぁ! ご・は・ん! ごはん! ごはんなの!
ごはんが欲しいの!」
「う・・、う、ううう、うるしゃい!」
何故かへんに唸った後、ご主人は突然布団の上の私をムンズと捕まえた。
「え?」
そして有無を言わさず、布団の中に引っ張り込む。
ああ、そういう事?
ご主人は腕枕をしてくれるのね・・。
納得したミケはご主人の脇の二の腕、いや、腕の付け根あたりを枕にした。
「あ、これ、気持ちいいかも!」
ミケはそう思うと、ゴロゴロ、ゴロゴロ、と、喉を鳴らし始める。
そしてなんとなく、直ぐ近くにあるご主人を覗き込む。
「あ、肌荒れみっけ!
ミケだけにみっけなの!
まったくお肌のお手入れ怠るんだもの・・、仕方ないわね。」
そう言ってミケはベロンとご主人の頬をなめた。
「うぎゃぁ~! い、痛い! お、お前なぁ~・・・・、はぁ・・。」
一瞬起きかけたご主人は、そう言うとまた目をつむる。
「ねぇねぇ、あまり寝過ぎるとよくニャイぞ?」
今度はやさしくペロリと舐める。
ご主人は無言だ。
それじゃあと、やさしくペロペロ、ペロペロ・・・。
あ、悦に入ってきた。
ゴロゴロ、ゴロゴロ・・。
どうしても喉がなるのよね。
で、ペロペロ、ペロペロ・・・。
あああああ、もう我慢できない!
カプっ!
おもわず顎の辺りを噛んだ。
「痛い! な、なんてことをするの! この子は!」
そう言ってご主人は睨む。
ま、まずい、これは、まずいかも、怒っている?
あ、やっぱ、怒っているよね!
で、でもね、これは猫の習性なの!
なんか気持ちよくなってくると、何か噛みたくなるんだもの!
それに丁度噛みやすいんだよね、顎・・・。
だ、だから謝って耳を畳んでるじゃない、許してよ!
まったく包容力、心の広さが無いんだから、ご主人様は!
し、しかたない、足下へ待避、と。
布団に頭から突っ込む、この醍醐味!
大好きよぉ~!
よいしょ、よいしょ・・。
この布団、重たいのよね、布団がふっとんだとか人間は言うけど、あれ、嘘ね。
ほんとうに人間は嘘吐くんだから~・・。
と、いけない通り過ぎるところだった。
ほら、横になった足をどけなさいよ、向こうにいけないじゃない。
「・・・・。」
あ、そう、足を持ち上げてくれないのね、いいわよ、そっちがその気なら。
「えい!」
そう言ってミケは冷たい肉球をご主人のふくらはぎにペタリと当てた。
「うわぁぁあぁああ、つ、冷たい!」
ご主人は慌てて片足を上げた。
「そうよ、はじめからちゃんと通せばいいのよ。
ふん、いい気味にゃん!」
ごそごそと足の間を通り抜け、膝の後ろ辺りで丸くなる。
「ふ~、いい温度ねぇ、ここは。
寒くなく、暑くもない、ごくらく極楽。」
そう言ってミケは眠りにつくのであった。
イビキをかきながら。
愛でたし、めでたし。